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第二節・歴史的転換点(3)

 そして、ここでアメリカの登場です。

 

 日露戦争では、日本に味方したのに英国ばかりが得をしています。

 これを、自らの財布にうるさいあの人達が許すでしょうか。

 おそらく難しいでしょう。

 しかも大戦が始まれば、日本は恩返しとばかりに欧州大戦に積極的に戦争に介入しています。

 ハッキリ言って気にくわない状態です。

 

 加えて、日本が自分たちより早く参戦して大軍を派兵している以上、アメリカ参戦の政治的効果は低く、欧州も史実ほどせっつきません。

 取りあえずアメリカに要求するのは、国債購入と無償援助、財政支援ぐらいでしょう。

 

 このような状態で、アメリカは第一次世界大戦に深く介入するでしょうか? もともと孤立主義を掲げる彼らです。

 気に入らない事があれば、いつもの通り北米大陸に閉じこもる可能性は高いと言えるでしょう。

 それに戦争にわざわざ介入しなくても、笑いが止まらないぐらい儲けられるのですからなおさらです。

 何しろ彼らは、世界最大の工業大国です。

 

 なお、ドイツの無制限潜水艦戦などが参戦の最後の有力な理由になったと言われますので、最終的にはアメリカが参戦するかもしれません。

 しかし日本軍がすでにフランスの平原で犇めいている以上、アメリカ陸軍の大量派兵フラグが発生しない可能性が出てきます。

 

 そしてアメリカは参戦しない事で、外交的・軍事的に未熟なまま過ごしてもらい、日本はアメリカに対してアドバンテージを得ることができます。

 

 と言うことで、日本積極参戦、米国不参戦もしくは地味参戦で、第一次世界大戦の様相は後の外交共々大きな変化が見られます。

 史実の逆転として日米の立場が代わったものとお考えください。

 

 なお、史実以上にロシア帝国は日露戦争で叩かれているので、この時点で国力が回復しきっていない可能性も出てきます。

 上記二つの要因により、ドイツ(同盟軍)が若干有利となり、第一次世界大戦がドローで終わってしまう可能性すらも出てきます。

 一方で、戦争が長くなれば長くなるほど、欧州は疲弊して日本(+アメリカ)はその分儲けられる事になります。

 しかし言い出せばキリがないので、ここでは日米の立場が逆転しただけの状況変化に止めたいと思います。

 

 もちろん、ここで日本海軍は、ジュットランド海戦などに参加して戦艦が大活躍し、日本の大艦巨砲主義はますます強固になり、八八艦隊実現を補強するのは言うまでもありません。

 

 ではここで、日本がどのぐらい欧州に派兵できるかを見ておきましょう。

 

 日本陸軍が仮に派遣した場合、即応部隊なら一個軍団、三個師団程度です。

 部分的に戦時動員した場合、半年後の一九一五年ぐらいに一定の大軍派兵が可能となる戦力が揃います。

 許容範囲の派兵数は、最大で日露戦争と同じ約百万人で、交替要員や日本本国の警備を含めると二百万人程度の動員を行う事になります。

 しかも日本ができる大軍派遣は、アメリカが史実で派兵し実際に戦闘参加させた兵力と近くなります。

 史実アメリカは約二百万人を派兵したが、戦闘参加したのは約半分の二十九個師団、約百万人だったからです。

 

 加えて、結果論として一九一八年春から夏にかけてドイツを押し返すだけの兵力があれば良いのだから、百万人の三分の二の六十から七十万人ぐらいの兵力を投入できれば算数の上では計算は合います。

 重要なのは、むしろタイミングです。

 スペイン風邪による、一時的兵員増減の間隙を付く事が重要なのです。

 

 そして日本の戦費ですが、史実で試算された日本陸軍全軍(二十一個師団)を欧州に派遣した場合の一年間の経費が六十二億円だとされています。

 しかしこれは、一切合切含めた丼勘定の試算でしかありません。

 輸送と兵站を英仏に任せ、装備の多くも現地で供与されると想定すると、日本の負担額は大きく減少します。

 それに日本軍は開戦当初から全軍を派遣するわけではありません。

 日本に大軍を早期動員する必要性も気力もないからです。

 

