暗闇に伸びた小さな手
暗い。長い。感覚がない。
何もない、ひたすら暗闇が続く場所を走り抜ける。
どこまで走っても暗いまま。というか、どれだけ走ったのかも分からない。百メートルかも知れないし、一キロかも知れないし、走ってるつもりで進んでないのかも知れない。
それに息切れもしない。苦しさもない。夢にしては思考がクリア過ぎる。
なら、残りの可能性……。
まさか、……死んだ?
だとしたら、この暗闇は、死因は。考えるとパニックになりそうだけど、一つしか思い浮かばない。
自殺した人間が堕ちる、無間地獄以外にない。自殺も立派な殺人だから。尊いと思えなくても、自分の命を奪ったんだから。
自殺した覚えはないけど動機はある。
それとも、いつかしたみたいに別人格を意図的に作り出して、それが自殺したんだろうか。
どちらにしても、堕ちた以上はこの暗闇を彷徨うしかない。背負った業を消化しきるまで。
『……起きて』
「……?」
幼い…多分、女の子の声だ。
『助けて……』
「……」
漫画の読み過ぎか、行ったら喰われて終わりな異世界に飛ばされた展開を予想する。最近異世界転生の漫画とか悪役令嬢の話とか多いし、いや乙女ゲーに転生するって色々ツッコミどころ満載なんだけど、話としては面白いよね。ヒロインの方も転生者で悪役令嬢よりよっぽど性格悪かったりする話とか大好き。
『おねがい』
しかし声の主は私の現実逃避を許してくれないらしい。まあ暗闇の中狂うことも出来ず彷徨うのを思えばこっちの方がありがたいのかも知れないけども。
「何を助けて欲しいの?」
しん、と辺りが静まり返る。あ、私の声が低いからオッサン認定された? もしくは悪戯かなんかだった可能性……。
『応えてくれた!? こっちに、こっちに来て! 私のちからじゃもうどうにも出来ないの……!』
「いやあの、だから何を助けて欲しいのかって……」
子供だからか主語が抜けてる。必死なのは伝わってくるけど、だからって力量不足なことをお願いされても困るし……。
うーん、と困って頭を掻いていたところに聞こえた叫びが、あまりにも覚えのある言葉だったから。
『いらない子になりたくない……!』
その言葉がどれだけ苦しくてつらい言葉かを知っているから。
暗闇に浮かぶ、小さくて白い手を、握った。