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破壊神の逆異世界召喚  作者: 桶屋
第2章
11/12

10話 謎の能力者

 都内某所、巨大な建物に有る複数の部屋には、机と椅子が規則正しく並んでいる。建物に隣接するように建つもう一つの建物は、スポーツを行う為の体育館であろう。それらに面した外側には大きなグラウンドが広がっている。


 所謂、学校と呼ばれる施設。その一室に、1人の女性が倒れ込んでいる。




「んん。」



 どうやら、怪我や病気の類で倒れていた訳ではないらしい。その女性は、まるで、朝に自分のベッドの上で目覚めるかの如く、自然にゆっくりと目覚め身体を起こす。



 目覚めたばかりで動きの重い頭を少しずつ覚醒させながら、辺りを見渡す。



「ここは、、、、学校?」



 女性自身も何故ここに居るのかが理解出来ていない様子で、何度も確認する様に回りの状況を確かめている。



「戻って…来た…」



 どこか、遠くへ行きでもしていたかのように、そう呟く。不安とも、安堵とも取れる声で。

しかし、いつまでも教室に居ても何にもならいと悟り、教室を出て昇降口へと向かう。


 何故迷わずに昇降口まで辿り着けたのか、その答えは非常に単純。その女性がこの学校に通う生徒だったからである。


 外に出るために昇降口の扉を開けようとするが、扉は開かない。

部外者の侵入を防ぐ為に鍵が掛かっているのか。しかし、それは外側から来る場合の話である。彼女は校舎の内側にいるのだから、扉の鍵も簡単に開錠できるはずである。


 しかし、扉は開かなかった。そもそも鍵は開錠の位置になっており、開かないはずがないのだ。

彼女はだんだんと感じはじめる。何かがおかしい。と


 扉の事だけが理由ではない。


 


 もう一つの違和感、、、居ないのだ。


 


 誰一人。




 教室から、昇降口まで先生はおろか、生徒の誰とも出会わなかった。

途中で見た校内の時計の時刻は、15時を少し過ぎた頃。平日であればまだ授業を行っている時間なので誰とも出会わないなんて事は有りえない。


 仮に今日が祝日で、休校の日だったとしても部活動の生徒も居るし、顧問の先生は登校している。

しかし、校舎内は勿論、校庭を見ても誰1人として見つからない。

 いつもの見慣れた校舎のはずが、何故か今は初めて目にするような感覚。一度違和感を覚えると、それに伴い押し寄せてくる不安感は一気に大きくなっていく。


 

 教室の窓、非常口、裏口、次々と見て廻るがどこも結果は同じとなる。ここまで来ると、何か意図的な何者かの意志の様な物を感じてしまう。



「どう言う事なの……戻ってきたんじゃないの……」



 彼女の脳裏には様々な仮説が浮かび上がっていた。自分の良く知る世界とそっくりな全く別の世界なのではないか。それとも自分は死んでいて、ここは所謂あの世と言う所なのではないか。



カツカツカツ……



 自分の置かれている状況が理解出来ないまま校舎内を歩く女性。そんな彼女の耳に音が聞こえた。幻聴ではない。確かに聞こえる。人が歩く時にする靴と床がぶつかり合う音。

 

 その音は、今彼女が居る廊下の先を右側に曲がった通路の方から聞こえた。そして音の響きは大きくなって来ている。こちら側に誰かが向かって来ているのであろう。

誰かが来る、その人に聞けばここで起こっている事が何なのか分かるかもしれない。

独りきりだった不安から早く逃れたい思いが行動に現れ、彼女は駆け足で音が聞こえた通路へと向かう。


 角を曲がったところで正面に、足音の主と思われる人物が見えた。


「すみません。ここでな、、に、、」


 ここで何が起きてるか知っていますか?そう問いかけるつもりであったが、その言葉が最後まで紡がれることは無かった。

 なぜ途中で止めたのか、その理由はその人物にあった。服装は女学生が切る制服の様だったが、この学校の物とは違った。彼女の記憶の中でこの学校近辺の別の学校の制服を思い起こすが、同じ物は無かった。制服の上から、ほとんど黒一色のロングコートを羽織り、頭にはコートに付いているフードを深く被っている為、顔は口元以外見えない。


