第四部・第二十七話(第97話) 紅眼と微笑
黒い鎖が私を締め付け、力を奪っていく。
「……身体が……動かない……」
視界が暗く沈み、精霊の声も遠のいていった。
黒衣の祭司が声を張り上げる。
「供物は揃った! 紅眼と微笑を捧げよ! ナハシュ=ゼブルの降臨を!」
ルビヤが必死に叫ぶ。
「やめろぉぉぉ!」
彼女の紅い瞳が強く輝き、黒い鎖を焼き裂いた。
「アンタを供物になんてさせない!
私は“凶兆”なんかじゃない! この瞳は……親友を守るためにあるんだから!」
紅い瞳の光が広間を満たし、黒衣の影たちが呻き声を上げて後退する。
私はその姿を見つめ、心の底から震えた。
(ルビヤ……あんなに孤独を抱えてたのに、今は自分を誇っている)
私は深呼吸し、鎖に縛られたまま、ゆっくり顔を上げた。
「……そうね。私だって、逃げない」
口角を上げ、にぱぁっと笑みを浮かべる。
広間に一瞬、柔らかな光が溢れた。
「光だ……!?」黒衣の祭司が怯えの声をあげる。
「にぱぁスマイル……!」ルビヤが涙ぐんで笑った。
光は紅い瞳の輝きと重なり、互いに共鳴していく。
紅と白、二つの光が渦を巻き、黒い炎を押し返した。
「親友!」ルビヤが叫ぶ。
「私と一緒に……!」
「ええ!」
紅眼の閃光と、にぱぁスマイルの光が重なった瞬間――
どぉん!
黒い鎖が粉々に砕け散り、祭壇の呪具が次々と爆ぜて崩れた。
広間全体を覆っていた黒い炎が後退し、残党たちは絶叫を上げながら退散する。
最後に祭司が呪詛を吐き捨てた。
「愚か者ども……その笑みと瞳は必ず呪いとなる! ナハシュ=ゼブルは逃さぬ……!」
影が消え、静寂が戻る。
私は膝をつき、荒い息を吐いた。
「……危なかった……」
ルビヤが私の腕を抱き起こし、真っ直ぐ見つめる。
「アンタの笑顔があったから、私は力を出せたんだ。
だから……絶対に離れないで」
私は彼女の手を強く握り返す。
「もちろん。親友だもの」
紅い瞳が涙で潤み、にぱぁスマイルがそれを包み込んだ。
次回予告
第98話「砂漠の心臓」
儀式を阻止した一行は、ついに砂迷宮の最奥へ。
そこで待ち受けるのは、秘宝“星譜の心臓”と――ナハシュ=ゼブルの真なる影。




