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7/7

七 帰郷と家族

 

 別れの日よりも大きく、装飾も立派な馬車に乗って村に到着した。


 馬車を降りると、故郷の土の匂いが懐かしさを帯びてレオナの胸に迫った。しかし、思っていた以上に感傷的になることはなかった。


 村の入り口には、双子の妹のサーシャが立っていた。


 レオナの目には、自分との再会を喜んでいる彼女の笑顔が映った。そして何より、幸福そうだった。


 小さな村ではあったが、村全体がサーシャの結婚を祝福しているようだった。


「久し振り、サーシャ。結婚おめでとう」


「ありがとう、お姉ちゃん。お母さんたちは式の準備で忙しいみたいで、私だけなんだけど」


「いいの、大丈夫。荷物は自分で運べるから」


「人手が足りなくて、ごめんなさい」


 レオナは、一年も経たない間にサーシャと心の懸隔(けんかく)ができてしまっていることに気付いた。


 姉としてだけでなく、遠い地方に暮らす貴族の妻として扱われている。サーシャの声色から、そう伝わってくるのであった。


 レオナは手にした鞄の重みに耐えた。既に自分は余所者であった。


 少しの間、沈黙があった。


 沈黙に耐えられなくなったのは、サーシャだった。


 彼女は今までずっと気掛かりだったことを姉に尋ねてみることにした。


「お姉ちゃんは新婚生活どう? 幸せ?」


「どうだろう。正直、まだ実感が湧いていない感じかな」


「でも、町の人達はみんなお祝いしてくれたでしょう?」


「私はまだ、結婚式できていないから」


 冷やかに言い放たれたそのレオナの一言に、サーシャは自分の罪を思い出した。犠牲という言葉の持つ暗く不安げな印象が徐々に姉の生活と結びつき始めた。そして、見知らぬ土地での姉の境遇を想像する度、自分の行った打算の責任を痛感した。


「そっ、そう……」


 サーシャは、自分の声が震えていることに気が付かない程に動揺していた。


 そのとき、村の奥から自分達の名を呼ぶ母の声が聞こえた。


「お母さん」


 と、レオナの口から自然と母を呼ぶ声が漏れた。


 サーシャの肩越しに母の姿が見え始め、そこでようやくレオナの目頭が潤んだ。しかし、込み上げる帰郷の涙は(ぬぐ)うまでもない程に(わず)かだった。


「取り敢えずお家に向かいましょうか、お姉ちゃん……」


「そうね」


 レオナはそのとき、何故かフォールズの屋敷に残してきたベイハルトの顔が浮かんだ。


 お土産にこの村の芋を持って帰ろう。そして、彼の好物である芋のシチュー作って、それを赤面する彼の口に運んであげよう。


 レオナは、まだ青褪(あおざ)めている妹の顔を眺めながら、なんとなくそう思った。

(7/7話)


お読みいただき、ありがとうございました。

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