塔に閉じ込められた幼女は隣国の魔術師に助けられる。
幼女と鳥さんのお話です。
フィルガリア王国は豊かな土地と多くの国民が生活する王国だ。
国王は王妃と恋愛結婚をしたくさんの子供に恵まれた。第一王子、第二王子、第一王女、そして次に生まれてくるのは女の子と診断され2人目の王女に皆が喜んだ。
そうして生まれてきた王女がメリアだ、メリアは多くの魔力をもって生まれてきたがそれが災いになった。
初めは多くの魔力を持つ王女が産まれたと喜ばれたが、それは数日たってから一変した。
魔力が多すぎるが故に魔力暴走を起こしたのだ。
周囲のものを浮かせ飛ばして壊し、部屋中を氷ずけにし、雷を落とし、親も誰にも近ずけない赤ん坊となった。
勇敢な保母がミルクを与えることで育っていったが
その保母も手や足に大きな傷を負いながらなんとか育てていった。
王妃は魔力暴走で足を焼かれ片足を壊死することになる、それに激怒した国王が王女を塔の中に閉じ込める王命を出した。
5歳になるまでは保母がなんとか王に頼み込み育てようと尽力してくれ、王城で生活することが出来た
成長するにつれ魔力コントロールが出来るようになり、国の魔術師に魔力制御を教わり周囲に被害を加えることは無くなっていったが周りの目は変わらず、王妃の足を欠損させた化け物だと口々に囁きあった。
そして、今日の5歳の誕生日をもって塔に幽閉されることが決まった。
「あぁ、姫様おいたわしい、なぜこのような塔に閉じ込められなければならないのですか」
保母のアマンダだけは私の唯一の味方で、私の事を怖がらず親切にしてくれた人だ。
「いいのよ、最初から決まっていた事だし私は誰からも必要とされていないもの、この塔がお似合いだわ」
姫は魔力暴走させない為にも、感情を余り表に出さないようにコントロールしてきた。だから年に比べて大人びているし、幼い娘に似合わない無表情を浮かべている。
「姫様には1人の人間としての自由がございます、この国の王女として皆が守り育てていくのが普通ですのに」
アマンダは涙をぽろぽろと零しながら私の手を握ってくれる。
「あなたが居てくれてよかった、魔力を暴走させる私にあなたが怖がらずに接してくれたのが一番の幸せよ」
私はアマンダの大きな身体に抱きついた。アマンダは力強く抱きしめ返してくれた。
「姫様……どうかご無事で、御身をお大事にしてください」
うん、アマンダありがとう……。
「そろそろ時間だ姫を塔に連れていかせてもらう」
傍に立っていた騎士が姫とアマンダを引き離す
「そんな!まだ良いじゃないですかっ!」
「ダメだ、国王陛下からの命令だ」
「アマンダ、従いましょう」
「姫様っ!」
二人の騎士はアマンダを拘束し姫から引き剥がした。
後ろに控えていた騎士が姫を先導する。
「こちらです着いてきて下さい」
「はい、わかりました」
塔に向かって歩みを進める。
先導している騎士はこの小さな王女に対して哀れみを感じていた。
文句も言わず粛々と着いてくるまだ5歳の女の子。
自分の子供は遊び盛りの元気な頃でこの少女とは全然違う。感情を殺してそうあらざるを得なかった少女。
塔の中にある螺旋階段を登っていく。騎士は小さな身体でこの長い階段を登る姫の事を気遣ってスローペースで歩いた。
「着きました。」
「はぁはぁ、ありがとう」
小さな身体で長い螺旋階段を登ったことで姫は疲れでいたが気丈に振る舞っているようだった。
「姫にはこの部屋で過ごしていただきます」
板で出来た鍵付きのドア、傷んで今にも壊れそうだ
「食事は朝と昼、夜の3回です、何かあればお呼び下さい」
騎士は礼をして下がる
「あなたは…」
道中何も話さなかった姫が口を開いた
「あなたはここに待機しているの?ずっと?」
「見張りは日勤と夜勤で交代します、なので一日中ここで待機している訳ではございません」
「そう、申し訳ないわ騎士様の仕事が、私の見張りだなんて」
騎士ははっと驚いた顔をしてから直ぐに取り繕った。
「いえ、これも立派な業務ですのでお気になさらず」
「そう、ありがとう」
騎士は姫の顔をじっと見たがやはりそこには冷たい無表情だけがあった。
部屋に入ると中は簡易的なテーブル椅子ベッドがあるだけであとは石で出来た殺風景な部屋だった。
この部屋は元々犯罪を犯した貴族や王族が入れられる部屋らしいので娯楽はないのだろう。
