第二節・歴史的転換点(2)
最初の突破口は日清戦争。
ここで史実以上の成果を手に入れるのです。
そして清帝国からより大きな利権や賠償金を獲得できれば、次の対戦相手であるロシア帝国にも、史実より条件のよいゲームができます。
しかも、日清戦争でより多くの利益を得るという状況想定は、いまだに市販のどの作品でも用いられていない点で筆者のお気に入りです(笑))
なお、日清戦争が史実のままでも、英国からの勧告で遼東半島を取らずに余分に一億両(約一億五千万円)分捕っておけ、というものがありました。
これを素直に受け入れていれば、史実より七〇〇〇万両(約一億円)余分にお金がもらえた上に朝鮮での権益を確固とし、三国干渉も臥薪嘗胆の掛け声もなかったかもしれません。
いっぽうで国内の強硬派は、賠償金として十五億円(十億両・金塊一千トン!)を分捕れという意見もありました。
そうした錯綜から、うまく立ち回れば戦争が史実のままでも今少しうまい汁が吸えたかもしれません。
まあ、細かいことを考えるのはこの次の事なので、先を急ぎましょう。
さて次は、北の熊ロシア帝国です。
史実同様、かの陸軍大国に史実以上の勝利をおさめるのが次の目的です。
しかも、八八艦隊の彼女たちのために史実以上の勝利を得なければいけません。
さらに、北の熊に勝利して極東を安定させ満州でより大きな利権を獲得し、朝鮮半島の住民に東洋の覇者が誰であるかを教えなければいけません。
朝鮮半島については、日本の威力を示さねば朝鮮の伝統的民族意識から彼らから見た東夷に過ぎない日本人の言うことを(それがいかに正しかろうと)聞いてくれないからに過ぎません。
さて、日露戦争で史実より大きな勝利を得るにはどうすればいいのか。
何が必要なのか。
史実の日露戦争では、外交的、大戦略的には恐らく歴史上最高クラスの勝利を獲得していますし、条件も整えられました。
先人達の努力については言うまでもありません。
よって、史実以上はどう考えても望めません。
強いて挙げるなら、講和条約後のハリマン協定を反故にしたことですが、直接関係ないのでここでは取り上げません。
さて、ロシアに対する勝利は戦術面という事になりますが、日本海海戦に代表されるように、海ではそれこそ近代軍事史上最高の勝利を得ています。
あれ以上を行えというのは、森羅万象を司るカミサマホトケサマ以外には不可能でしょう。
国力が小さく軍事力も劣勢な側が、文字通り相手海軍を殲滅させたという例は、近代史上ではあり得ないほどの奇蹟です。
となると陸での戦いが、勝利の鍵となります。
確かに日本陸軍は、優れた作戦指導と戦場での幾たびの幸運にも恵まれ、辛勝で陸軍大国ロシアを押し切った形に終わっています。
しかし、最後まで自らが求めてやまなかった決定的勝利を得ることはできませんでした。
これは、ロシアの伝統的後退戦術と先入観から来る誤断、彼我の戦力差(ロシア軍の方が大抵多い)、そして日本陸軍の戦力(+砲兵戦力)が少なかったことに原因があります。
遼陽、奉天は言うに及ばずほとんど全ての戦場で、結局砲弾不足で日本軍は最後の一押しができませんでした。
これは、旅順戦後半以外の戦いの大半に当てはまります。
特に遼陽の勝利以後の追撃戦が速やかに出来なかった事は、まさに砲弾不足が原因です。
奉天でも重砲弾がもう数万発あれば、ロシア軍主力の半数近くを包囲降伏に追いやれた可能性がありました。
また、開戦初期から機関銃に着目していれば、戦場で大きな変化をもたらしたでしょうし、貧乏くさい日本軍には開戦初期からの機関銃の大量装備こそが相応しいかもしれません。
つまり、もう少し豊富に戦力(+鉄量)を供給できる体制が国内に確立されていれば、より大きな勝利が得られていた可能性がでてきます。
そこで、日清戦争で清帝国よりより多くの賠償金を得られたという想定から、賠償金が対露戦備のために陸軍の兵器(+砲弾)調達予算に割り振られていればどうでしょうか? 史実ですら国家予算の一・五倍の賠償が日清戦争ではありました。
賠償金が史実より多ければ、砲兵旅団の一つと砲兵(造兵)工廠のさらなる拡充ぐらいできても不思議はありません。
(※陸軍師団のさらなる増設は、平時の兵員確保の問題から、大規模には難しいと思われます。)事前にお金があるのですから、戦争に向けて海軍のように、戦前から十分な砲弾の備蓄も行いましょう。
(※史実の海軍は、最後まで砲弾不足にはなりませんでした。)
では、史実より潤沢な砲兵と砲弾により、日露戦争では日本陸軍には、早期に進撃を続けてもらいハルピン前面まで頑張って進撃していただきます。
