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二 魔術師のベイハルト

 

 レオナの新婚生活は幸せとは言えなかった。


 辺境の地メテオライトにある小さな町フォールズの屋敷に住むことになったが、そこの主人――レオナの夫であるベイハルトは陰気を極めていた。


 幼き頃から魔術の才に恵まれていたベイハルトは、若くして王立魔術学校の教師に任ぜられ、魔術の研究および後進の育成のために教鞭を執りつつ、有事の際には戦場に駆り出され、その度に赫々たる戦果を上げる傑物であった。


 しかし、そんな日々が数年程続いたある日、栄華の盛りにあった彼の経歴は突然途絶えることとなった。


 英邁(えいまい)な彼が、(よわい)二十半ばかそこらで、最果ての町といっても過言ではないフォールズに帰ってくると聞き、町人たちは大層驚いた。


 理由は誰も知らなかった。


 ベイハルトは、フォールズに戻っても、小さな屋敷に(こも)って姿を現さなかった。


 両親は他界しており、兄弟もおらず、メイドも雇っていないベイハルトの暮らしが心配になった町人たちは、彼の様子を(うかが)いに出向き、そこで彼の変わり果てた姿を見つけて肝を潰した。


 目は(うつ)ろで、元々痩身であった肉体はより一層痩せさらばえ、秀麗であった容貌は長く伸びた髪や髭で隠れてしまっていたのである。


 どうやら(ろく)に食事もとらず、風呂にも入らず、日がな一日、何か得体の知れない魔術の研究に勤しんでいるらしかった。


 町人たちは彼の生活を補助しながら、なんとかして彼の目に光を取り戻そうと試みたが、うまくいかなかった。


 時折放たれる(うな)り声や独り言以外は滅多に口にしない彼とは、そもそも会話が成り立たなかった。


 過疎の進むフォールズの町人たちには、毎日彼を甲斐甲斐(かいがい)しく世話する程の生活の余力はなかった。


 このような理由から、すでに適齢期を迎えて久しいベイハルトを妻となりし者に丸投げしてしまおうと策が練られたのであった。


 まんまとその策に(はま)ってしまったレオナは、フォールズに到着し、町人たちから歓迎を受けたが、その歓迎の真の意味を知ることになるまでに時間は掛からなかった。


 彼女は夫となるベイハルトの出迎えがないことを(いぶか)しんだが、まず屋敷の掃除から取り掛かることにした。


 (ほこり)が溜まり、蜘蛛の巣が散見されるそこが居住空間だとは到底思えなかったからである。


 そして、ついに人気(ひとけ)のない研究室の奥に潜む長髪の男と出会い、声にならない声を上げることになったのであった。


 レオナのための結婚の儀は執り行われることはなかった。

(2/7話)

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