 先遣隊や常備軍の一個軍団程度は、西部戦線が一旦落ち着く一九一四年の秋から冬頃から準備して、一九一五年には派遣できるでしょう。

 しかし、動員には一九一五年内いっぱいかかり、移動などを考えたら欧州に一個軍程度の大軍が到着するのは早くても一九一六年頃あたりが妥当でしょう。

 ちょうど、ベルダン攻防戦のあたりでしょうか。

 

 しかも今回の想定では、派兵する兵力は最大で七十万人です。

 そしてロシア革命後(一九一七年春以降)に、英仏などが悲鳴を上げるように日本に英仏の経費負担による大量派兵を要求するでしょう。

 そしてスペイン風邪の猛威が去る頃に、ドイツ軍の傷病兵復活より早く日本の大軍があれば戦争に勝利できる事になります。

 

 これらを加味した戦費の試算は、大戦全期間で七十億円。

 うち六割ほどは英仏が負担してくれます。

 つまり日本の戦費は三十億円ほどになります。

 

 そして戦費のうちいくらかは、ドイツからの賠償(賠償金と兵器や工業製品などの現物、加えて南洋の植民地)で補填できるし、英仏からもらった武器も含めると、十分収支決算は合う筈です。

 シベリアに大軍を派遣した史実より、日本(特に陸軍)に対する総合的なプラスは大きくなるのです。

 

 また、大軍がフランスに派兵される事は、日本人そのものの国際化に大きく貢献する筈です。

 何しろ数十万人の日本軍兵士が赴く先は、戦時下であろうとも欧州随一の大国フランスです。

 場合によっては、花の都パリなどを通過します。

 海軍も地中海ばかりかイギリス各地に艦隊丸ごと大挙押し掛けているでしょう。

 また、欧州での人種差別の実態を日本人の多くが知る事になり、別の意味で日本人に世界というものを教える事でしょう。

 軍の派兵に平行して、一般の日本人も多く欧州に向かうはずです。

 

 いっぽう、日本が積極的に参戦している以上、連合国はご機嫌取りの為にも日本に多くの物資を発注する必要性があり、国内でも自国消費分の戦時特需が発生します。

 

 加えて戦争前に史実より大きな経済力、工業力を実現しているので、日本経済の発展は大きくプラスになる事に変化ありません。

 

 戦費自体の丼勘定は、史実シベリア出兵の三倍以上になり、10万人以上の死傷者を出すでしょうが、十分に元は取れるのです。

 そればかりか、史実よりもずっと実りある国際的信用と工業力、武器、最新の戦訓を手にすることができます。

 

 なお、第一次世界大戦の結末は、アメリカの代わりに日本が参戦する形になるので、アメリカが参戦しなくても連合軍の実質的な兵力に変化はありません。

 

 唯一の懸念は、日本積極参戦による「八八艦隊計画」の遅延ですが、工業力そのものが拡大し技術進歩も早ければ、遅れを取り戻すことも容易いでしょう。

 


 さて、大戦のさなかに「八八艦隊計画」は名目上はドイツに対する戦時計画としての側面も出して立案され、大戦終了と共に計画がたち消えることなく、アメリカの軍拡に対抗した形での戦備計画として本格化します。

 

 しかも、日本の艦船建造能力は、それまでの社会資本への投資と大戦のおかげで飛躍的に増大しています。

 つまり、史実より沢山建造ドックがあり鉄も豊富で、その建造スピード、技術も高いと言う事です。

 

 もう、勝ったも同然。

 

 大戦終了から二年半後の一九二一年にワシントン会議が開催されても、その時点で加賀クラスどころか天城クラスが一部完成している可能性すらあります。

 

 さて、ここでワシントン海軍軍縮会議が出てきましたが、これは大戦の反省から軍縮傾向に向かった海軍列強の協調により実現しました。

 しかしここでは、アメリカが国際協調の輪に深く入っていない上に史実より対日対英不信を強めており、同様に日英も対米不信を史実より強めています。

 

 特にアメリカは大戦にロクに参戦していないのに、経済力が大きくなったという表面的理由だけで軍拡している事になるので尚更です。

 しかも実質はともかく、便宜上、あからさまに日英を仮想敵とした軍備計画とはしないだろうから、不信感は尚更です。

 

 となると、会議が不成立に終わり、世界は際限ない建艦競争時代に入る可能性は高いといえるでしょう。

 

 かくして、ワシントン会議は失敗。

 