 ただ、服装も不自然ではあるが、それだけでは言葉を止める理由にはならなかっただろう。

ならば何故止めたのか。それはもっと決定的に不自然な物が、その人物の右手に存在していたのが理由だろう。

 


 彼女は、言葉を途中で止め今来たばかりの曲がり角に戻り、更に曲がり角から距離を取る様に、後方に飛び下がる。あきらかに人間のそれとは思えないほどの跳躍力を持って。

 そのまま身構えつつ見つめる先の、その曲がり角から先ほどの人物の姿が現れた。こちら側の通路の片側は窓になっていて、明るい為先ほどよりその人物の姿がはっきりと見える。


 その人物の右手に存在する不自然な物もはっきりと


 それは相手を切り裂き、突き刺し、命を奪う為に作られた道具。



 刀であった。



 彼女は再度その姿を見て混乱する。ここが、自分の通っていた学校なのだとしたらこんな事はあり得ない。彼女が住む世界では一般人が武器を持ってうろつくなど考えられない事だった。

 だとしたら、やはりここは別の異世界であり、この空間は自分の本当の生まれ故郷に似せて作られた幻覚の様なものなのではないか。と。

 異世界だったとすれば、武器を持った人間など何も珍しくはないのだから。きっとそうに違いない。彼女は、今の現状に辻褄の合う答えを見つけようとしていた。




「宮城、梨沙だな」




 その人物が呼んだのは彼女の名前だった。


 

 梨沙は自分の名前を呼ばれた瞬間に能力を発動し、彼女の武器、ジークシュベルトを発現させる。この状況で相手は自分の事を知っている。だとすれば、相手が自分に対してなんらかの目的を持ってこの状況を作り上げた張本人の可能性が高い。そして、はなから武器を持っていたという事はあまり良くない目的だろう。



「突然武器を構えるなんて随分じゃないか。」


 その人物は、まるであきれているかの様にそう言った。


「あなたにだけは言われたくないわよ。」


 梨沙は言い返す。出来るだけ言葉を交わし相手の目的を探れないか、そんな思いで言葉を繋げていく。


「私の事を知っている様だけど、どこかで会った事ありましたか。」


「いや。初対面だ。こちらが一方的に知っているだけの事。」


「私、知らな人に名前を覚えられるほど有名人だった覚えはないんだけど、あなたは一体何者なの。」


「ここでは説明出来ないな。今からお前を連行し、その先で説明したいんだが大人しく着いて来てはくれないかね。」



 相手の目的の一つが判明した。自分をどこかに連れ去るつもりらしい。正直、こんな怪しさしかない人物に着いて行く気には更々なれない。


「両親から、知らない人には着いて行ったらダメって教わっているの。だからお断りします。」


 謎の人物はその言葉を聞き、落胆するかの様に肩を落とす。


「はぁ、めんどくさいけど仕方ないね。殺さない程度に弱らせて連れていくか。」


 本当にめんどくさそうに、しかし、いとも簡単にそれが成し遂げられるとでも言いたげな様子でそんな事を言った。


 言い終わるや否や、まさに瞬き程の瞬間に梨沙の目の前にせまる謎の人物。突進の勢いを乗せた斬撃が襲い掛かる。

 梨沙はジークシュベルトで相手の斬撃を受け止め様とするが、剣と刀が触れた瞬間、信じられない程の衝撃を受けて後方に吹き飛ばされた。

 吹き飛びながらも空中でバランスを直し、左手で地面を叩いて、一回転しながら着地する。


「やっぱり、普通の人間じゃない。」


 梨沙は異世界召喚時に、身体能力が向上しており元の世界の人間相手なら、たとえどんな大男であろうと力負けする事などあり得ない。しかし、目の前にいる謎の人物は、スピードもパワーも明らかに異世界人並みである。


「普通の人間じゃない。か。あんたに言われたくはないね。」


 少し前に梨沙が言った言葉を真似、意趣返しの様にそんなセリフを吐いている。



「今度はこちらから行きます。」


 梨沙は『勇気ある者』を発動させながら自身に激励を掛け、相手に肉薄する。


「ほう、なかなか早いじゃないか。」


 突進しながらその勢いを乗せつつ、上段からジークシュベルトを振り下ろす。相手は刀を頭上に構え受け止める姿勢をとっている。


 (このまま武器を破壊し無力化する)

