5 再会
公爵家へ到着するとすぐに応接室へ通された。
久しぶりに訪れたマクリール公爵家は相変わらず立派なお屋敷で、まるで美術館のような絵画やインテリアが目を奪い、洗練された家具に懐かしさと緊張感を覚えながらふかふかのソファーに腰掛ける。
エントランスを入ってすぐに飾られている騎士の甲冑が十年前は怖くて仕方なかったのを思い出し、シャノンは少し可笑しくなった。
ドアをノックして入って来たのは見覚えのあるメイド長だった。
「――まぁまぁ!シャノン様、ようこそお越し下さいました。お久しぶりでございます」
十年前、彼女はシャノンが遊びにくる度に美味しいお菓子を焼いてくれて孫のように可愛がってくれたメイドで、シャノンは優しい彼女と彼女の作るお菓子が大好きだった。
「ココスさん!お久しぶりです」
立ち上がり駆け寄ると、ココスは嬉しそうに微笑み、その目には薄っすらと涙が滲んでいた。
「すっかり美しい女性に成長なされて……」
お世辞だと分かっていても、美しいという言葉に馴染みのないシャノンは何だか気恥ずかしくなった。
「あ、ありがとうございます。ココスさんも相変わらず若々しくてお元気そうで何よりです」
「ふふっ、元気なのがこの婆の取り柄ですから」
ココスがシャノンの手を両手で包み優しく撫でる。少し固くて温かい感触に懐かしさが込み上げてきた。
シャノンは沢山お世話になったのに最後のお別れも言えないまま突然会えなくなってしまった事がずっと心残りだった。
「ココスさん…、その…私、ちゃんとしたお別れの挨拶もせず……本当にごめんなさい」
「何をおっしゃいます!シャノン様が謝る事ではありませんよ」
「でも……」
「こうやって再びお会いできて…、しかもアレック様の婚約者としてだなんて、嬉しい限りです」
そう言うとココスはエプロンで涙を拭った。
涙を浮かべてまでアレックとの婚約を喜んでくれているココスを見て、シャノンはこれからしようとしている事が申し訳なくなってきた。
「ココスさん……あの――」
口を開きかけた時、コンコンとノックが響き、応接室の扉が開いた。
「待たせてすまない」
入って来たのはアレックだった。
急いでやってきたのか薄く水色がかった銀髪が少し乱れて濡れており、服装も白シャツに黒のズボンというラフな格好で、大きく開いたシャツの隙間からは形の良い筋肉が見え隠れし…とりあえず、無駄にものすごい色気を醸し出していた。
「先程まで鍛錬をしていていたからシャワーを浴びてきたんだ。髪が濡れたままで申し訳ない。君に汗臭いまま会うわけにはいかないからね」
アレックは濡れた前髪をかきあげ、ニコリと優しく笑った。
八年ぶりに直視したアレックは相変わらず美しい上にすっかり逞しい男性に成長していて、戸惑ったシャノンは一瞬固まってしまった。
――なんなのこの色気モンスターは!まるで何事も無かったかのように普通に話しかけてきて!こっちは男性に全く免疫がないのだから無闇に色気を振り撒かないでほしいわ!
シャノンは動揺を気取られないよう努めて冷静になろうと、コホンと一つ咳をする。
「お久しぶりです、アレック様。突然の訪問にも関わらず……今日は受け入れていただいてありがとうございます」
「君ならいつでも大歓迎だよ」
「あら、それは初耳です」
八年前、訪問を拒否され続けた事をそれとなく皮肉るため『今日は』をあえて強調してみる。
「じゃあ、覚えておいて。これからはどんな時でも君が最優先だから」
ニコリと涼しげな反応のアレックを見て、これは皮肉に気付いているとシャノンは思った。
昔からアレックは感情をあまり表に出さず何事にも動じない性格だったけど、それは今も変わっていない模様。
「恐れ多いですわ」
そんな甘い言葉を真に受けるつもりはないと、分かりやすい作り笑顔で返したシャノンを見てアレックがフッと笑った。
「相変わらずだね、君は」
「え?」
「とりあえず座って話そう。何か飲み物でも。紅茶でいいかな?」
「あ、はい」
促されてストンと座りなおす。
アレックがそう言うとココスが待ってましたと言わんばかりに部屋を出て行った。
テーブルを挟んで向き合って座ったシャノンは、正面にいるアレックが真っ直ぐこちらを見てくる事に居心地の悪さを覚える。
冷静に話し合おうと思っていたのに出だしから少し動揺してしまった自分を反省し、どう切り出そうかと考えて考えあぐねているとアレックが口を開いた。
「久しぶりだね、シャノン」
「……学校ではお見かけしていましたけど、こうやってお話するのは久しぶりですね」
「元気にしてた?」
「ええ、至って健康体です」
「もうすぐ卒業だね」
「そうですね」
「子供は何人にする?」
「――⋯⋯うん?」




