05話 女神と破壊神
「まずは、女神の居る場所まで行くぞ。下僕よ付いてまいれ。」
下僕なんだから付いてこいと言われれば勿論ついて行きますが、なんでいきなり女神のところへ。て言うか破壊神辞めるってどういう事なの。
突然の流れに戸惑いが隠せない。そもそも神様って辞めようと思って辞めれるものなの。仮に辞めれたとして、なんかこう世界のバランス的なあれこれが、いろいろとまずい事になるとかそんな未来が見えるんですが。
「従いましょう。我が主よ」
しかし、そこは腐っても破壊神唯一の従者であり、育ての親をも自負する下僕である。さも全て分かっているかのように決め顔で返事を返す。
破壊神は目を瞑り、世界に感覚を接続する。目標は女神ミネルヴァ。すぐに、座標を特定した。
「では、すぐに移動するとしよう。」
そう言うと破壊神は先ほど見つけた座標がある方角に手を向け、手のひらに破壊の力を貯めていく。次の瞬間、手のひらの破壊の力が掻き消える、
「着いたぞ。」
下僕は周りを見渡すが、どう見ても先ほどまでいた廃城の王の間である。何かテレポート的な力で一瞬で移動するのかと思っていたのが拍子抜けである。
「えと、、何も変わっていない様に思えるのですが…」
「案ずるでない。扉から外に出てみよ。」
下僕は王の間の入り口に近づき扉をそっと開けていく。
「こ、これは、、」
扉の先には王の間に続く廊下と、その先に大広間があり、当然、その見慣れた光景を予想していた下僕は、予想外の光景に驚いていた。
扉を出た先は、以前にも見たことがある神聖な雰囲気を持った神殿、そう、女神の神殿の中にある広間に繋がっていたのだ。
「廃城の扉と、神殿の扉が繋がっている…のですか。」
「うむ。そうゆう事だ」
世界を断絶する歪。
創造神が作り出した世界、それは最初は一つの世界であり、この世界が膨張し無限に広がっていく事により、どんどんと大きな世界となっていった。しかしここに破壊神が誕生し、一番初めの破壊を行った。それが世界を断絶する歪である。
これにより、一つだった世界には境界線が作られ、無数の世界へと分かれてしまったのだ。
先の戦いにおいて、梨沙たちの攻撃が破壊神に届かなかったのは、破壊神の身体の周りがこの、世界を断絶する歪で覆われていたからである。
たとえ目の前に相手が見えていたとしても、この境界線の向こうは別の世界と言う事になり、いかなる干渉も受けることがない。
今回、破壊神は王の間全体をこの力で一度世界から切り離し、扉の部分のみを女神の神殿の扉と繋がるよう壁を排除したのだ。
「いるのであろう。さっさと出て来ぬか。」
破壊神は何も居ない空間にそう話しかける。
次の瞬間、何も居ない空間に女神が現れる。破壊神に向かいダッシュで近づくと、手前で華麗なジャンプ、膝から着地すると同時に両手と顔面を、めり込む勢いで床に打ち付ける。
「すみませんでしたっ‼」
女神による華麗なジャンピング土下座が決まった。
しばらく時間が経つが、女神は土下座の姿勢のまま固まっている。
「女神よ」
ビクッ
「オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、………
壊れた玩具の様に、同じ言葉を繰り返す。
女神の知る破壊神とは元来、世界に破壊をもたらす自然現象の様なもので、破壊神その物には意思の様なものは無いはずであった。なので、たとえこちらからちょっかいを出そうとも、仕返しにやってくるなどと言う事はあり得ないだろうと高をくくっていたのだ。
しかし、忽然と現れた破壊神は女神に向かい、明らかな意思を持って、出てこい。と言ったのだ。意思を持った者に攻撃を行えば、反撃される事は必然であり、今の場合は破壊神に攻撃を行っていた者達の親玉が女神本人なのである。
抵抗し戦う?無理無理無理無理、相手は自分たちを生み出した創造神様と同格の存在。一瞬で消滅させられてしまう。なら今出来ることは、全力謝罪あるのみ!
「オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、………
「下僕よ、女神とはいつもこの様に同じことしか言えぬのか。」
「そんな事はありませんよ。私を召喚した時にはもっとこう威厳のある感じで、普通に話してましたし。ただまあ、こんな事になってる理由は分からなくは無いんですが。」
女神を倒せる程の能力を持った下僕ですら、一目見た瞬間に絶望した相手。それに対して刺客を送り続けていた張本人なのだから、初めから勝てないと悟り、こうなるのも無理はないだろう。
破壊神様がここに来たのは別に戦いに来た訳ではないのだけど、そんな事は下僕である私にも予想の付かなかった事なのだから、女神に分かるはずもない。
「オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、オユルシヲ、………
女神の謝罪は未だ続いている。
「このままでは話にならぬ。下僕よ、なんとかせよ。」
「えぇ、私がですか、仕方ないですねー」
下僕は土下座を決め込む女神の前まで歩み寄り、しゃがみこんで声をかけた。
「女神さまお久しぶりです。以前あなたに召喚された士郎ですけど覚えてらっしゃいますか。」
「オユルシヲ、オユルシヲ、オユル、、ん?士郎?、、
先ほどまで念仏を唱えるがの如く許しを請うていた女神が、顔を上げ下僕を見つめる。
ちなみに女神のおでこは床に打ち付けた事により赤いたんこぶが出来ている。
「あー!あなたは一番最初に召喚した神殺しじゃない。とっくの昔に死んだと思っていたのに、なんでここに居るの。」
「今は私、破壊神様の下僕をやっていまして、破壊神様に連れられてここまで来たんですよ。」
「下僕ってなによそれ。簡単に寝返ってるんじゃないわよ。」
その言葉を聞いた下僕は、女神への不満をぶちまけてやった。
「寝返るも何も、女神が出会った瞬間に即ジャンピング土下座決めるような相手に勝てるわけがないでしょうに!そもそもちょっと加護を与えてチート能力を持ってるぐらいの人間に、破壊神様を倒せとか言う時点で無理があり過ぎるんですよ。実際あなたの加護なんて数分しか持ちこたえられないものだし、今まであなたが送り込んだ私以外の者たちは、皆ほとんど戦いにすらならず負けてましたよ!あなたは一応神を名乗る存在なのですから、破壊神様が倒すとか倒さないとか、そう言う次元の存在じゃないことは分かっていたんでしょう!つまり、あなたは私たちに破壊神を倒して欲しいと言いつつ、実際にはお前ら死んで来いって言ってたような物なんですよ。そこのところどう考えていたのか詳しく教えて頂きたいものですねー。ゼェゼェ」
早口でまくし立てる下僕の言葉を聞きながら、女神は気まずそうな表情で目を背けながらも、たどたどしく説明を始める。
「だ、だって、仕方ないじゃない。破壊神の影響は世界に存在する以上どこにいても受けざるを得ない仕方の無い事なんだけど、破壊神本人に居座られたら、どうしてもその世界は他より大きく影響を受けちゃうんだから。実際ロウインは、何もしなくても少しずつ破滅の未来に向かってしまってたし、管理神としては何とかしないといけないって思うのは普通でしょ。」
後半は涙目になりながらも説明する女神の言葉を聞く。
「なんとなく理由はわかりましたが、それでも倒すなんて事は考えるまでも無く不可能でしょう。」
「それはね。倒すまで行かなくても何とかこの世界から追い出してくれるだけでもオッケー的な感じだったと言いますか、それに召喚者に発現する能力は、神に影響を与える可能性があったから、ワンチャン。数打ちゃあたるかも?的な…」
はぁ、、下僕は心の中でため息を付きつつも考える。下僕が倒した女神イリスと違い、目の前に居る女神ミネルヴァは一応は、管理神として自分の世界を守ろうとして動いていた。やり方は非常に浅慮で、なから運頼みと言える物だが、所詮、神の思考回路がどうなっているかなど、人間の自分が考えても理解出来るものでは無いだろうと。
「釈然とはしませんが、この事についての言及はもういいでしょう。元来の目的もまったく別物ですしね」
ミネルヴァが落ち着きを取り戻し、会話が出きる状態になったと判断し本題について話し始める。
「いいですか。落ち着いて聞いてくださいね。破壊神様がここに来た理由は、あなたが考えているような物ではないと思いますよ。とにかく一度、破壊神様の言うことを聞いてみて下さい。」
「本当ですか、あなたの言う事を信じますよ。」
そう言うと恐る恐る立ち上がり、破壊神に向き直り声を掛ける。
「は、破壊神さま、ほ、本日はどのようなご用件で、お越しになられたのでしょうか。」
やっと話が通じるようになった所で破壊神は本題を切り出していく。
「それほど大した用件ではないのだがな、、、
我を人間にして地球と言う世界に、逆召喚せよ。」