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鬼鴉  作者: 羅生門マイケル
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鳥葬

第一話

 「鬼鴉」と呼ばれたその男は、木曾の山道を歩いていた。男の身なりは侍であるが、首から数珠をかけ、脇差の代わりに怪しい袋をぶら下げている姿は山伏か修験者、或いは更に得体の知れない「何か」のようにも見える。男の他には誰も居ない。強いて言えば、周囲の木々で鳴いている蝉達が居るには居る。男はその蝉を見る度に難しい顔をして、すたすたと歩いていくのであった。

 男が山に入って初めて道の先に人影が見えた。かなりの大柄である。危ないなあ、と男は思った。なにせ、左は崖である。落ちたら確実に御陀仏だと思える程、深い。武士は刀がぶつからないよう左側通行をするのが基本であるから、男にとっては尚更である。そんな事を考えている内に人影が近づいてきた。

「やや、手前は火付けの鬼鴉であるか。然らばこの明地鴨之介が成敗してくれよう」

そう叫んだのはさっきまでの人影である。

 「いかにも。」

 鬼鴉と呼ばれたその男は四文字で返事をし、太刀を抜く。刀身の七割が姿を見せたとき、既に明地が何かを振りかざし、鬼鴉に襲い掛かっていた。すかさずそれを受け止めるも、それは白刃に巻き付いてくる。見れば、明地が手にしているのは鎖鎌である。鎖鎌とはこのように分銅で相手の動きを止め、鎌で首や胸を狙う武器である。

 「死ねぇグへへへへ」

 もちろん鬼鴉もその事を知っている。脳天を目掛け突っ込んできた獰猛な三日月を右に躱し、持ち主の腰に手を回した。この時、両手は柄から離れている。

 「グへへへ相撲で俺に勝てると思っているのか」

肉の塊が叫ぶ。そう、しがみついみて分かった事だが、明地の体は酷く太っていた。着痩せというやつである。さぞかし相撲にも自信がある事だろう。

 「相撲・・・?」

 鬼鴉はそう呟くと、この時代の日本にまだ存在しないはずのボンレスハムを九尺程持ち上げた。つまり、鬼鴉が明地を抱えて跳んだのである。その頂点で鬼鴉が明地の頭を下にし、そのまま落とした。声にならない情け無い声がした直後、頭蓋骨の断末魔が聞こえた。

 軽く尻餅をついた鬼鴉は、立ち上がると同時におもむろに腰の袋に手を掛けた。慣れた手付きで黒く小さな石のような何かと、白い紙が袋の中から現れた。すると、これまた慣れた手付きで鬼鴉はさっきまで明地に囚われていた太刀を回収する。石と擦り合わせ、紙に包んで半死半生の豚の口に放り込んだ。程無くしてそれが爆ぜ、肉人形は首から上が粉微塵に吹き飛んだ。

 暫くその姿を眺めた鬼鴉はさっきまでの生き物を奈落へ蹴飛ばす。その後、鬼鴉はまたも袋から砂のような、或いは蕎麦粉のようなものを崖下の肉饅頭に振り掛ける。普通、このような事をすれば風に吹かれて四方八方に飛び散るはずだが、何故か鬼鴉のそれは真っ直ぐ落ちてゆく。やがて烏が五、六羽、があがあと群がり、死肉を貪り始めた。鬼鴉は彼らの間食をじっと見下ろす。ひょっとすると、彼にとってのこの行動は、常人が鳩や雀に餌をやるのと同じようなものなのかも知れない。しかし、彼は終始哀しい目をしていた。

 やがて男は再び歩きだした。蝉の声が小さくなっている。今年の夏は短かった。

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