あかん、神さんアレしてまう!
一発ネタの駄文です、本当にごめんなさい
※筆者は関東在住の日ハムファンです
「やけに賑わっているな」
旅の途中で立ち寄った街、トンボリは異様な熱気に包まれていた。
ここまでの道中、宿の主人や馬車の御者なんかに『トンボリの人はやたらと明るい』と耳にタコができるほど聞かされていた。
だがそれにしたって、普段からこの盛り上がり方というのはちょっと考えにくい。
目が痛くなるような獣柄の服の女性たち。
鮮やかな黄色いハッピを羽織って客を呼び込む大勢の商人。
商店街の路地の頭上には魚の張子が吊り下げられ、店の看板代わりと言わんばかりに巨大なカニやタコ、人の顔のオブジェが取り付けられている。
そして極め付けはそこかしこに立つ看板やのぼり、張り紙、道ゆく人々の服や商人のハッピ、果ては若者が髪を剃り込んだ後頭部にまで踊る『アレ』の二文字。
「何かしらの祭りなんだろうが、いったい『アレ』ってなんなんだ……?」
往来で突っ立ったまま悩んでいても仕方ないと思い、小腹も空いたので適当な店に入ることにした。
「らっしゃーい、空いてるとこ適当にどうぞー!」
店の扉を開くと、看板娘とおぼしき少女が元気よく出迎えてくれた。
彼女は言うが早いかサッサと給仕に戻ってしまったが、この盛況ぶりを見たら文句は言えない。
昼過ぎだというのにあちこちで酒盛りが催され、座席だけでなく厨房からも喧騒が聞こえてくるのだから。
一人で座っても浮かなそうなカウンター席についてメニューを開くと、そこにもまた『アレ』の二文字があった。
なんなら壁にかかっているおすすめメニューにも『アレ』の文字がある。
ここまで徹底しているからには、やはり何か意味があるのだろう。
……非常に気になる。
もういっそ、看板娘さんにでも聞いてしまおうか。
「すいません」
「はーい、お決まりですか?」
「あの、そこかしこに書いてある『アレ』っていったい何のことなんですか?」
次の瞬間、あれだけ騒がしかった店の中はシーンと静まり返っていた。
しかも、店にいる人間全員の視線がこちらに向けられている。
「えっ、あの、何か変なこと言いましたか……?」
あまりの豹変ぶりに、そう聞き直してしまった。
「ニイちゃん、旅人か?」
背中から声をかけられて振り返ると、虎柄のエプロンをつけた屈強な男性が腕組みをして、こちらを見据えていた。
察するに、彼はここの店主ではないだろうか。
「えぇまぁ……」
「おーん、どっから?」
「遠い関の、東の方から来ました」
「おーん。ほな、しゃーないか」
店主は納得したような様子で返してきた。
「あの、それで結局『アレ』とは……」
「アレって、そらもうアレよ」
「えぇ……」
何も答えになってない。
どういうことだ。
周りを見渡せば、他の店員や客が揃ってうんうんと頷いている。
いや、ほんとにどういうことだ?
「もうパパ、よその人にそんな言い方してもわからないでしょ!」
見かねた看板娘さんが助け舟を出してくれた。
娘さん曰く『アレ』とは土着の神様にまつわる何かしらの慶事のことらしい。
何かしら、らしい、というのは彼女も『アレ』についての明言を避けたからである。
なんでも、春先あたりから『アレ』が起こる吉兆がしばしば見受けられるそうなのだが。
それを明確に言葉にして祝ってしまうと『アレ』が起こらない、という強力なジンクスがあるのだそうな。
それが起きたのも一度や二度などではないらしく、つい二年前にも『アレ』の吉兆で地元は大盛り上がりしたそうなのだが、結局その年は『アレ』しなかったのだそうな。
なるほど、なんとなく事情はわかった。
「皆さんよっぽど『アレ』を楽しみにしてらっしゃるんですね」
「そらそうよ」
「じゃあ、店先にぶら下がってる大きなオブジェとかも『アレ』祝いの特別なやつなんですね」
「あらいつもよ、おーん」
「私の知る限り、お店ができた時からずっとありますね……」
「じゃあ、ハッピ着てやたらと安売りしてるのは?」
「割と年中見かけます」
「おーん」
「……まさか、ヒョウ柄とか虎柄の服は」
「定番やな」
「うちのママのお気に入りもヒョウ柄ですね」
「えぇ……」
どうなってんだトンボリ。
『アレ』とか関係なしにめちゃくちゃ変な街じゃないか。
文化の違いに打ちひしがれていたところ、店の扉が大きな音を立てて勢いよく開かれた。
驚いてそちらの方を見ると、上下で異なるヒョウ柄の服を纏ったパンチパーマのおばちゃんが息を切らして立っていた。
「おーん、どしたんお前」
「早かったねママ、今日は友達とショッピングって言ってなかった?」
店主の奥様らしいおばちゃんはゼェハァ肩を上下させながら叫んだ。
「『アレ』がくるでぇぇぇぇぇ!!!!」
それを聞いた瞬間、店内には興奮の渦が巻き起こった。
「うるっっさ!!?」
おもわず両手で自分の耳を塞いでしまった。
大の大人二十人以上が、狭い店内を半狂乱で騒ぎ回っている。
いや、ほんとに何なんだよ!?
あまりの興奮ぶりに困惑していると、ふいに肩を叩かれた。
「うるさくてごめんなさい、うちパパもママもお客さんもみーんな虎党だから……。でも、トンボリはこれからもっと酷いことになるから、お店の中にいた方が安全ですよ!」
娘さんに元気よく言われた。
本当になんなんだよ、トンボリ。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。おーん




