とある娯楽(ショートショート)
魔族と人間の争う世界。その凄惨さを見かねた神が、全ての魔族に聖なる金冠を与えた。その品は魔族の残虐性を著しく抑える効果があり、神はそれをもって両種族への和解を勧告する。もちろん勧告とは言っても、神の宣託なのだから逆らうべくもない。
当初、人間側の大半は疑心暗鬼にさいなまれたが、神への信頼もあり推移を静観する主張が大勢を占めた。またそれに応えるように、魔族側も自らの残虐性を改める者が続出した。人間ばかりではなく、魔族にとっても神は絶対なのである。
それから百年。両種族は、まるで旧知の友のように親しく接する間柄となった。
「ふふっ。そろそろかな」
天界で、神が呟く。
「神様、おやめなさいまし。そんな残酷な事は」
神の計画を知る天使が、遠慮がちに諫める。
「馬鹿を言うな。こんな愉快な事を、今更やめられるわけなかろうが」
神のニヤつく顔を見て、天使はもう何も言わなかった。
「神の計画」
それは「何の効果もない金冠」を魔族に与え、神の名の元、さも効き目があるように暗示をかける。そして人間と魔族が最高に絆を深めた時点で、真実を暴露するのだ。
その後に何が起こるのか、神は楽しみでしょうがない。理不尽な仕打ちだが、全知全能である神の前に、人々は娯楽のコマに過ぎないのだ。
神という名の悪魔が手ぐすねを引く中、下界では両種族の交流百年周年を祝う、記念すべき式典が盛大に催されていた。
【終わり】