08話 神核封印
伝説の金属ヒヒイロカネ。破壊神が持ってきたのは大きな塊になっており、見た目は金属の塊の様に映るが、万能と言っていい程の性質を持っている。
ヒヒイロカネの構成は、素粒子レベルの極小単位魔法物質の集合体であり、あらゆる性質、形状に変化させることが出来る。これを使用して、破壊神用の身体を作成するべく、女神5人が力を合わせて作成に取り掛かっていた。
まずはヒイロカネの性質を有機物に変化させ、形状を流動体にし、人の姿を模っていく。おおよそ人の姿形となったら、今度は人体に必要な要素に沿って、必要な役割をもつ細胞を構成し体組織を作成。構造、機能的に人間と同等の器が完成した。
「構造的な部分は、およそ完成しました。破壊神様、後は外見的な部分なのですが、どのような見た目にしていきますか。」
ミネルヴァがそう尋ねる。
「うむ。下僕よ、例の3人娘の年齢はどのくらいであった。」
「そうですねー。見た感じでは高校生ぐらいでしたし、17歳前後かと思います。ただ、召喚の影響で年齢が書き換わっている可能性もありますので、本当の年齢は分かりませんが。」
破壊神は下僕の意見を聞くと、ミネルヴァに答えを伝える。
「では、年齢は人間で言う17歳前後にし、外見は人間基準で上等な見た目にせよ。」
この要望を聞いた女神達の中から、女神ユピテルが身を乗り出してくる。
「美形の創造なら私にお任せ下さい。見るだけで異性を虜にする超絶イケメンにして差し上げますわ。」
「ユピテル先輩は、本当にそう言うの好きっすよねー。女神としてどうなんすかそれ。」
若干引き気味のアリアの突っ込みをスルーし、ユピテルは物凄い勢いで外見を創造していく。
暫くの後。
「出来ましたわ。目、鼻、口、輪郭から肌の質感まで完璧なまでにバランスの取れたこの造型、、」
ユピテルは、自分が作り出した美男子をうっとりとした表情で眺めながら言う。
「どの角度から見ても常に完璧なフォルム。ああ、私はなんて罪作りな物を産んでしまったのでしょう。」
そこには破壊神の要望通り、誰が見ても美形と言えるであろう外見をした器が出来上がっていた。
「ではこれで完成でよろしいでしょうか?」
ミネルヴァが破壊神に尋ねる。破壊神も特に不満は無いらしくゆっくりと頷いた。
その矢先に下僕が声を上げる。
「ちょっとまって下さい。それじゃあ全然だめですよ!」
「何よ、あなた! 私の芸術的な作品にケチをつけるって言うんですの!」
ユピテルは自身の自信作にケチを付けられた事に対して怒りを露にする。
「違うんですよ。確かに誰が見ても超美形の正統派イケメンなんですが、それじゃあ逆に駄目なんですよ。」
下僕にとっても外見は重要な物だったようで、必死に説明をする。
「まず、破壊神様が行く予定の日本と呼ばれる地域に住む人間は、アジア人と呼ばれる人種が住んでいる場所で、異世界に住む様な王族を超絶美形にしましたってレベルの見た目では、悪目立ちしすぎて良くありません。」
続けて、下僕は破壊神に向き直り問いかける。
「それから、破壊神様。異世界物における正統派イケメンの役割を思い出して下さい。」
破壊神の答えを待つまでも無く、下僕は話を続ける。
「正統派カースト上位イケメンは大抵、一番強そうな能力を貰い、皆のリーダーとして活躍を期待される事になるのですが、これは大いなる罠なのです。」
「実際は、地味、おとなしい、周りから孤立している系のぱっとみ普メン(だけど実はイケメン)主人公の当て馬的ポジションであり、結局は闇堕ちだったりインフレに着いて行けなくなり、美味しいところは全て主人公に持っていかれるという未来が待っています。」
「ですので、正統派カースト上位優男イケメンは駄目なのです。」
話す度に、イケメンの呼称が伸びると共に、下僕の個人的な怨み妬みが込められているのでは無いかと疑うほどに熱弁を振るう。
「良いですか。イケメンはイケメンでも露骨なのはだめです。理想は、黒髪で前髪によって目が隠れてるとか、眼鏡で素顔が分かりづらいとか一見するとイケメンには見えないのがポイントです。しかし、ふとした瞬間に、あれ?こいつイケメンじゃね?っていうギャップ。そう、ギャップが大事なのです。」
女神は下僕の話を聞いているがその顔は一様に、「なに言ってんだコイツ」と言った表情になっている。
「下僕よ。流石は我が下僕である。我ですら気づかなかった真理を見透かすとはな。褒めてつかわす。」
「有り難きお言葉。恐れ入ります。」
女神達の表情が語る。「破壊神、お前もか!」と。
