第二節・歴史的転換点(1)
■概要
一九二〇〜三〇年頃の日本の国家予算を二倍、三〇億円代後半の国家予算を編成させるためにはどうするか? ここでは、艦隊を作る前提の日本帝国を組み上げるための歴史改変がテーマとなります。
しかし、間違って欲しくないのは、「八八艦隊」を健全に作るのが目的であり、必ずしも近代日本そのものの圧倒的優位による発展が目的ではない点です。
さて、史実では第一次世界大戦中と日華事変前に日本経済は飛躍的な成長を遂げています。
他の期間も、発展途上国特有の経済上昇曲線に従って経済力は伸び続けます。
明確なグランドデザインを持った国家が国内発展に力を入れ、近代教育の普及によりマスプロ化された国民が増えれば、数字の上でGDPと国家予算が増えるのは大筋において道理です。
そして「八八艦隊計画」までに、日本が大きく経済成長する時期は第一次世界大戦頃です。
一九一七年の国家予算が七億八〇〇〇万円、一九二〇年の国家予算が一五億四〇〇万円と言う数値が成長ぶりを如実に現しています。
池田勇人や岸信介、高橋是清もビックリです。
つまり、第一次世界大戦が始まるまでに、何とか経済力、工業力、社会資本を史実よりも大きくしてしまえば、一気に日本経済を躍進させる事も可能となる訳です。
しかも、第一次世界大戦が始まるまで、日本の工業生産力は世界の1%に過ぎません。
二倍になったところで、日本での労働賃金を考えれば戦争中に増加分の生産力を受け入れる余地はいくらでもあります。
当時の日本では限定的効果しか望めませんが、公共投資で国内需要を作ることも可能でしょう。
しかし、1から2になったのを2から4にするにはどうすればいいか。
と言うよりも、4になる前に1から2にしなければいけません。
しかも、第一次世界大戦までに実現しなければいけません。
これは結構難問です。
史実での先人達の努力を考えると、国内での地道な努力でこれを実現するのは、かなり難しいと判断せざるを得ません。
となると、あとは外に頼るしかありません。
帝国主義的時流にさらに乗り、史実より大きな利権を獲得し、海外からの投資を増やすしかないのです!
・・・と強引に引きに持ってきた所で、本論に入っていきたいと思います。
■本論
さて、明治維新以後の近代日本にとってキーとなる場所ですが、支那大陸、朝鮮半島、そして太平洋です。
明治維新以前の歴史が動かない限り、変わることはありません。
また、近代日本に色々とちょっかいをかけてきたり、自らの利権のために助けてくれる列強は、ロシア帝国、大英帝国、アメリカ合衆国、中華帝国(清、中華民国)です。
他は無視してもかまわない勢力しかアジアにはないので考えないことにします。
そして、八八艦隊完成までの近代日本にとっての対外的な事件は、大きく日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、海軍軍縮、シベリア出兵、世界恐慌、場合によっては満州事変も含まれます。
これで大まかな材料は揃った訳ですが、以上のファクターを日本の国益と国防から考えていきましょう。
まずは、近代日本の健全な独立を維持するため、弧状列島を防衛せねばなりません。
明治当時の最大の敵は、東アジアで南進政策を推進し、あわよくば朝鮮半島はおろか日本列島まで併合をもくろんでいる北の熊、ロシア帝国です。
強大な彼らから我らが母なる大地を守るには、いかに四方を海に囲まれているからと言っても弧状列島だけでは不足です。
いかに強大な艦隊を維持できても、地政学的に本土と緩衝地帯になる場所が必要です。
それはどこか? 言うまでもなく、朝鮮半島と満州です。
日本は朝鮮・満州を自らの勢力圏(※領土や植民地と言う意味ではない)として、初めて祖国をどうにか防衛する事ができます。
もし疑問があるのでしたら、当時の世界情勢を地政学的に図書館などで調べてみてください。
小学生の算数より簡単に同じ結論が出てきます。
かのマッカーサー元帥すら認めている事です(笑)。
日本が帝国主義時代で自主自立を維持するためには、是が非でも必要なのです。
(まあ、これを見るような方なら、調べるまでもなく納得いただけるでしょう。もちろん、サヨク先生方の意見は無視します(爆))
では、史実日本のように、朝鮮・満州を領土や植民地にしてしまおうか? いやいや、それは危険です。
植民地は、経営を軌道に乗せるまで莫大な資金が必要です。
併合して領土にするなら尚更です。
運営費も馬鹿になりません。
しかも日本的植民地建設は、史実を見る限り「投資経営型」という投資側の国が利益を得るにはもっともタイムスパンの長いものを選択しています。
これは、一方的に搾取するための植民地を作るのではなく、新しい近代国家(日本の一地域)を建設するようなものです。
半世紀近くは、支配側の莫大な投資を必要とします。
史実の台湾、朝鮮半島が証明しているでしょう。
何しろどちらも、「植民地」ではなく「併合」しているのです。
多少違いますが、大英帝国のカナダ、ANZACがこれに含まれるでしょうか。
