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一 村娘のレオナ

※色々な愛情が許せる方向けの物語です。

 

 村娘のレオナは家族を愛していた。


 とある農家の長女として生を()けたレオナには、次女のサーシャの他に、年の離れた二人の妹と一人の弟があった。


 世話好きの彼女は、手の掛かる妹弟(きょうだい)を、自分のことを差し置いて甘やかした。


 特に双子の妹サーシャとは仲が良く、自分を慕い、何事においても自分を頼ってくる彼女を大いに可愛がった。


 そんなレオナは成人を迎えてある決意をした。


 レオナが同じ村に住む青年ロイドに好意を持っていることは、誰が目にも明らかなことだった。


 しかし、サーシャが自分の好意の対象もロイドであることを打ち明けてきたその日、レオナは村外からの縁談を受けることを決めたのであった。


 レオナの家は特別貧乏ではなかったが、裕福とは決して言えない暮らし向きだった。


 幼い妹弟(きょうだい)が働き手として一人前に家計を支えられるようになるまでには、まだ多くの時間が必要だった。


 なので、村長との繋がりから舞い込んだ、とある地方貴族との結婚の話は、レオナの父母にとってありがたくないわけがなかった。


 このような事情をよく知っていたレオナは、自分の縁談を進めるよう父母を説得し、とんとん拍子に村から遠く離れた辺境の地メテオライトに移り住むことになった。


 レオナが村を出る日、家族だけでなく、村の皆が見送りに来た。


 そこにロイドの姿はなかった。


 レオナが馬車に乗り込む際、やや強い風があった。


 目を細めながら振り返ると、吹き迷う風の中、うつむくサーシャの沈鬱なる表情が見えた。


 レオナは、サーシャの性格上、彼女がある種の打算を働かせた上で自分に打ち明け話をしてきたであろうことも分かっていたし、こうなってしまい彼女が深い罪悪感に(さいな)まれていることも分かっていた。


 ただ、それでもレオナは良かった。


 家族を愛していたから。


 (あらかじ)めレオナが頼んでいた通り、別れは簡潔なものだった。


 彼女の心算の通り、そこに彼女の涙の付け入る隙はなかった。


 母の涙より、この門出の意味を理解していない妹弟(きょうだい)の気抜けした幼い顔が、何故かレオナの心に残った。


 サーシャとは最後まで目が合うことはなかった。


 レオナは馬車に揺られながら、いつか行われるかもしれないサーシャの追想の果てに、自分に対する後悔がないように、そう願った。


 少しだけ開かれている馬車の窓からは、しばらく忘れられないであろう故郷の土の匂いがあった。

(1/7話)

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