もしくは、当初の戦略構想にあった、別働隊によるウスリー進撃をしてもよいでしょう。
うまくいけば、全満州の利権が日本の手元に転がり込んでくることでしょう。
特にハルピンを落とせば、満州全土を手に入れたも同然です。
さらに、他のロシア極東から利権を得られる可能性も高くなります。
英国に実をともなったおべっかを使っておけば、外交交渉しだいで、この可能性も高くなります。
加えて、露清密約を白日の下に晒すことができれば、日露交渉以外に日清交渉を再び行うことができ、清から再び領土か賠償金を得ることもできます。
ここは清を徹底的に虐めておくのも一つの手でしょう。
あと、史実より勝利するのですから、ロシアからは樺太全島を確実にぶんどります。
これで国内油田問題が大きく改善されます。
大食らいの彼女達のためには、是非とも必要なフラグです(笑)
日露戦争の大勝利。
このフラグをクリアして、次のステップに移行します。
さて、日露戦争では大勝しましたが、勝利のためには史実以上の戦費が必要です。
史実と同じ返済ではまかないきれない可能性が高くなります。
ハッキリ言って日本の財政は、破産三秒前、いつ債務不履行を出そうかと言ったところでしょう。
そこで、戦争に深く協力してくれた英国から借りた戦費を返済するために、戦争で得た利権の一部を充てることにします。
ついでに、朝鮮半島も経済的に開放してしまいましょう。
日本にとっての朝鮮半島は、他国の勢力圏にならないのならば、食料供給地と満州の通過点という以上の価値はありません。
史実より多く満州利権が手に入っていれば尚更です。
かくして、英国資本が全満州と朝鮮半島に落ち、同地域の社会資本は英国の潤沢な資金により、史実より簡単に整備できる事でしょう。
アメリカも少しは仲間に入れてやってもいいでしょう。
戦に勝って財布は一見重くなっているんですから、大盤振る舞いもしたくなるでしょう。
これら外資への満朝解放により、実利として得られる日本の利益については言うまでもありません。
外資による税収が日本の手に落ち、同地域の発展は日本人労働力を吸収し、現地の鉄道開発、資源開発も促進されるからです。
そして、清帝国、ロシア帝国に勝利した事でようやく朝鮮半島の住民達は、日本人の言う事に耳を貸すようになり、日英の主導の元近代化への道を歩むようになります。
併合の必要はありません。
保護国のままで全然オーケーです。
そして朝鮮独立維持により、日本の大陸における防衛負担が軽くなり、余力を国内開発に向けることもできます。
一方、日露戦争で大勝利してしまった帝国陸海軍ですが、このまま行けば史実以上に増長して、困った行動を引き起こしそうです。
ここでは解決策は少ないので、次の第一次世界大戦で解決させたいと思います。
で、このステップで次に重要なのは、日露戦争から第一次世界大戦までの国内不況をいかに乗り切るかです。
もしここで国力を大きくできれば、鋼鉄の戦乙女に出会える確率が高くなることうけあいです。
伝説の浦賀沖で彼女たちに出会う為には、できれば立てておきたいフラグです(笑)
しかし史実では、日露戦争の戦費返済が主な原因と思われる不況(統計数字的には成長の鈍化と言う程度だが)に悩まされます。
そこで、先述の外国(英国)資本を日本経済のカンフル剤とするわけです。
英国により満州、朝鮮半島は発展し、日本の労働者の受け皿となり、住民も多少は豊かになり、近在の日本が商売でつけ込むスキが多くなる訳です。
しかも、英国に利権をある程度渡して借金の返済を無期限としてもらえば、国庫の財政負担も軽くなります。
ただ、これだけでは借金返済には足りません。
もう少し何か欲しい所です。
大幅な軍縮は当然なのですが、大陸に英国資本を入れても史実同様の陸海軍の反対で難しいでしょう。
と言うことで、日露以後の日本には最もお金の儲かる商売、武器輸出に手を染めていただくこととします。
輸出品目は、日露戦役で作りすぎた兵器、戦後の反動で縮小された陸海軍の装備、ロシアから戦利品で得た装備が挙げられます。
百万の軍隊が使っていた装備ですから、相当な量になります。
それに戦争が終わったら、武器であれ余り物を売却するのがそれまでの世界の慣例です。
これらの武器を、まずはようやく自立し始めた朝鮮半島国家や、なんとか西欧に対抗したい清帝国にまずは安価で売却します。
これが呼び水です。
そして在庫の手持ちがなくなれば、後は国内の工場で新しく作り通常の値段で販売するようにします。