ただ1つ目につくのは石でできた大きな窓
姫は窓に近寄る
見下ろすと眼下には野原が広がっており、遠くを見れば国民の家々が建ってある。
「この窓からなら飛び降りれそう」
けれど出ない方がいいのよね。危険分子として閉じ込められている私が居なくなる、それは国王の王命にそむいたこととなり重い罰を与えられるだろう、逃げ出したら国中に勅命を流布し探し出されて、最悪の場合処刑されるだろう。
はぁ、とため息をつく。
国王は私のことをひどく嫌って、いや憎んでいる。愛しの王妃にひどい怪我を負わせたからだ、その時のことは幼くて覚えていないが、この塔に閉じ込めるぐらい嫌われているのだと思い蓋をしていた心が開きしくしくと胸の痛みを引き出す
「お母様は私に会いたいと最後まで言ってくれてたっけな」
王妃はメリアに欠損させられたが自分の娘の顔を見たいと何度も国王に言っていたらしいが、国王に接近禁止令を出されてしまい、ついぞ会うことはなかった。
「私は化け物だもの」
何も望まない、ここで一生を終えるんだわ
5歳にして達観した考えをもつメリア、育った境遇からそれはしかたのないことだった。
今日はもう寝よう……。
ベッドは固くて寝ずらかったけど今日の事を思い返し、親切にしてくれたアマンダを思いながら寝た
そんな生活が1ヶ月続いた、メリアは塔の生活に慣れていき無気力な生活をしていた。日がな1日大きな窓から王国の景色を眺める生活、出てくる食事も固いパンと野菜スープだけで胃も小さくなっていき食も細くなっていった。
だが身体に宿る膨大な魔力が姫を死なそうとはしなかった。
「いっそ死ねたらいいのにな」
王城の生活は孤独だったけどアマンダや魔法を教えてくれた魔術師もいた。
この塔での孤独は完全なる1人ぼっちの孤独でメリアは寂しい思いをしていた。
今日も今日とて窓から景色を見ていると
バサッバサッバサッ
何か黒いものが窓から部屋に侵入してきた
「なにかしら」
こんな時でも驚くことはしない、そのように自分で制してきたからだ。
入ってきたのは……
「烏?」
大きな黒い羽を持った烏で、くりくりとした青黒い目をこちらに向けている。
「烏にしては大きいわ」
烏よりも一回り大きなサイズをしている
鳥はちょんちょんとメリアの傍に近寄ってきて頭を膝に載せた
「まぁ、可愛らしい」
手のひらで鳥の体を撫でてやると、ふと羽が切られていて内側の肉に怪我をしているのが目に付いた。
「痛そうね」
『ヒール』
姫は手のひらを傷のある場所にかざして魔法を使った、光り輝いた傷を負った箇所は完全に治って綺麗な羽と肉になっていた。魔法は王城にいる頃に魔術師に教えて貰い完璧にマスターしている、どんな魔法でも使えるように魔術師が教えてくれたのだ。
鳥は自分の身体と姫を見比べていたが、傷を治してくれたと分かると姫にペコリと頭を下げた。
「貴方、人間みたいね」
人間のような挙動をする鳥に姫は面白おかしくてくすりと笑みを零した。
鳥がじっと見つめてくる。メリアは笑ったかと思えば直ぐに無表情に戻った。
鳥は怪我が治った事を証明するかのように翼を広げ体を見せてきた
「本当に大きい烏、綺麗な羽だわ」
翼を撫でると、もっと撫でろと言わんばかりに手のひらに押し付けてくる
「本当に可愛いわね」
可愛いと言いながらもその口元はニコリともしていない。表情を取り繕うことに慣れすぎて感情が表に出てこないのだ。
鳥はジッとメリアを見ながら、撫でられている。
気が済むまで撫でられたら鳥はこちらをチラリと1回見てから外に羽ばたいてしまった。
じゃあね鳥さん、元気でね。
窓の外に手を振って見送るメリア。
コンコンとドアがノックされ騎士が入ってきた。
「姫様昼食のお時間です」
「ありがとう」
今日はサラダにコンポタージュ、サンドイッチだ。久々に人間らしい食事が取れる。少し嬉しい。
サンドイッチを食べながら、
鳥さんまたきてくれないかなぁ。
と考えるメリアだった。
次の日もまた窓の外をボーッと眺めていた。
私があの家に住む平民だったらな、平民だとしても魔力暴走で災害を起こして、捨てられていたかしら。
なんて考えていると、窓から昨日の烏が入ってきた。
「あら」
しかも大きなバスケットを持って。
羽ばたいた鳥はバスケットを横に置いてこちらをじっと見つめてきた。さぁどうぞと言わんばかりにそこで待っている。
なにかしら