その後は、下僕が細かな指示を出しつつそれに従い女神が作業を行う流れとなり、外見だけでなく、身体に様々な能力を付与する作業などが進められていく。
「ふう。これでほぼ完成ですね。能力については、実際に破壊神様がこの器に入ってから説明するとしましょう。」
何か大きな事をやり遂げたと言わんばかりの、満足げな表情で下僕は言った。
「ふむ。下僕よ大儀であった。次は、我を封印する手筈であったな。」
「はい。すぐに準備をしますが、神力を高める為に少しお時間を下さい。」
ミネルヴァは落ち着いた雰囲気でそう言うが、その胸中には若干の焦りがあった。邪神や堕神を封印する為の封印術。神をも封じ込める程の物だが、今回その対象となるのは創造神様と同等の存在の破壊神なのだ。
普通に実行しても無理だからこそ、今回は女神5人の力を合わせる必要がある。それでも足りるかどうか。
とにかく少しでも可能性を高める為に、女神5人は神殿の中にある祈りの間に移動し、神力を高める為に創造神へ祈りを捧げ始めた。
暫く待つことになった下僕は、そう言えば、と疑問に感じていた事を破壊神に尋ねていた。
「破壊神様は、創造神の表裏の存在ですよね。創造と破壊、この2つのバランスが世界を維持するのに必要だと言う事は、なんとなく理解出来るのですが、ここで破壊神様の特性を封印してしまったら、そのバランスが崩れて何かとんでもない事が起きたりしないんでしょうか。」
「うむ。その事ならば考えがある。」
破壊神は言いながら、下僕に手招きをする。
「ん?何でしょう破壊し、、
言いながら近づく下僕の胸部に破壊神の腕が突き刺さる。
「ぐぅっ、は、はかい、し、、さ、
あまりに突然の出来事に下僕は混乱しながらも『絶対不変』の力を使い自身の命を繋ぎとめようとするが、破壊神の腕から流れ込む破壊の力によって能力は掻き消されてしまう。
能力が使えなければ、これは完全に致命傷である。あきらめかけた下僕に、破壊神が声をかける。
「下僕よ。無駄に抵抗するでない。すぐに済むからの」
そう言うと、破壊神は下僕に対してどんどんと破壊の力を流し込んで行く。
「ぐっ、う、?あれ、痛みが無くなった。それに死んでない、、」
「どうやら終わった様だの。」
そう言いながら破壊神は腕を引き抜いた。破壊神の腕が突き刺さって出来た胸の傷は、腕を引き抜いた途端に修復していく。
「破壊神様、これはいったいなんだったのですか。」
「うむ。下僕よ、お主はたった今人間では無く神になったのじゃ。破壊神である我が眷属。破壊の神にな。」
破壊神が行ったことは単純であった。下僕がこの世界に存在する上で与えられた、「人間」と言う役割を破壊し、一度世界から隔離された存在とする。ここに、破壊神が持つ神の特性を刻み込む事により、「神」として世界に存在する下僕を作り上げたのだ。
「えぇ、ご自身は神を辞めて人間になって、私は人間を辞めて神になるんですか…なんか理不尽な気が…」
「先に、世界のバランスの事を気にかけていたであろう。それを維持する為には必要な事なのだ。創造神が、女神やらの神を作り、自身の仕事を肩代わりさせている様に、我も自身の眷属を作り出す事により、我が消えてもなんとかバランスを取れる様にの。」
「そうなのですか。しかし眷属と言うのは具体的に何をすれば良いのですか。」
「特には無いぞ。我がそうだった様に、今までと変わらず最果ての地に引き籠っておれば良いだけである。
それなら問題ないか。下僕は考える。
破壊神様が居ない最果ての地での引き籠り生活は、以前より寂しくはあるが、以前と違い何か役割を果たしていると考えると、なんとなしに悪い気はしなくなってくる。
「まあ、世界を破壊して回れ、とかでないなら問題ないですね。神になっても引き籠りは出来ますし、引き籠るだけなら人間である必要もないですし。」
その答えを聞き、破壊神は満足げに頷いた。
「そうであるか。やはりお主を下僕とし、我が眷属とした事は間違っては無かったようだの。」
今ここに破壊神の唯一の眷属が誕生した。それと同時に、祈りの間の扉が開かれ、中から女神達が戻って来た。
「またせたな。破壊神」
「お待たせ致しました。」
先頭を並んで歩いてくるのは、女神ミネルヴァと、女神ヘレネ。
その後ろをから、ユピテル、アリア、メーティスが順に扉から出てくる。
「ウツラウツラzzzzzzグゥ」
「メーティス先輩、寝ながら歩くなんて器用っすね。てか祈り中も寝てなかったっすか。女神としてどうなんすかそれ。」
「zzz」
アリアの突っ込みが入るが、メーティスは動じない。
