2 私の両親
私の両親は若くして大恋愛の末に結ばれたらしい。
出会った途端に恋に落ち、婚約期間もそこそこに結婚してすぐに兄と私二人の子供に恵まれ絵に書いたような幸せな家庭を築いた……のは僅かな期間だったという。
お父様は甘いマスクのイケメンで、優しくて紳士的で既婚者にもかかわらず女性からとても人気があった。
毎日のように、お母様のとは違う女性の香りを纏って帰ってくるお父様と、そんなお父様を悲しそうに見つめるお母様が子供ながらに不思議で仕方なかった。
「お父様はお母様の他にも仲良くする女の人が沢山いるのはどうして?」
今思えば純粋にそんな質問ができるなんて…子供とは恐ろしい。
お母様は驚いたような顔をしたけれど、フッと笑い「そろそろシャノンも物事が分かるようになってくる年頃だものね……」と独り言のように呟くと、腰を落とし私と目線を合わせ、ガシッと私の両肩を掴んで語りだした。
「いい?シャノン、これは大切な事だからしっかりと覚えておきなさい。結婚はね若いうちに若い相手としては絶対にダメよ!?」
お母様の熱量が半端なくて、とても大切な話なのだと思った記憶がある。
「男っていうのはね色々な女の人と遊びたい生き物なの」
「そうなの?私も遊ぶの大好きだよ?」
当時まだ七歳くらいだった私には遊ぶという意味は分かっていなかった。
「結婚したらね、普通は妻以外の他の女の人とは遊んではダメなの。だけど若くしてあまり誰とも遊ばないまま結婚しちゃったら、やっぱり色々な人と遊びたかったなーって後悔して結婚した後なのに遊んじゃうの」
「ふぅーん?」
私も仲良しのお友達がいるけれど他のお友達と遊ぶのも楽しいもんなー。そういう事かなぁ。でも結婚したら他のことは遊べなくなるのはつまらないなぁ。と子供ながらに何となく理解したのを覚えている。
「シャノンが結婚する時は色々な女の人と沢山遊んで遊び尽くして、もう遊ぶのはいいやってなった男の人を選びなさい。そうすれば結婚した後もずっとシャノンと居てくれるわ」
「……お父様はもうお母様と遊びたくないからあまり帰って来ないの?」
その質問に意外にも母は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた
「お父様とお母様は早くに結婚しすぎてしまっただけなの。お父様は色々な女の人と遊んでやっぱりお母様が一番大好きだって気付いてそのうち戻って来るのよ」
その言葉は本心だったのだろうけれど、今思えばお母様はそう思い込む事で自分を保っていたのかもしれない。
その後も事あるごとにお母様は私に言い聞かせ、そのアドバイスを繰り返し聞くうちに、“結婚とは”“男性とは”そんなものなのかなと幼い私は軽く洗脳されていたと思う。
けれど年を重ね、周りを知るうちにそんなものは偏った考え方だと気付いた。
確かにお母様の言うことは一理あるかもしれない。
だれど、若くして結婚しても誠実な人は誠実だし、それなりに遊んでから結婚しても不誠実な人は不誠実だ。
結局の所、遊び人で不誠実な人は生涯そういう人間のままなのだ。
それを思い知らされたのはお母様が重い病気にかかってからのこと。
もう先が長くないと知るとお父様はようやくお母様の元へ帰ってきた。
大恋愛の末に結ばれた二人だというのはまんざらでもなく、お父様もお母様への愛情は変わらずに持っていたみたい。
自分の死を以てようやくお父様を取り戻したお母様は幸せそうだった。
死の淵で「ほらね、言った通り戻って来たでしょ?」と勝ち誇ったかのように微笑むお母様にぞっとしたし、私は素直に“その通り”と思うことが出来なかった。
お母様がとても可哀想に思えた。
お母様が亡くなって、暫くはお父様も落ち込んでいたように思う。
別宅へは行かず屋敷に居て、お母様の墓前に毎日のように通っては花を手向けていた。
でもお母様が亡くなってたったの二ヶ月後にお父様は以前のように屋敷を出て他の女の人の所へと行ってしまった。
――ほら、やっぱりね。
別に驚きもショックもなかった。
やっぱりお父様はそういう人間だったのだと思った。
人間の本質なんて、結婚しようが妻が死のうが変わる訳が無いのだから。
むしろお母様がいなくなって足枷が外れたかのように女遊びが激しくなり、ますます家に帰って来なくなったお父様の代わりに若くしてお兄様が男爵家当主の座を引き継いだ。
お父様は当主とは名ばかりでろくに仕事をせず、女遊びに散財していたから、カスタラント子爵家は没落寸前だったらしい。
お兄様が必死で立て直してくれたおかげで私は何不自由なく貴族令嬢として暮らせている事に感謝している。
だから、私も何かカスタラント男爵家の役に立ちたいとずっと思っている。
私の結婚が有益なものになるのなら、喜んでお受けしたいとは思っていた。
――⋯⋯だけど⋯⋯。