メリアはバスケットに掛けられていた布を取った
「わぁ」
そこには色とりどりの果物が沢山詰め込まれていた
果物を手に取る赤くツヤツヤとした林檎、1つ1つが輝いてみえる葡萄、赤く熟れたベリーなど
メリアの好きな果物ばかりが並んでいた
「これ、私に?」
鳥は1つ頷くと足を差し出してきた、足には白い丸まった紙が結ばさっておりメリアはそれを取って呼読んでみた。
「……小さなレディ、傷を治してくれてありがとうこれはほんの少しの礼さ」
この鳥の飼い主が書いたのだろうか達筆な字でお礼が書いてある。メリアはその紙を胸の辺りに持っていきぎゅっと抱きしめた。
誰かから礼をされるってこんなに嬉しいのね
「こちらこそありがとうって伝えといてくれる?」
鳥に向かって話しかける、鳥には出来ないだろうけど、この鳥はやけに人っぽいし頼んでみるメリアだった。
鳥はピッとひと鳴きして答えた。
それからは果物を魔法で切り分け鳥と2人で食べた。初めは鳥は要らないと羽で果物を押し返してきたが、メリアがどうしても食べて欲しいと言うとすんなり食べてくれた。
切り分けた林檎を食べながら、鳥と話す
「美味しいわ、塔に入れられる前は当たり前に食べてたけどもうそれも出来なくなっちゃったから」
鳥はピピッとないて首を傾げるそれは何故こんな塔に入れられてるんだとも言っているようだった。
メリアは優しい目をして鳥に事情を説明した。
「私が小さい時に魔力暴走でお母様の足を焼いてしまったのそれで怒ってしまったお父様……国王陛下が私を5歳になったら塔に閉じ込めて危害を加えないようにしろと王命をだして私は塔に閉じ込められることになったわ」
鳥は耳をすまして聞いてくれてる。
「私はアマンダ、保母の名前ね、アマンダが魔力暴走していても育てくれたからなんとか生きる事が出来たの、あとは宮廷魔術師の人が魔法を教えてくれたから貴方の怪我を治す事もできたわ」
思い出していたらあの場所が恋しくなったメリア。
「アマンダ……会いたいわ」
俯いたメリアの小さな頬に涙は流れていなかったが、表情は泣きそうな顔をしていた。
鳥はそんなメリアを見つめていたが、ふと決心したように大きく羽を広げピィ!と鳴いた。それは元気づけているようにも思われた。
「……ありがとうピーちゃん」
「ピィ!?」
鳥は驚いたように鳴いた
「あらもう飼い主がいたんだっけ、ピーちゃんって名前良いと思ったんだけど」
鳥は不服そうにピィと鳴いた。
その日からピーちゃんはメリアの部屋に訪れるようになった。本を持ってきて一緒に読んだり、2人で歌を歌ったり、お菓子を持ってきて一緒に食べたり、メリアの色の無い退屈な世界に光が差したようだった。
いつものように2人でお話、一方的にメリアが話してピーちゃんが相槌をうつだけだがメリアのふとこぼした言葉に鳥が反応した。
「ここでずっと生活するのが、皆の為だと思ってきたけどピーちゃん、貴方ともっと外の世界を見てみたいわ」
「無理だって分かってるけど……叶えようもない願いね」
寂しそうな顔をするメリア、ピーちゃんとの交流で元の少女らしさを取り戻しつつあるメリアだった。
対してピーちゃんはふと考え込むような顔をしている。
「ごめんなさい、ピーちゃんに言うことじゃないわね、私の独り言として忘れて頂戴」
静かだったピーちゃんはピピィと鳴き窓の外に向かって羽ばたいていった。
「ああ、行っちゃった」
飛んで行ってしまったピーちゃんに手を振りまた1人になってしまったメリア。
楽しかった後の時間は余韻を残しながら、ほんの少しの切なさを沸き立たせる時間になった。
それからというものピーちゃんはめっきりメリアの所に来なくなってしまった。
1週間経ったところでもう来ないのかとショックを受けたメリア。
落ち込みながらもまた窓の外をボーッと見る時が続いた。
今日は何故か眠れなくて夜に窓の外を覗いていた。
空には満点の星が輝いており冷たい空気が流れてくる。その瞬間流れ星が空を流れた。
綺麗、あの星に乗ってどこかへ行ってしまいたい。
そして
「ピーちゃんに会いたいな」
すると
「小さなレディ、会いに来たよ」
急に声を掛けられて驚いたメリアは外を見た
そこには紺色のローブを着た青年が外に浮かんでいた。
「……貴方は?」
「わからない?ピーちゃんだよ」
大人っぽいくすりとした笑みを浮かべる男
今ピーちゃんと言った?
