07話 伝説の金属
女神の神殿にはミネルヴァと、女神と思われる4人の女性が床に転がっていた。
その内3人は半ば意識を失っているらしく動かないが、1人はすぐに意識を取り戻したのか、起き上りながる。
「痛たたた。なんか物凄い力で頭掴まれた気がしたんだけどなんだったんだ、ありゃ。」
頭をさすりつつ起き上がると同時に、ぼやけていた視界がはっきりとすると、その視界にはいるはずのない者の姿が映っていた。
「んん?あんたミネルヴァじゃないか、なんであんたがうちの神殿にいるんだ。」
「ハハハ、は、ハロぉ、ヘレネ。お久ぁ。」
破壊神がどうやって女神たちをここまで連れてきたのか。詳細は分からないが、これだけの短時間では一人ひとり詳しい事情を説明しながら来たとは考えづらい。
そしてヘレネと呼ばれた女神のリアクションを見れば、簡単な事情すら知らせず、半ば拉致の様な形で連れて来たのはあきらかであった。
「って。メーティスにアリアにユピテルまで。てかなんで床に転がってんだ。」
ヘレネは、足元に転がる残りの女神にも気付き、更に理解しがたい状況になってしまう。
「ここは、、よく見ればうちの神殿じゃないな。ミネルヴァ、あんたんとこの神殿かい、ここは。」
ここまで理解しがたい状況の中、流石になにかあると察したヘレネはミネルヴァに怪訝な目を向ける。
「えっと、どこから説明すればいいのかわからないんだけど、まずは後ろを見てもらえるかな。」
ミネルヴァにそう言われ、ヘレネは後ろを振り返る。後ろには当然破壊神が居る訳だが。
「なんだよ。破壊神じゃん。これがどうかし、た、、破壊神!!??」
なんの心構えもない状態で、突然目の前に破壊神が居れば皆、こうなるであろう。
ヘレネは再び気を失い床に崩れ落ちて行った。
その後、他の3人の女神も同じ流れで再度崩れ落ちると言う、お決まりな展開を挟みつつ、何とか4人の女神が起き上がり、ミネルヴァから状況説明を受けていた。
「5人の女神ですか。女神と言うだけあって全員美しい見た目ですし、それが5人も揃うとなかなかに壮観ですね。破壊神様。
下僕は5人目の女神を眺めつつ、破壊神にそう語りかける。
「ふむ。下僕はああいった物が好みであるか。我からしたらみな、作り物にしか見えぬな。良く言うのであれば美術品を眺める感覚であるな。」
確かに、ただ美しいのでは無くどこか神秘的な、見ているものを引き込むような美しさがあるな。これには人ではなく神である事が関係しているんだろう。故に、同じ神目線で見れば作り物に見えると。
そんな他愛も無い会話をしている中、女神同士の会話は思わぬ方へヒートアップしていく。
「つ・ま・り、ミネルヴァが破壊神にちょっかいかけたのが事の発端って事じゃない。なんでそれに私達まで巻き込んでるのよっ」
ヘレネは説明を聞き、完全に巻き込まれている状況を理解するとミネルヴァを責め立てていた。
「眠い。寝ていい」
「こら、メーティスこんな所で寝るんじゃないよ。」
ヘレネに突っ込みを入れられても、眠そうな表情のままあくびをしているのは女神メーティス。
「ねぇねぇ、アリアちゃん。破壊神の横にいる人間、なかなかイケてない。」
「あれがっすか。ユピテル先輩趣味悪くないですか。」
女神とは思えぬ下世話な会話をしているのは、女神ユピテルと女神アリアの2人。
一つの世界に一人だけ存在する女神に、そもそも協調性なんて物はなくそれぞれが好き勝手に喋りだし、もはや収集が付かない状態となっていた。
「女神達よ。我は無駄な事で待たされるのは我慢ならぬのだ。皆仲良く消滅させるかの。」
一糸乱れぬジャンピングからのDO・GE・ZAを決める女神5人。こう見るとなかなか協調性がある様に見えるのだから不思議だ。
「破壊神様、これで封印術には可能性が出来ましたが、先ほど説明しそびれた2つ目の問題があります。」
ミネルヴァは説明を続ける。
「破壊神様の身体となる疑似人体についてなのですが、破壊神様を元にした神核を定着させても耐えられる程の強度が必要となり、ロウインに存在するどの様な物質を用いてもそこまでの強度は実現出来ないと言うのが2つ目の問題点になります。」
「うむ。ではどのような物質であればその強度で創造出来るのだ。」
「はいはーいっ」
話を聞いていたアリアが手を挙げて話し出す。
「それなら、うちの世界にある伝説の金属、ヒヒイロカネしかないっすよ」
「なんたって創造神様が、一番初めに作った物質で、これを元に世界に存在する星々や大地、生物が作られたっていうぐらいの伝説の金属っすから。」
「ならば、すぐに取りに行こうではないか。アリアと言ったな。すぐに、お主の世界に行くぞ。」
そう言うと、破壊神はアリアの頭を鷲掴みにし消え去って行った。
「頭割れるっすっもう少し優しく持つっすー--、、、「すー-、、 「ー-、、「、、
エコーと共に消え去る女神アリア。
ミネルヴァ。
「……」
メーティス。
「……zzz」
ヘレネ。
「……」
ユピテル。
「……」
下僕。
「…………これ前回も見た気が、、」
程なく破壊神が戻ってくる。左手には神秘的な光を放つ金属の様な物を持ち。右手には頭鷲掴みから、顔面アイアンクロー状態へと進化を遂げ、力なくブラリとしている女神アリア。
「どうしてそうなった?」
下僕の呟きが神殿の中に空しく響いている。