通常価格でも当時の日本の物価なら、欧米から購入するよりも遙かに安価ですし、輸送コスト分さらに安くなります。
ついでに、その後も近在なので供給を受けるのが簡単になります。
メンテナンスなどアフターケアも受けやすいです。
買う側にとってはメリットだらけです、少々の性能不足など考えずどんどん買っていただきましょう。
そして近隣ばかりではなく、他の有色人種国家にも売り込むことを忘れてはいけません。
買ってくれるのなら、欧米にだって売りましょう。
商売なのですから、手広く行うのが常道というものです。
ただし、英国の顔色を伺うことは忘れないようにしましょう。
そうして手に入れた外貨は、借金返済が終われば全て国内の社会資本の整備と重工業施設の投資に使い、さらに日本の基礎工業力と国力の増大を行います。
満州の資源がより多く使えますから工業化のコスト面でも史実より有利な筈です。
そして血に濡れた外貨で国内経済を全力回転させるのです。
うまくいけば年率7〜12%の成長ぐらい維持できるのではないでしょうか?(うまくいけば、十年で国力が二〜三倍に膨れ上がっているという事です。)
ああ、そうそう、武器輸出で金儲けするという事に対する良心の呵責については、あとで滂沱と涙でも流しておきましょう。
国には工業力が、国民には牛鍋こそが大切なのです。
さて、国力、工業力を二倍という数字はともかく、日本経済は史実よりある程度は大きくなった事でしょう。
と言う訳で、経済発展の最大のチャンス、第一次世界大戦が到来します。
彼女たちに国費を貢ぐ為には、ここでどれだけ儲けられるか、全ては戦争特需にかかっています。
今までの改竄で、史実の二倍とはいかなくても五割り増しぐらいの国力が増えていると思われます。
工場も造船所も史実より沢山あり、しかも立派になっている事でしょう。
また、日露戦争以後大英帝国に大きな貸しを作っている日本には、当時の外交原則に則って積極的に第一次世界大戦に介入してもらい、大戦をより引っかき回してもらいます。
そして積極参戦は、結果として多くの恩恵を日本にもたらす可能性が高くなります。
まず、一番大きな成果は外交得点です。
欧州世界での国際的優等生を演じ、日本の存在感を示し、さらに日本軍の強さを見せることができれば大いなるプラスとなります。
万が一、日本軍が成すところ無く大損害を受けても、欧州の大地で血を流したことを欧州諸国は外交上忘れるわけにはいかなくなります。
また、本来日本が負担しなければならない膨大な戦費は、アメリカの支援を受けた英仏がかなりの金額を肩代わりしてくれる可能性が高くなります。
なにしろ日本は、遠路一万キロを超えて欧州友邦を助けに行くのです。
武器弾薬の現地補給はもちろん、兵站の主な面倒は経費込みで見てもらえる筈です。
これは史実のアメリカ軍の状況を例とする事ができるし、史実の日本もイギリスが比較的早い段階で派兵の際の戦費負担について発言しています。
そのぐらい欧州は、よく訓練されたまとまった数の軍隊が欲しかったのです。
そして、当時の日本陸軍ほど合致した条件の軍隊はありません。
しかも列強の全てが大戦争でアジア利権どころでなく、日本は国防の心配もありません。
血を流す以上、出来る限り高く売りつけてやればよいのです。
また装備についても、史実で参戦したアメリカは膨大な武器を主にフランスより無償で供与され一気に近代化を果たしています。
重砲など持っていくのが大変な装備のほとんどは、欧州で貰い受けているほどです。
つまり欧州に行った日本陸軍の師団は、帝国陸軍が喉から手が出るほど欲しい最新鋭の重砲と迫撃砲、機関銃が、当時最新鋭のフランス・シュナイダー社、ホチキス社の製品となるのです。
戦車や航空機だって沢山もらえるでしょう。
なお日本兵の犠牲(戦死者)については、土壇場で参戦したアメリカが10万人ほどで済んでいるので、日本も同レベルかそれ以下になり、国家としては許容範囲で収まるでしょう。
むしろ総力戦、消耗戦など貴重な実戦経験を、最新の装備と共に得ることができるのですから、軍そのものは参戦する方が効果が大きいのは間違いありません。
また、世界大戦に参戦し欧州に大挙日本兵が赴くことは、日本人ばかりか日本軍全体にも大きな変化をもたらします。
日本軍も世界というものを知って多少は現実を見るようになり、また戦争で活躍するのでその後欲求不満をためる可能性も下がります。
なお、ここでの戦費は、必要経費と言う事で目をつぶりましょう。
(※全額日本負担と想定した場合、軍団規模の派兵だと最低で十〜十五億円程度、最大規模の派兵だと百億円以上になる。)