 能力を発動させた状態でのジークシュベルトの一撃は鋼の塊ですら切り裂く程の威力を秘めている。普通の武器ではまず受け止める事すら出来ずに粉砕する。


 半ば勝利を確信した梨沙の斬撃が相手の刀と触れた瞬間、相手は刀の角度を斜めに変え受け止めるのではなく受け流した。

 言葉では簡単に聞こえるが、これは相当に難しい事だ。初めから斜めに構えてしまえば相手も斜めに打ち込んでくる為、刃が当たる瞬間に角度を変えなければならない。それも一瞬でも遅れれば、衝撃を受け流せずに失敗となる。

 

 しかも、梨沙の斬撃の速度は、突進時の勢いも上乗せされ、異世界基準で見ても相当な一撃だったはず。しかし、それを完璧に受け流したのだ。


 突然、別方向に力が流れてしまえば当然、打ち込んだ側の態勢は崩れてしまう。梨沙は、相手の右奥側に倒れ込むような形でバランスを崩す。そこに、相手の蹴りが飛んでくる。バランスを崩し無防備な梨沙の腹部はちょうど相手の足の前に来てしまっているから避けようがない。



 「があっっ、、」


 腹部に強烈な蹴りを食らい、体が九の字に曲がり吹き飛ぶ。


 

「弱いな。能力頼りの力技、そんな物では私は倒せないぞ。」


 吹き飛び倒れ込む梨沙に向かい、そう言い放つ。


 梨沙は立ち上がり、再び距離を詰め斬撃を繰り出す。今度は力を加減し、バランスが崩れないよう連撃で攻め立てる。しかし、相手はその連撃をもかわし、いなし、受け止め、完全に攻撃を防ぎきる。

 

 このままでは駄目だ。単純に剣を使用した戦闘では相手の剣技が圧倒的に上回っている。ならば能力でその差を埋めなければ勝てない。


 チート能力『勇気ある者』その能力は、自身と味方の精神力、身体能力を向上させる激励と、ジークシュベルトの発現だけではない。

 使用者の意志が折れない限り、受けたダメージを自動回復し続けるリジェーネートがあり継続戦闘能力は非常に高い物となる。だが、今回は相手とは力量差が大きすぎる為、単に戦闘を長引かせていても意味はないだろう。


(やるしかないか。)


 梨沙は覚悟を決める。今から使う能力は、精神、体力共に消耗が激しく、それで決めきれなければ後は無いだろう。


 連撃を繰り出し続けながら、自身の集中力を高めジークシュベルトに意思の力を流し込んでいく。



「何か狙っている様だが、無駄な事だ。」


 相手も梨沙が集中力を高めて居る事に気付き、逆転の一手を狙っている事は分かっていたが、相変わらず余裕な声色でそう言い放つ。



「無駄かどうかは、これを受けてから言いなさいっ」


 言いながら、梨沙は武器を上段に構え跳躍する。


「落下の勢いで威力を上げるつもりか、芸のない事だ。」


 相手は刀を頭の上で横にし、待ち構える姿勢を取る。



「我が意思に応え、我が敵の刃を打ち砕けっ」



 梨沙の持つジークシュベルトから光が放たれ強大な力が迸る。




「ラストぉ・インテンション!!」



 強力な必殺の一撃。大抵の相手ならその力に押しつぶされ消滅してしまう程の一撃が降りかかる。



「どれほどの威力があろうと同じことだ。」


 武器が触れあった瞬間。完璧なタイミングで角度を変え、その力に逆らう事無く受け流す。


「終わりだ。」


 勝利を確信した謎の人物は、とどめの一撃を食らわせるべく、受け流され態勢を崩した梨沙が倒れ込む場所を見やる。


 しかし、そこには受け流したはずの剣も、態勢を崩した梨沙の姿もない。


「何!?」

 

 梨沙の姿は正面にあった。手に持つジークシュベルトは上段から真っすぐに下段へと振り下ろされた位置で止まっている。そして、自身の持っていた刀の刀身は完全に粉砕され、ほとんど持ち手のみとなっていた。


 梨沙の使った能力、ラスト・インテンションは、意思の力によりジークシュベルトの本来の力を解放する能力。そして本来の力とは、限定的ではあるが、起きた事象を、使用者が望む事象に書き換える事が出来る。