女神達はそれぞれ、一定の距離を取りながら神殿の中に広がる。それぞれが五芒星の頂点の位置になっているのであろう。
「破壊神様、我らの中央に来てください。」
「うむ。良かろう。」
破壊神はミネルヴァの言葉通り、女神たちの中心の位置に立つ。
「破壊神様は、我らの術に抵抗せず受け入れるつもりで身を任せて下さい。更に全力でご自身の力を抑え込んで下さい。」
邪神などの明らかな敵であれば、封印術にも抵抗しようとするが、今回は破壊神自ら望んで受け入れるのだから抵抗はないだろう。更に自身で力を抑え込んでもらい、少しでも成功の可能性を上げる。
破壊神が女神達の中央に立ったのを確認すると、ミネルヴァ一度他の4人の女神の顔を見て行く。4人は目が合うとそれぞれ頷いて行く。
「では、参ります。」
5人の女神から強力な神力が吹き出してくる。
「 神格封印・五重唱 」
5人の女神から噴出した神力が線になり女神同士を繋ぎ五芒星を模っていく。その中には更に複雑な魔法式が書き込まれて行く。
魔法式が書き込まれ大きな魔方陣が完成すると、破壊神を包み込むように光の球体が現れ、少しずつ縮んでいく。この球体が破壊神を閉じ込める核となるのだが、一定まで縮小した所で動きが止まってしまった。
「やばいっすっ、反発力がとんでもなさすぎて核が弾け飛びそうっすよ!」
「アリア、泣き言ってねーで気合いれろやっ!」
ヘレネの激励を受けながら再度力を込めるアリアだが、その表情はかなり厳しい物となっていた。他の4人の女神も泣き言を漏らしはしないが、かなり苦しそうな表情をしている。
その悲痛な姿を見かねたのか、破壊神が声を上げる。
「下僕よ。女神だけでは力が足りておらぬようじゃ。お主が助力せよ。」
見物人のつもりで眺めていた下僕は突然そう言われ困惑する。
「破壊神様、私の力では助力にならないと思いますよ。」
下僕は、破壊神と戦った際の事を思い出す。チート能力があっても触れることすら出来なかったのだ。助力したくても、何が出きると言うのか。
「ふむ。前のお主なら確かに役には立たぬであろう。だが、今のお主は何になったのか思い出してみよ。」
今の自分は、、、、
神。
破壊神様の眷属。人間を辞めて、神の端くれになったのだ。
「分かりました。やれるだけやってみます。」
「うむ。」
破壊神は満足げに頷く。
「女神ミネルヴァ、この封印は神を封じる封印なのですよね。」
まずは、女神の心が折れないように「絶対不変」で、意志を強化しなくては。
「っ そ、そうで、す。しかし、は、破壊神様、には、通じないのかも、知れ、ません、、」
ミネルヴァかなり苦しそうに何とかそう答える。
「あきらめないで下さい。神を封じる為の物であるなら、神である破壊神様にも絶対に効果があります。」
一見ただの激励の様に聞こえるが、下僕は、2つの力を込めながらそう言った。
1つは、「絶対不変」の力、これにより封印術は神に効く。と言う絶対的な意志を持たせる。
今までの下僕ならば、ここまでだったが今は違った。
2つ目の力、破壊神から貰った破壊の特性。封印術が効かないかもしれないと言う、逆の意志を破壊の特性で打ち砕いて行く。
絶対不変と破壊、お互いに相反する特性が故、ぶつかりあえば相性は最悪である。下僕が破壊神相手に手も足も出なかったのも、この最悪な相性が一つの理由だった。しかし、その力を同時に使用出来るとなると、話は変わってくる。
それぞれの能力で、お互いの利点を強化する事が出来るからだ。
下僕の言葉を聞いた女神に変化が現れる。先ほどまで同様、苦しそうな表情をしている事は変わっていないが、その目には明らかに力が宿っている。
女神の意志が立ち直ったのを確認した下僕は、次に破壊神を覆う球体に目を向け、まず破壊の特性を使用する。
「封印、破壊神様にとって本来は封印なんてあってはならない事。それ故に自動的に害があると判断されてしまっている事により反発されるのだとしたら、」
下僕は、破壊の特性と『絶対不変』を使用し、封印という概念を破壊、核と言ういわば中に包まれた物を守る皮膜をイメージし、球体の性質を固定しようとする。
すると、反発はまだ残っている物の、今までと比べものに鳴らないほど弱くなっていく。
「おいっ!これならいけるぞ!」
ヘレネがそう叫ぶと同時に、最後の力を振り絞る。他の4人もその叫びに呼応するように、力を振り絞って行く。
球体から発せられる光が膨張し、神殿内が白一色で包まれる。
光がだんだんと収まり、神殿内に色が戻って行く。
女神5人と下僕の視線の先には、手のひらサイズの球体、神核が浮かんでいた。