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除毛クリーム

作者: a

 男は、退屈な人間だった。男はタバコもギャンブルにも手を出していなかった。

男には楽しみが少なかった、男は自分自身に興味がなかった。

会社に行くのに最低限、髭は剃っていたものの、腕や足は毛むくじゃらで何の手入れもしていなかった。

 ある朝、男は髭を剃っている時、ふと目に入った腕の毛を剃ってみたくなり、剃刀を腕に当ててみた。

男は雑な性格の人間だったが、それでも一部だけが剃られた状態というのは気持ちが悪く、左右の腕、シャツから覗く部分だけは剃ってみた。毛むくじゃらな腕ではみられない滑らかな肌が現れ、初めて自分自身の身体に関心を持てたように感じた、男は大変満足した様子で仕事に向かった。

 しかしそんな腕にも数日経つとチクチクといった感じで次の毛が生え始めた、男はもう毛むくじゃらの腕には戻りたくなかったが、高いお金を払ってまでいわゆる脱毛に興味があるわけではなかった。

男は恥ずかしさを感じつつも何か良い道具は無いかとドラッグストアに立ち寄った、そこで男は脱毛が男性の間でもブームになっていることを知る、脱毛用品のコーナーはちょうど髭剃り用品の隣にあり男も立ち寄りやすかった。脱毛用品のコーナーは広く特に男女の違いはないようだった。

男は新商品のポップがついた商品を手にした、除毛クリームとある、男はこんなクリームを塗ることで毛がなくなるとはにわかに信じがたかったが、価格も安く効果も長いという触れ込みで一つ買ってみることにした。

 その晩、風呂に入る際男は除毛クリームを浴室に持ち込んだ、メガネを外してしまったので注意書きはよく読めなかったが、体に塗ってある程度待ってから洗い流せんば良いらしかった、クリームは男がよく知っているシェーバークリームのようだった、男はまず左右の腕に塗ってみたが、まだ十分に量があったため、脚や脇、また胸元にも塗ってみることにした、男は時を忘れて塗りたくり、本来5分で洗い流さなければならないものを40分も塗りたくっていた。ふと気がつくと、クリームを塗ったところの毛が細くちじれているのに気がついた。そろそろ洗い流してみてみよう、クリームは乾きつつあったが、水をかけることでローションのような質感となり男は思わぬ感覚に腕や脚を撫で回した。男は太ももを擦り合わせることでとても強い快感を得られることに気づき夢中になった。そんなことをしているうちに男はあろうことか浴室で眠ってしまっていた。

 翌朝目覚め、体を洗い流してみると、体毛は綺麗に抜け落ちていった、不思議と肌も滑らかに、また少し白くなったような気がした。男はすっかり満足して会社に向かった。

会社に行ってからも男は昨日の快感を忘れられずにいた、その帰り再びドラッグストアに行った男は昨日の除毛クリームを持って帰れるだけ購入し家に帰った。触れ込み通り除毛クリームの作用は剃刀よりも長く、数週間たってようやく毛根が目立つようになってきた、そこで男はチクチクという感覚が現れるより前に処理しようと、買い置きしていたクリームを持ってウキウキしながら浴室へ向かった。

 そんな生活が数ヶ月続いた、クリームの快感は何度使っても変わらなかったが、体毛が成長する速度は段々と遅くなっていったように感じた、その分髪の毛が成長する速度が上がり、男は人間の体はよくできているなと感心したのだった。

 最近、男にはいくつか悩みがあった、まず一つは胸周りがシャツと擦れた時ヒリヒリと痛むようになってきったこと、心なしか以前より脂肪が付きやすくなり、逆に筋肉が付きづらくなってきたこと、性的に興奮する機会が減ってきたことなどだ。男はまあ歳も取ってきたのだなと思っていたが、胸がヒリヒリと痛むなんて話は聞いたことがなかったし、日常生活の中でも不便だった。最初のうちは絆創膏を貼ることで凌いでいたが、痛みが胸全体に広がってくるとそうもいかなかった、男は色々対策を調べてみたが、まるで胸が膨らみ始めた小中学生に向けたような方法しか出てこないのだった。しかしこれでは困る、男は自分自身にそのような毛は無いと言い聞かせながらブラジャーを付けることが最適な方法なのではないかと確信し始めた、自分の症状があまりにも胸が膨らみ始めた小中学生と酷似していたからだ。男は念入りに寸法を測りこれは女装趣味などではなく、確かに症状にマッチする最適な方法なのだと言い聞かせながら、男女どちらの衣服も扱っているアパレルブランドの通販サイトを開き、女性向け下着のページにアクセスした。男はあくまで女装ではなかったし女性の下着に詳しいわけでも当然なかったので、可能な限り装飾が少なく、可能な限り目立たないものを選んで注文した。