 ですが、先の大戦で深手を負った英国は、もう一度の大艦隊建造には耐えられません。

 再度会議を開催し、艦艇数調整だけでもいいから何とか軍艦の建造に歯止めをかけようとする筈です。

 日米も際限ない艦隊建造が国家経済に大きな負担を強いることは認識しているので、ある程度の妥協はするかもしれません。

 

 結果として、今計画している分を作ってもいいが、これ以上はしばらく計画しないこと、旧式艦は処分する事で妥協する可能性は高いでしょう。

 

 こうした世界情勢のなか、日本は「八八艦隊」の建造に邁進しますが、史実の二倍の国力を持っていたとしても、その完成には大きな苦労が伴われるのは、先述の予算面での説明で分かると思います。

 

 よって、初期計画より三年ずらしました。

 

 ともかく、なんとか「八八艦隊」は完成し、十六隻の鋼鉄の戦乙女たちにより日本の平和は守られる事になります。

 

 一九三二年ぐらいには、八八艦隊に加えてそれ以前の八隻もならべて、さぞ豪勢な観艦式が浦賀沖に出現している事でしょう。

 「八八艦隊計画」完遂と言う目的のグッド・エンド到達です。

 



 さて、エンディングに到達した筈なのですが、大きな問題が発生しているのが分かるかと思います。

 

 原因はアメリカ合衆国です。

 アメリカは大戦に積極参戦することなく過ごします。

 経済力は世界最強、海軍力も世界屈指。

 つまり国際的な評価は、我が儘成金の若造です。

 しかもアメリカは、戦後不況を回避すべく、欧州の持つ市場から再び閉め出された補填を、別の場所で補おうとします。

 つまり、残された最後の市場、支那大陸への進出強化です。

 

 しかし支那大陸への進出を図ろうとしていたのに、当地は英国と日本を筆頭とする列強によって牛耳られています。

 しかも大陸の前に立ちふさがるように、日本が強大な艦隊を作り上げています。

 

 さらに、大戦後の英国、日本共に、図体が大きくなりすぎたアメリカを受け入れる気はありません。

 英国は戦争債務の返済と経済の再構築で手一杯で、そのためアジアの安全保障の肩代わりを日本にさせねばならない程です。

 これは、史実のようにアメリカがドーズ案、ヤング案(ドイツの賠償金大幅引き下げと戦争債務を猶予する案)を認めなければ、英国にとって大きな負担となります。

 しかも、賠償を取り立てるべきドイツの経済はガタガタです。

 戦争債務返還のための資金を作り出す、新たな市場である支那経営を強化しなくてはならなくなるからです。

 

 日本も大きくなった国内経済を維持するためには、支那市場、特に満州市場を手放す事は近代国家としての死を意味します。

 アメリカが何を言おうと聞くわけにはいきません。

 

 またアメリカは、第一次世界大戦で経済を躍進させ、世界最大の経済大国になるのは間違ありません。

 史実の同時期のアメリカやバブル期の日本がそうであったように、天狗になり青天井の投機熱がアメリカ国内で発生するのは必然でしょう。

 史実のようにアメリカ経済が成長して第一次世界大戦が発生していたなら、否定する要因は全くと言っていいほど存在しません。

 アメリカの参戦、不参戦で発生するファクターは、主に国民感情と外交面だけです。

 

 そして、一九二九年かその前後に大恐慌がやって来るのも、また必然でしょう。

 


 大恐慌が起きると、世界列強はどうするのか。

 常道としては、自らの経済圏を高い関税障壁で取り囲んで経済をブロック化し、恐慌の自国経済圏への影響を最小限に留めようとします。

 

 ブロック化をしたくてもできない、つまり多くの植民地を持たない工業国は、アメリカ合衆国、ドイツ共和国、大日本帝国、イタリア王国です。

 ソビエト連邦は特殊ですので除外します。

 持たない国の中で、金儲けと言う点で日本に関わりがある国は、自国を除けばアメリカ合衆国です。

 

 しかもアメリカは、日本の数少ない市場である支那、朝鮮半島、そして満州に手を伸ばそうと、あの手この手と武力以外の外交や宣伝戦略を駆使してきます。

 日露戦争で少しばかり市場に食い込んでいたら、尚更行動は激しいでしょう。

 