 謎の人物は一旦後方に飛びのき距離を取る。


「完全に受け流したはず。おまえのチート能力の効果か何かか?」



 今の一撃でかなり消耗した梨沙はそれを悟られないように、わざと軽い口調で答える。


「教えてあげないよーだ。もう武器は無いんだから、あきらめて帰ってくれないかな。」


 実際は、梨沙には戦闘を継続する余裕はないのだが、状況で見れば自分の方が圧倒的に有利なのは間違いない。相手に引く選択肢を与えて、早急にこの状況を終わらせようと試みる。



「武器?」


 その言葉を聞いた謎の人物は、本当にわからないと言った調子で声を発する。




「ああ、これの事か。」


 手に持ったままの破壊された刀を見る。



「宮城 梨沙。私には苦手な事があるんだ。」


 (突然なにを言うのよ)

 

「武器を持って戦うとね。出来ないんだよ。加減がね。」


 (だから何を言ってるの。もう武器はないじゃない)


「これはね。安全装置なんだ。武器なんて上等な物じゃない。ただ、やりすぎない為に用意しただけのナマクラ。」


 (……………)


 そう言いながら、破壊された刀を無造作に投げ捨てる。



「そうだな、戦いを続けるには武器が必要だな。」


「そんなつもりは無かったんだが、折角の安全装置も壊されてしまったし仕方ない。」


 何かに言い訳をするかの様に一人語り続ける。


「これは不可抗力、事故みたいな物だ。宮城 梨沙、あんたが中途半端に強かったのがいけなかった。そう言う事だよね?」


 独りで話し、独りで納得している様子の謎の人物。ここまで単純な剣術のみで戦闘を行っていたのを止め、能力を発動する。


「『剣山刀樹』 出でよ五ノ太刀、菊理姫(ククリヒメ)。」


 その手に一振りの刀が現れる。見ただけで分かる、先ほどまで使っていた刀をナマクラと呼ぶのも理解出来てしまう。それほどまでに美しく、強大な力を秘めている事が伝わってくる。



 (まずい。リジェネートで動ける程度には体力は回復してきたけど……)


 梨沙は、先ほどまでの有利な状況が完全に逆転している事に焦りを感じる。



「さて、死なれると困るから、必死に避けてくれよ。」


 謎の人物が距離を詰め、袈裟斬りに刀を振るう。その刀を紙一重で何とか回避する梨沙。



「それで避けたつもりか。」


 袈裟斬りに振り下ろされた刀は、そのまま地面を切りつける。その瞬間に、切られた裂け目から何本もの槍状の岩の塊が飛び出し、梨沙目掛けて襲い掛かる。



「な!?」


 咄嗟に体の前にジークシュベルトを構え防御するが、全ては防ぎきれず、左肩、右の太ももに岩の槍が突き刺さり吹き飛ばされる。



「危ない危ない。やはり殺傷能力が高すぎるのは問題だな。」


 たったの一振りで、重傷を負う梨沙を見ながら、独り言の様に呟く。


「折角の武器を使った戦いなんだ。もっと楽しまないとね。」



 そこからの戦闘は一方的な展開となる。謎の人物は、先ほど見せた岩の槍は使わずに、剣激と打撃をメインに梨沙をいたぶっていく。本来ならすでに決着は着いているのだろうが、リジェネートがあるせいで戦いが長引いてしまっている。謎の人物からしてみたら、壊しても勝手に直る玩具の様な状態だろう。


 しかし、その状態も終わりが近づいていた。梨沙の能力は、使用者の意思の力が大きく影響する能力であり、今、梨沙の意思は殆ど折れてしまっている。

 そのせいでリジェネートの効果も薄れ、最早、立ち上がる事すら出来なくなっていた。



「生命力だけはしぶとかったけど、流石に限界みたいだね。殺さずに済んで良かったよ。」


 そう言いながら、梨沙の髪を掴み無理やり引き上げる。


「く、ぅ。。」


「さて、連れて帰るか。」



 完全に決着がついた。



 そう思われたその時、梨沙を掴む謎の人物の足元に、光の線で描かれた模様が現れる。

 

 それを見た瞬間、謎の人物は梨沙を離し、光で出来た模様から離れようと飛びのく。


 


「召喚魔法陣だと!?」


 





 一段と強い光が放たれ、光が収まっていく。



 




 光が収まると魔法陣は消えており、魔法陣の代わりにそこには、




 







 見知らぬ男が立っていた。

 










 


 


 




 

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