「最弱」だからと追放されたけど、なんでだろう。私は治癒術師なのに
〇追放のタイミングはパーティそれぞれ
「お前は無能だ。邪魔だ。俺たちの足手まといだ。失せろ。顔も見たくない」
冒険者ランク6に昇格した日の打ち上げパーティで、開口一番に首を告げられた。ふむ。どうしてだろう。
「そうよね~。盾役はパーク君がしてくれるし、前衛火力は私が蹴ったり殴ったりすれば十分だし~。あとあと、遠距離攻撃はシャルちゃんとミルクがしてくれるからね~。うん。いらないねっ」
「中衛も出来ない。斥候も出来ない。邪魔」
「パーク君は、渡さない!」
恋愛脳のシャルちゃんはさておいて。みんな同じ意見らしい。ふむ。つまり居場所がないと来た。
「うん。わかった。それじゃ、お元気で」
「失せろ」
「元気でね~」
「きっとどこかで輝けるはず。きっと」
「パーク君は私が幸せにする!」
『赤銅の軌跡』から脱退するべく、私はギルドカウンターに歩いていく。
「すみません。脱退手続きをします」
「あら、貴女は確か、『赤銅の軌跡』のレイティアじゃない。ハーレムメンバーは嫌だったのかしらね」
「邪魔だって言われた」
「あら? あらららら?」
ここ半年で顔なじみになった受付のシャマルさんは、頬に手を当てて小首をかしげている。年齢不詳のハーフエルフお姉さん。年齢を知った人物は『いなくなる』ことで有名。
「困ったわねえ。まぁ、連日のお茶会が無くなっても回復薬を沢山買ってくれるなら、ギルドとしては大助かりなんだけど」
「そもそも、ずっと回復してなかったし」
「ああ。あれだけ前衛の守りが硬ければそうなるわよね」
『赤銅の軌跡』は、私が先制で殴りつけて、パークがシールドバッシュを含めた盾役。コノマルが回避しながら殴って、私が牽制している間に、後衛の火力で倒すスタイル。誰か代わりに雇うのかな。
「中衛の槍使いか斥候をメンバーに入れるんでしょうね。前々から打診があったから」
「そうなんだ」
「まさか、追加するんじゃなくて入れ替えするとは思わなかったけど。それも一つの道かしら」
「メンバー募集している所、ある?」
「むしろ引く手数多ね~」
私はレイティア。ソロで冒険者活動をしていた所を、弓使いのシャルちゃんと組むようになって、他のメンバーとも出会い、パーティ登録をした。それにしても、困った。シャルちゃん、夜はちゃんと眠れるだろうか。
あ、そうだ。たまにはソロで狩りに行こう。最近は回復魔法を使う機会もなかったし、ちょうどいい。
私はレイティア。ソロ狩りですっかり前衛癖がついた、治療術師だ。
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〇回復スキルはINT依存
「ステータスオープン」
ソロ狩りをするという事で、町の隣にある草原に出てきた。この辺りは凶暴な鹿が狼を襲う危険地帯。だから久しぶりにステータスを確認する。
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〇レイティア
・治癒術師 13
・STR 25
・VIT 20
・INT 48
・MND 54
・AGI 22
・DEX 17
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うん。相変わらず、なんで前衛してたんだろうって言うステータス。でも出来るんだから仕方がない。それじゃあ、狩りを始めよう。
殴って叩いて殴って叩いて殴って殴って殴って殴って殴って。よし、狩った。狩った獲物はアイテムポーチに入れる。思ったより角が刺さって痛かったので、回復魔法を使う。よし、傷が治ったので狩りを再開しよう。
殴って殴って殴って殴って叩いて殴って殴って殴って殴って。よし、狩った。半盾役の名残で、つい盾で殴ってしまう。だって簡単だし。
殴って叩いてを繰り返して、獲物をアイテムポーチに入れる。この流れを繰り返していると日が傾いてきたので、町に戻ってきた。久しぶりのソロ狩りで疲れが溜まった。今日は美味しいお肉を食べよう。
「あら、お帰り。今日の戦果はどうかしら」
「こんだけ分」
素材収集依頼も受けていないけど、常設依頼でお肉の引き取りがある。私はソロ狩りの時は、大体いつも常設依頼でお金を稼いでいた。シャマルさんは、私がソロ狩りするのを知っていたのだろうか。自然な流れで解体室へ案内されていく。
「おいおいおい。雑なやり方だな。あまり高値は期待するなよ」
「問題ない」
「数もあまり多くないしな。効率のいい稼ぎとは言えないぞ」
「問題ない」
狩った獲物を出すと、ムキムキなおじさんが注意をしてきた。
「獲物は、ハンマー系か」
「メイスを使っている」
「ソロだと回復薬であっと言う間に金欠だぞ」
「自分で回復する」
「……おお、悪かったな。治療術師だったか」
「問題ない」
ムキムキなおじさんは、なぜか謝ってきた。
「余計なお世話かもしれんが。パーティを組んだらどうなんだ?」
「クビになったばかりで、いま募集中」
「……おおぅ。そりゃ、悪かったな」
「問題ない」
ムキムキなおじさんは、どうも謝ってばかりいる。不思議なおじさんだ。疲れているようなので、『軽治癒』と『中治癒』と『疲労回復』を使った。ムキムキおじさんが癒しの光に包まれていく。全身の汗により、輝きが増している。
「本当に治癒術師だったんだな。いや、疑っていたわけじゃないんだが。パイクディアやアイアンホーンを狩る治癒術師って初めて見たぞ」
「そうなんだ。次に見かけたら、初めてじゃなくなる」
「そりゃそうだな。あとよ、なんで『疲労回復』以外の治癒術使ったんだ?」
「何となく」
マナポイントが余っていると損した気分になるので、辻ヒールが癖になっているだけ。
今日の稼ぎは統一金貨10枚と統一銀貨8枚。あとおじさんの奢りで、パイクディアの美味しい部位をタダでもらった。こういうお肉をもらっても美味しく焼けないから、酒場で焼いてもらう。今日の焼き加減は少し分厚いお肉を、外はカリっと中はジューシーに。
「え? 全部食べるのかい?」
これくらいはおやつの範囲。あと、焼き飯とこのお肉でシチューも作って欲しい。あとこれとこれも。
「お嬢さん、結構食べるねぇ」
前衛は体が資本だから。私、前衛職じゃないけど。
好評なら連載版を書きます(_’