 数日後家に段ボールが届いた、中を開けてみると注文した下着が入っていた、想定外だったのはこれが上下セットの商品だったことだ、男はこれじゃまるで変態じゃないかと言いながらもショーツの方はそのままにブラジャーを手に取った、滑らかな素材で薄く軽いが、確かにサポートできるような伸縮性がある、ブラジャーを手にしても男の股間は反応せず、男は自分が変態ではないと確認して安心するのだった。

ブラジャーの付け方はよくわからなかったが、何とか腕を通し胸に当ててみる。確かに胸はしっかりとサポートされ痛みは軽減された、男は不安を感じながらもシャツの下に着用していくことにした。

 また、数ヶ月後、男は徐々に自分の身体の変化を強く意識するようになってきた、まずズボンが徐々に入らなくなってきた、また胸は膨らんできているようにも感じる、肌は以前よりずっと滑らかで白くなっていた。

股間のシンボルは興奮する機会が減ったためなのか、クリームを塗った体毛と同じように、細く小さくなっていた。

徐々に職場でも男の変化が噂されるようになってきていた、以前ほど体力も思考力もなくパフォーマンスに影響が出てきていた。男はこの原因があのクリームにあるのではないかと感じ、今度を最後にしようと心に決めた、買い置きした在庫も勿体無かったので全て使うことにした。

 待ちに待った三連休、男は浴室にクリームを持ち込み最後の快感を楽しんだ、体力が落ちてきた男は途中何度も寝落ちし、クリームを何度塗りたくったかはもう定かではない、気がつけば二日日の夜だった、男は気力で全てを洗い流して眠りについた。

 まる一日眠り続け、男が目覚めると、身体はさらに大きく変化していた、胸は最初に買ったブラから2サイズもアップし、お尻も明らかに大きくなっていた、そして何より男性器はもうほとんど小指の爪ほどの大きさになっていた。

男はもはや取り返しのつかない身体になってしまっていた。

(元おとこ)は焦りクリームの製造元に問い合わせをしようとしたが、その会社は数ヶ月前に倒産し跡形もなかった。

ドラッグストアに連絡し初めてあのクリームは強力な女性ホルモンを含む上に海綿体を溶かす作用があることが発覚し発売が中止されていたことを知る、状況を伝えると速やかに救急車を呼ぶように指示された。

 男はよくわからないままに救急車に乗せられ緊急手術への同意書にサインした、男は手術が終われば元の身体に戻れるとばかり思っていた、しかし目を覚ますと事態はちっとも好転しておらず、むしろ丁寧に女性向けのショーツとブラジャー、ピンク色の入院服が着せられていることや髪が肩まで伸びている事などがわかった、やってきた医師は、男の男性器は尿道が塞がるまで縮小しており、このままでは膀胱が破裂する危険があったこと、男性器があった位置の後ろ側に新たに尿道を作ったこと、身体の状況を見て、今後男性に戻れる可能性はほとんどないと判断し、膣を作ったこと、今後は女性として生きていかなければならないことなどを説明された。男は深刻な事態に驚き、そして大きく絶望した。

 (おんな)は今、仕事を休職し、リハビリを兼ねてドラッグストアの試飲コーナーで女性としてアルバイトをしている、膝上丈のワンピースを着て、除毛クリームで白くツルツルになった太もも、大きく膨らんだ胸やお尻を曝しながら、自分が一生使うことのない精力剤を男性に配っている、それが彼女の今の役割なのだ。

この物語はフィクションです。

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