第一話 クラスメイトは、ラノベ作家
初投稿です!
『青春』とは、我々学生にだけ与えられた特別な時間であり、普遍的な日常でさえもこの言葉の前では彩られた思い出になる。そのため今回の遅刻も立派な青春として彩られたのだと私は考える。
「よくもまぁこんな屁理屈を…」
今朝遅刻したペナルティとして課された反省文を読んだ先生は長い髪を揺らしながら深い溜息を吐いた。
「お前のそのひねくれた性格には、もはや感心してしまうよ牧田。」
「ありがとうございます先生。僕もそういいながら反省文をくしゃくしゃに丸めてごみ箱に捨てちゃうおちゃめな先生が大好きです。」
「そうか。それはありがとう。」
「いえいえ、先生はとても魅力的な方ですから。では僕はこれで…」
職員室の出口に向かって振り返ると肩を握りつぶすような力で引き留められた。
「うん。ちょっと待とうか。」
「うぅ…」
新たに反省文の用紙を渡され今度こそ職員室を出ようとすると呼び止められた。
「あぁ、そういえば牧田お前の家って杉並駅の近くだったよな」
「はい。そうですけど。」
「ならちょうどいい。この封筒を姫野の家まで届けてくれ。」
そういうとあまりにも分厚い封筒と家までの道のりが書かれた紙を渡された。
「封筒の中身聞いていいですかね。」
「1週間分の課題のやら懇談会のプリントやらだ。まさか1週間も学校休むとは思ってなかったからなぁ。」
「なるほど。つまりめんどくさいから学校で渡せばいっかと思いながら一週間経過したと。」
先生は、目をそらしながら「頼んだぞー。」と言って職員室の扉を閉めた。
姫野とは正直全く話したことがないが卓也の情報では凛としたキレイ系の美少女らしい。あいつの情報は信用ならないため特に期待もせず、先生の手書きで書かれた地図をもとに姫野の家に到着した。武家屋敷のようなとても立派な家で少し戸惑ったが表札に姫野と書かれていたので安心した。
本人に直接渡すようには言われていないため郵便受けに入れておけばいいかと考えていたが封筒が分厚すぎて入らなかったため渋々インターホンを押した。
「はい。どちら様でしょうか。」
「すいません。自分姫野さんと同じクラスの牧田っていうんですけど休んでる間のプリント類届けに来ました。」
「芽衣さんのご友人の方ですね。少々お待ちください。」
「いや、友達ってわけでは…」
否定する前に通話を切られてしまったがプリントを渡すだけだからまぁいいか。と思っているうちに和服を着たとても奇麗な女性がが出てきた。
「この度は芽衣さんのためにありがとうございます。ぜひ上がっていってください。」
「いえいえ。自分はこの封筒を渡しに来ただけですので。」
「そうはいきません。せっかくですから芽衣さんに直接渡してあげてください。」
ただ封筒を渡して帰るつもりで安心していたのでまさか家の中に案内されると思わず緊張してしまう。
「ここが芽衣さんの部屋です。」と案内すると女性は去っていった。冷静に考えてほとんど話したことのないクラスメイトが自分の部屋を訪れるのってシンプルに怖いよな。と思いつつも封筒を届けなければ仕方がないと思い部屋の扉をノックした。
「どうぞ」と言われたので「失礼します」と言い、ふすまを開けると女の子らしい部屋が広がっていた。
「誰?」
「同じクラスの牧田です。綾瀬先生に頼まれてこの封筒届けに来ました。」
「あぁ、そう。適当に置いといて」
「了解です。」と床の上に置くのもあれだったので机の上に置いたのち帰ろうとすると、
「ちょっと待って。」
「何でしょうか。」今日は呼び止められることが多いなと思いながら振り返ると姫野は分厚い原稿を差し出してきた。
「あなたどうせ明日暇でしょ。」
「まぁ、暇っちゃあ暇ですけど。」
「ならこれを読んでから帰りなさい。」
「この分厚い原稿をいまから全部読めと?手か何のの原稿なんですかこれ。」
「これは私が出版してる純愛ラノベよ。読み終えたら感想を聞かせてちょうだい。そしたら帰ってもいいわ。」
「てかこんなの一、二時間いや今日中に読み切れるかどうか…。」
「だから明日の予定を聞いたんじゃない。もちろん泊まり込みで読んでいってもらうわ。」
「は、はい?!」
今日初めて話すクラスメイトの家に泊まり、そいつの書いたラノベを読む。普通に考えて意味の分からないことを彼女は平然と言っている。もしかすると彼女は頭がおかしいのではないかと思った。
「いやいや。ほぼ初対面の女子の家に泊まるなんて…」
「私は気にしないわ。」
「あ、ほら僕着替えとか持ってきてませんし…」
「私の兄のものを貸してあげるわ。」
「そ、そういえば予定があったような…」
「見え透いた嘘ね。もう素直にその辺に座って私の原稿を読みなさい?」
どうやら本当に泊まり込みで彼女のラノベの原稿を読まなければならないらしい。これ以上どう言い逃れしたところで論破されそうなので諦めて畳の上に座り原稿を読み始めた。
「素直な男は嫌いじゃないわ。」
「僕は、あなたが嫌いになりそうですけどね。」
ふふっ、と彼女は笑いラノベの続きを執筆し始めた。
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