 アメリカとしても、自らの巨大な生産力を受け入れる巨大な市場がなければ、内需をいかに拡大しようともいずれ限界がきて、より大きな不況に陥ると考えるのはある種の必然です。

 

 大規模公共事業という方が、帝国主義資本主義的な考えからは無理があるのですから。

 

 そして一九三二年に景気回復に失敗したアメリカは、より大きな不況に突入します。

 これは史実でも同様で、このあとルーズベルトが登場してニューディールという全体主義的大規模公共事業で国内経済の建て直しに挑みます。

 

 つまり一九三三年に、アメリカの不安は最高潮に達します。

 

 しかもその不安は、史実と違い太平洋の向こうに、自国並の強大な海軍を持つ日本が存在する事でより大きくなります。

 しかも、こ憎たらしい日本人たちは、英国のおこぼれで支那市場を席巻して、しかも斬新的な経済政策(高橋是清による財政投資や傾斜生産)で不況を乗り切ろうとしています。

 アメリカの不景気のせいで日本の農村が困窮していますが、そんなもんアメリカには見えていません。

 

 そしてここで重要なのが、アメリカが第一次世界大戦に積極的に参加していないという点です。

 

 20世紀に入り総力戦をしていないアメリカは、外交という点で大人になる事ができていません。

 軍隊、特に陸軍も近代軍としては未熟なままです。

 下品な表現を用いれば、海外戦争のチェリー・ボーイです。

 対外戦争を知らない国民感情から、稚拙な行動を取る可能性は十分に出てきます。

 

 しかも軍備増強した海軍はともかく、陸軍の軍備は大きく遅れており、大戦参加していないので編成も小さなままです。

 

 いっぽう日本ですが、「八八艦隊」を浮かべた事で少し気が大きくなっています。

 これは、日本の民族性を考えれば自然な流れでしょう。

 

 しかも、支那経営、特に満州経営は英国のお墨付きの元、英国の機嫌さえ損ねなければ好き勝手できます。

 大戦での恩義があるので、イギリスを初め欧州は日本に甘くならざるを得ないので日本の増長は進みます。

 

 支那は動乱のまっただ中で、主力輸出商品である兵器の需要には事欠かないという状況です。

 このようなおいしい市場を、世界的不況のさなかアメリカに渡せるはずありません。

 

 しかも、日本人達にはご自慢の「八八艦隊」があり、運用するのは日清、日露、世界大戦と連戦連勝を続けた世界最強の帝國海軍です。

 

 これだけのものを持ちながら、アメリカの白人優越主義的考えと国力(経済力)を嵩に着た政治的要求に屈する事は、政府や軍以上に気分屋の日本国民が許すはずありません。

 

 日本政府自体は、日清、日露戦争に続いて第一次世界大戦への本格参戦で、外交的に史実より大人になっているでしょうが、国民意識までが成熟されるには時間が足りません。

 

 そして経済を原因とした日米の対立がここまで来れば、後はどちらかが折れなければ戦争の可能性は十分にでてきます。

 しかし、どちらも国の首(経済)がかかっているので、後に引く事が出来ない状態です。

 

 さらに、戦後の不況で日米ほどの大艦隊を建造出来なかった英国が、ここで暗躍する可能性は否定できません。

 むしろ、ここで暗躍しなければ英国外交が泣くと言うものです。

 

 日露戦争のように、国力に劣る日本をたきつけアメリカにぶつければ、どちらか勝つにせよ(できれば弱い日本にギリギリで勝って欲しい)英国の相対的優位になるのです。

 何と言っても英国が直接損害を受けることはなく、しかも大戦で大きくなった国同士が潰し合うのだから、戦争を助長こそすれ止める手はありません。

 しかも今回の戦場は、欧州からはるか彼方の太平洋です。

 

 セコンドに入った日本が負けそうになった場合だけ、タオルの投げ時を間違わなければいいのです。

 アメリカ側のセコンドには、アメリカと友好関係の強いフランスを付けておけばいいでしょう。

 


 かくして、飛行機の邪魔しない時代に、日米の鋼鉄の戦乙女たちが、太平洋と言う地球上最大の舞台を使っての戦いが行われます。

 


 では、この後は各ターニングポイントの補足を行っていきましょう。

 

 実際の彼女たちのスリーサイズやチャームポイントなどに触れるのは、その後にしたいと思います(笑)


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