男をよく観察してみると濡れ羽色の髪にすっと通った鼻筋、瞳は青黒く黒曜のように濡れ輝いている。
確かにピーちゃんと色合いはそっくりだ。
「鳥に変身していたってこと?」
「そうなるね」
男は窓を跨いで部屋に入ってきた
「話したいことは色々あるけど結論から言うね」
「…君を貰いにきた」
「え?」
「だから、君を貰いにきた」
ピーちゃんが…人間で、私を貰いに来た……?
衝撃の連続で思考回路が止まってしまったメリア。
男はカチコチに固まったメリアを伺うように見る。
あ、それはピーちゃんぽい
男の仕草にピーちゃん味を感じて戻ってきたメリアは尋ねる。
「私は国王の命令でこの塔に閉じ込められています、王命なので出れないと思うのですが」
「その王命は僕の報賞の件で塗り替えた」
「報賞?」
「そう、僕がこの国で悪さしているドラゴンを倒したことで国王が褒美を与えたいって言うから、じゃあ塔に閉じ込められてる君を貰いたいって言ったんだ」
「中々頑固な王様だねあの人、説得に時間かかっちゃった」
だからピーちゃんは1週間も私の元を訪れなかったのか
「君はもう自由だよ」
男は笑みをこぼした。
「本当に…私ここから出てもいいの?」
「勿論、君が言ってたアマンダにも会わせてあげるよ」
「本当!?嬉しいわ!」
メリアは男の元に行き男に抱きついた。
「ピーちゃん、ありがとう」
「そんなに嬉しそうな君を見るのは初めてだ、頼んで良かったよ」
「でもピーちゃんじゃなくて本名で読んで欲しいな」
男は少し不満そうな顔をする。
「貴方はなんていうの」
「僕はイブン、イブで良いよ特別ね」
「イブ、本当にありがとう」
メリアは嬉しそうにイブンの身体に顔を埋めた。
「僕は隣国の魔術師なんだ、諸国を旅してたんだけど、この国で竜が出てるって言うから手助けをしたの、フィルガリアの宮廷魔術師は国王を守るので動けないからって僕が竜退治に抜擢されたわけ」
落ち着いたメリアに事の顛末を語るイブン。
「貴方凄い人なのね」
「まぁねそれなりに偉い立場には居るかな」
正直に話すイブンに好感を持てた。
「それで君のことを貰いにきたんだけどそれでもいい?」
こちらを伺い鳥のように首を傾げるイブン。
どうしてか可愛いと思ってしまうメリアだった。
「貰うってどういう?」
「まぁそれはその、僕のもの、つまりお嫁さんだよ!!」
「お嫁さん…」
顔を少し赤くして叫んだイブン。
ピーちゃんと過ごした日々を思い返すメリア、ピーちゃんとなら外の世界に言ってみたいと話した時もあった。
少し考えて
「貴方とならどんな所でも行きたいと思う、お嫁さん、になりたい」
メリアの貴重な笑みがイブンの心をキュンとさせた。
「……うん、じゃあ契約成立君は僕のお嫁さんね」
「あ、大丈夫成人するまで手は出さないから」
「気が早いよイブ」
こうして塔に閉じ込められた幼女は1匹の烏、魔術師にもらわれてくのだった。
お読みいただき、ありがとうごさいました!