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突然疎遠になって遊び人になった幼馴染が結婚を迫ってきます。  作者: 那由多芹


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 ――ああ、視線が突き刺さるように痛い。


 トルネオについて行く形でアレックと連れ立って歩けば周りが皆立ち止まり、振り返っては驚きの声を上げシャノンたちを見てくる。

 

 目立たず、敵を作らず、この殺伐とした貴族学校を無難にやり過ごし、ようやくあと数カ月で無事卒業だったのに…その苦労を台無しにした隣の男をシャノンは恨めしい目で睨む。

 その視線に気付いたのか、嬉しそうに「うん?」とシャノンに微笑みかけた。


「何でもないです」

 無駄に綺麗な笑顔にイラッとしながら周りから親しげに見られてはたまったものではないと、シャノンは無愛想に視線をそらし、「僕達、注目の的だね」と呑気に話すアレックに殺意すら憶える。


「これで君が僕の婚約者だって事は全校生徒に知れ渡るだろうね」

 確かに、アレック・マクリールがシャノン・カスタラントと婚約したなんて突拍子もない話を半信半疑だった人達もこれで事実なのだと知ることになるだろう。

 校内を練り歩くよりも教室に会いにきてもらう方がマシだったのかもとシャノンは激しく後悔した。


「学校長みたいにいちいち呼び出されて確認されてはたまらないから、僕が君といるのを見せつけるのが一番手っ取り早いよね」

「……()()の事もありますから、そんなに周知を急ぐ必要はないのでは?」

 婚約解消する気でいるシャノンとしては、後々のダメージを考えるとあまり周囲に知られたくない。


「まだそんな事を言ってるんだ?」

 アレックがフッと鼻で笑う。

「僕は約束を破る気はないから、()()()()行動をするつもりは微塵も無いよ?」

 シャノンもお返しにフッと鼻で笑って「そうですか」と答える。


「それに、これから卒業に向けて忙しくなるし、僕はトルネオと行動を共にすることが増えるから君が心配するような事は起きないよ」

「トルネオ様と…ですか?」

「ああ。そういえばきちんと紹介していなかったね。彼は伯爵家三男のトルネオ・オーギュスト」

 二人の会話が聞こえていたのか、前を歩くトルネオがこちらを振り返り胸に手を当てて軽く礼をする。


「トルネオはマクリール公爵家に仕えてくれているんだ。今は学校での生活をサポートしてもらったりしているけど、卒業後は公爵家の補佐官として働いてもらうことになっている」

「そうなんですか」


 ――だからトルネオ様はよくアレックの側で見かけることが多かったのね、とシャノンは納得する。


「だからなにかあれば何でもトルネオに言いつけてくれていいから」

「え?私がトルネオ様にですか?」

「うん。君は僕の婚約者だからね」

 シャノンはアレックの提案に驚いて両手と首をブンブン振り「いえ、とんでもないです。大丈夫です」とお断りする。

 男爵令嬢の自分が格上の伯爵子息であるトルネオに指示を出すだなんて恐れ多すぎてあり得ない。


「君は次期公爵夫人なんだから、人を使う事に慣れていってほしい」

 アレックがシャノンを諭すように話す。

「ええ。遠慮なく私を頼って下さい」

 トルネオも優しく言ってくれるが、婚約破棄をするつもりのシャノンにはそんな権利はないので返す言葉に詰まる。

 

「シャノン様が懸念されている事が起きないよう、私がアレック様を見張りますからご安心下さいね」

 むしろ、その懸念している事が起こってほしいシャノンはトルネオの優しい言葉に複雑な気持ちになりながら「あ、ありがとうございます……」とお礼を言った。


「見張るって良い方はどうかと思うけど?」

 アレックが冗談交じりにぼやくとトルネオはやや薄ら笑いを浮かべて「アレック様の今までの素行を考えれば、シャノン様の心配はご尤もですし、信用を得るまでは“見張る”という言葉がしっくりくるかと」と淡々と述べた。

 シャノンはトルネオが公爵家のアレックに物怖じせず意見しているのを見て、少し驚いた。


 何故なら昔、アレックには友達がいなかった。

 彼の顔面が良すぎるからか、公爵という家柄のせいか、彼に近づいてくるのは下心のある人間ばかりで、聡い彼はすぐにそれを見抜いてしまう。

 擦り寄ってくる人間の汚さに辟易していたアレックは、友達なんて要らないし作ろうとも思わないとシャノンにポツリとこぼしたことがあった。


 アレックを取り巻く環境を理解していたので、そう思うのも無理はないとは思ったけれど、納得がいかないシャノンはアレックに詰め寄った。

「私は既に友達だと思っているんだけど、違うの?要らない?」

 そう伝えるとアレックは目を丸くして珍しく狼狽えた様子を見せた。

「――ごめん」

「え?」

「ごめん。無神経な事を言った」

 いつも淡々としてあまり感情を外に出さないイメージだったアレックが自責の念に駆られた表情を見せた事に驚いた。


「僕は…君の友達だと思っていいの?」

 恐る恐る聞くアレックにシャノンは「当たり前じゃない!」と強く答えた。

 その時、アレックが嬉しそうに笑ったので本当の友達になれたのだと思った―――のに!

 そう思っていたのは自分だけで、突然、一方的に距離を取られてしまった。

 結局アレックの友達にはなれていなかったのだとシャノンは激しく落ち込んだ過去を思い出す。


 アレックにあんなふうに意見ができて長く共にいる事を許されているトルネオはきっとアレックの友人として認められた人なのだと思うと、シャノンは自分でもよく分からないモヤッとした気持ちになった。

 

「……お二人は仲が良いのですね」

 そう言うとアレックは「どうしてそんな台詞が出たのか謎だな。仲良し要素あったか?」と怪訝そうな顔でトルネオに訊ねる。

「微塵もないですね。何故そう思われたのか私も心底謎です」と、トルネオが真顔で返した。

 そういう遠慮ないやり取りが心を許している証拠だと思ったけれどシャノンは口に出すことをやめた。


 ―――そうか、アレックはチャラい遊び人へと変貌を遂げただけでなく、信頼のおける友人ができたんだ。もう昔の、他人を寄せ付けない、()()アレックは何処にもいないんだ、とシャノンは改めて感じた。


 それから、シャノンは教室まで送るというアレックの申し出を全力でお断りして一人で教室へ戻り自分の席へなだれ込んだ。

「⋯⋯疲れた⋯⋯」

 朝からやけに濃厚な時間を過ごしたおかげで精神的な疲労が半端ない。

 まだ一時限の授業がが終わったばかりで、1日はこれからだと思うと恐ろしくなる。


「⋯⋯これから、この先、何人に絡まれる羽目になるんだろう⋯⋯」

 机に突伏したまま、カフェテラスで絡まれた三人の令嬢達のような人達がわんさかやって来る想像をしてしまい、ブルッと身震いをする。


 どうか、一刻も早くアレックが約束を破ってくれますように。

 




 

 

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