第四部・第二十三話(第93話) 砂炎の回廊
迷宮の扉を抜けた瞬間、全身を焼き付ける熱風が襲った。
前方に広がるのは、赤く灼けた石造りの回廊。
壁や床の隙間から炎が吹き出し、まるで生き物のように踊っている。
「っつ……サウナなんてもんじゃないわね!」ルビヤが汗を拭う。
ライガは無言で剣を握り、炎の流れを凝視していた。
私は息を整え、星図盤を掲げる。
「……これはただの罠じゃない。精霊の力が暴走してるの」
足を踏み入れると、炎が蛇のように集まり、形を変えた。
炎の精霊体――フレイムサーペント。
全長十メートルの火の蛇が回廊を埋め尽くす。
「親友、どうする!」ライガが剣を振り構える。
「水も氷もない砂漠で炎退治って……無茶でしょ!」ルビヤが叫ぶ。
私は星図盤を強く握り、唇を噛んだ。
(炎は敵じゃない。精霊が暴走してるだけ。制御すればいい!)
私は目を閉じ、炎に意識を重ねた。
――我らは囚われている。黒き呪符に縛られ、暴れるしかない
「そうか……あなたたちは敵じゃない」
私は声を発し、仲間に叫んだ。
「時間を稼いで! 私が精霊を解放する!」
「了解!」ライガが前に出て炎の尾を受け止める。
「おおっと! 熱っつ……! 焼肉にされるとこだった!」ルビヤが拳で炎を弾く。
私は星図盤を地に叩きつけ、呪符の残滓を探った。
黒い紋章が床に浮かび上がり、炎の蛇を縛っていた。
「風よ、道を開け! 光よ、闇を裂け!」
光の奔流が黒い紋章を切り裂き、炎の蛇の身体を包んだ。
ぱぁぁっ――
轟音とともに炎は穏やかな光に変わり、やがて小さな火の精霊となって散っていった。
「ふぅ……助かった……」私は膝に手をついて息をつく。
ライガは剣を収め、苦笑した。
「親友。やはりお前は“斬る”より“救う”側だな」
ルビヤは髪を振り乱しながら文句を言う。
「熱風で髪がバサバサよ! 親友、今度は美容精霊でも呼んでちょうだい!」
「そんな便利精霊いないから!」私は吹き出してしまった。
静まった回廊の奥で、扉が開き、冷たい風が流れ込む。
「次は……もっと奥か」私は星図盤を見つめる。
(黒幕の気配が強くなってる。必ず辿り着いて、終わらせる!)
次回予告
第94話「影の牢獄」
迷宮の奥で発見された地下牢。
そこに囚われていたのは、かつて砂漠の民が“裏切り者”と呼んだ者たちだった――。




