01話 運命の戦いへ
破壊神の住まう廃城、その王の間に二つの何者かが居た。
「なぁ、我が下僕よ」
悪魔の様な見た目からは似つかわしくない軽い声色で問いかける
「なんでしょうか、破壊神様」
王座に座る破壊神より一段低い場所に質素な椅子を置き、そこに腰掛ける男が、読んでいる書物から視線を外し破壊神の呼び掛けにそう答えた。
「150年前にお前がここに来てから今日まで、我を倒すためにここに来た者達は皆、召還者と言う奴だったな」
破壊神がそう言うと、男は150年前のあの日、初めて破壊神と出会った時の事を思いだし懐かしそうな表情になった。
そう、破壊神に下僕と呼ばれ150年もの間一緒に過ごしているこの男は、あの日、破壊神が待ち焦がれた100年振りの来訪者その人である。
「そうですね、私と同じ異世界召還にてこの地に召還された者達でしょうね」
ふむ…破壊神はふと疑問に思う。
「しかし何故女神の奴はそんな無駄な事をするのだ。元から居る住人に加護を与えるのと何が違う」
「…私を始めに召喚した女神はミネルヴァとは違う女神ですので、ここの女神の考えはわかりませんが、召喚により性質の違う世界に来た時に目覚める能力は、元々その世界に居たものに加護を与えるのと比べて、特殊で強力な能力が発現する可能性が高いらしいですよ」
事実、下僕と呼ばれる男は異世界召喚によりチートスキル『絶対不変なる者』が発現し、その力を使いこなし、召喚された世界を救ったのだった。
「実際、私の力は私を召喚した女神さえ打ち滅ぼす事が出来る程の力でしたし、この不確定要素に縋ったんじゃないですかね。ミネルヴァは、、」
力を与えた者が、与えられた者に滅ぼされる。そんな馬鹿な話があるのかとも思えるが、確かに管理神たる女神でもコントロール出来ない現象。破壊神に挑むのにまともにやっても意味を成さないからこそ管理神ですら御しきれない現象に縋るのも分からなくはない。
「おや、、破壊神様、久々の挑戦者の登場みたいですよ」
破壊神はゆっくりと頷きながら答える
「そのようだな。しかも3人、久々の客人だ丁重にもてなすとしようじゃないか」
かと言って実際にお茶会の準備をするはずもなく、破壊神と下僕は王の間にて今回の侵入者達がやってくるのを、ただ待っているだけである。
廃城の入り口には、3人の女性が居た。彼女たちが女神により異世界召喚され、破壊神を倒すべく最果ての地までやってきた今回の勇者である。
3人の先頭に立ち先陣を切るのは、セミロングで垢抜けた茶色の髪を神秘的な髪留めで留めている、美少女。発現したチート能力は『勇気ある者』
「やっとここまで辿り着いたね。絶対に破棄神を倒して皆で日本に帰ろうね」
「でもぉ、梨沙ちゃん」
『勇気ある者』の能力者は梨沙と言う名前らしい。梨沙の名前を呼んだ気弱そうな女の子は続けて言った。
「今まで何人も異世界召喚者がここに来たけど誰も勝てなかったんでしょー、、」
「おい真由美、ここまで来てビビってんじゃねーよ」
もう一人のボーイッシュな美少女が気弱そうな子に言い捨てる。
「だってぇ、このお城もボロボロでいかにもなんか出そうだしぃ、もうおうちに帰りたいよぉ」
真由美は涙目になりながら二人に訴えかける。
「あのなーこれから神様ぶちのめそうってんだから、幽霊の一人や二人何の問題があるってんだよ」
「真由ちゃん大丈夫だよ。真由ちゃんの『絶対防御』があれば例え勝てなくたって負けることもないんだし。それに明日香の『重見天日』と私の『勇気ある者』があれば勝てるよ」
梨沙は『勇気ある者』の力の一つ、自身の言葉に味方を鼓舞する力を加える『激励』を使用しながらそう呼び掛けた。
「う、うん。そうだよね。3人一緒なら大丈夫だよね」
「うし。んじゃ何時までも入り口でうだうだやってねーで、さっさっと破壊神の居る所まで行っちまおうぜ」
「おっけー。それではラストダンジョンにレッツゴー」
3人は廃城に足を踏み入れ進んでいく。以前、下僕と呼ばれる男が来た時もそうだった様に、城の中では特に戦闘が起こることもなく、突然死の罠が発動することも無く、ただひたすら静寂の中、3人の歩く足音のみが響いている。
以前、破壊神の姿を視界に入れただけでその者の命は破壊されると言ったが、あれは嘘だ。正確には視界に入れる以前の問題で、具体的には破壊神が住まう城に入った時点で、力の無い者はその命を削り取られて行く。彼女達の様に女神の加護でも持っていれば別だが。
「ねぇ、、あそこの階段の先の大きな扉、、」
「ああ。間違いねーな。あの扉の先からやばい気配をビンビン感じやがるぜ」
「この先に待ち受ける戦いにこの世界の運命…いいえ、この世界だけじゃない。無数に存在するすべての世界、そしてそこに生きとし生けるもの全ての運命が掛かっている。私たちが絶対に勝って救ってみせる」
さあ行こう。
3人は扉を開け破壊神の待つ王の間へと足を踏み入れる。