(あ、そうそう、当然サヨク的議論に耳を貸す気はありません(笑))
また、人道的とか自己満足などの介在しない銭勘定で考えても、「投資経営型」植民地にする必要はどこにもありません。
逆に、搾取しまくればいいと言う訳でもありません。
緩衝地帯を疲弊させてしまっては本末転倒、元も子もありません。
それに、史実日本、特に初期の明治政府が求めていたのは「朝鮮半島の独立」を維持する事です。
明治の政治家たちは朝鮮半島に近代国家を作り上げてもらい日本の緩衝地帯にして、祖国を防衛しようという考えがありました。
これには朝鮮半島民衆の事は考えられていませんが、時の明治政府がいかに健全な考えと外交感覚を持っていたかを示すものでしょう。
大陸に隣接する島国が当然選択すべき外交です。
さて、植民地的経営がダメになりました。
しかも、当時の朝鮮半島住民には、明治日本のように自ら近代化し自立しようと言う考え方は薄かったようです(※あったが、少数意見としか言えない)。
つまり、朝鮮自力での近代化は当面は期待できない。
となると、朝鮮に日本以外の資本を入れてしまうより他ありません。
一番良い外資は、当時ロシアと対立していた大英帝国です。
アメリカが良いと言う声もあるでしょうが、アメリカはセオドア・ルーズベルト大統領ですら、利権のために日本を助けたのであって、彼らの政策には徹頭徹尾「金儲け」しかありません。
その点は、かの大英帝国も同様ですが、外交的蓄積の違う英国を一度味方にしてしまえば非常に信頼がおけます。
世界帝国たる大英帝国は、自らの世界帝国を維持するためと体面もあり一度味方にしたものを裏切ることが出来ないからです(得意の二枚舌で翻弄する可能性は高いですが。)。
それに引き替え当時のアメリカは政治的にはまだ未熟で、大統領が替われば政策も変更される可能性が十分あります。
(人種差別と言う点をここでは無視しています。)また、アメリカの経済力だと、後々を考えると一国で全てを飲み込んでしまう危険性があります。
では、朝鮮半島に英国資本を導入するにはどうすれば良いのか。
答えは簡単です。
日本が朝鮮にかまけられないぐらい疲弊すればいいのです。
イギリスがロシアに取られたく無ければ、自らの都合で介入してくるでしょう。
ですが、日本が弱体化しては、目標である「八八艦隊」が遠のいてしまします。
困りました。
これでは進退窮まり、結局は市販されている作品のように、艦隊を揃えたおかげで困窮した貧乏日本になってしまいます。
それでは、彼女たちの肩身も狭いことでしょう。
ここで朝鮮半島問題が少し詰まってしまったので、他を考えて見ましょう。
朝鮮半島や満州以外の日本にとっての重要な場所、太平洋。
東に広がる広大な海に日本人の目を向けさせて、大貿易帝国にできれば、てっとり早く巨大な国力建設が達成できそうな気がします。
何しろ、現代日本は貿易立国です。
ですが、第一次世界大戦までの日本には絹(少し後に繊維を追加)以外にロクに輸出品目がありません。
当時は、植民地を持たない者による中継貿易という考えも世界的に見てもありません。
もちろん、加工貿易など一部の繊維産業以外のまともな工業力のない日本では輸出すらできませんでした。
それに、二〇世紀に入るまで日本と関税自主権などの面で対等につき合い、さらに同盟国となってくれそうな太平洋国家はありません。
例外として、明治のまだ早い時期にカラカウア王率いたハワイ王国がありました。
しかし、時の明治政府はハワイ王国から打診された皇族とハワイ王族との婚姻を断っています。
ひとえに、日露戦争以前の日本が弱小国でしかなく、欧米列強に遠慮したからに他なりませんでした。
当時の日本(1880年代)は、治外法権、関税自主権すらまともにない有色人種の弱小国だったのです。
治外法権撤廃と関税自主権獲得のために、列強の機嫌を損ねるわけにはいかなかったのです。
しかも太平洋の大半は、二〇世紀を迎えるまでに大半が欧米列強の植民地となっています。
となると、海に出口を求めるのは難しいと言うことになります。
日本人が海に出て行くには、最低でも明治維新頃に大変革が必要となるでしょう。
なお、貿易や海洋国家戦略という言葉が出てくると、当時の世界帝国である大英帝国と連携してという意見が出てくるかと思います。
しかし、日清戦争で勝利し近代国家としての力を示し、ロシアと強く対立をする以前の日本に、かの世界帝国がマトモに相手にする理由がありません。
また、近隣の列強だからと言って、ロシア帝国との関係強化は論外です。
かの国と我が弧状列島国家が、国家レベルで本当に友好関係を結んだ事がありません。
地政学的に見ても、対等な上での日露友好はほぼ不可能です。
つまり、太平洋と交易にまともに手が出せるようになるのは、日露戦争以後となります。
ですから、太平洋を見るのも今少し置いておきましょう。
では最後の土地、支那大陸です。
先述した通り、支那の中でも満州が日本にとって重要と言うことになります。
史実の明治日本は、日清戦争までは熱心に清帝国との協調を図りつつ欧米列強と対抗しようという方向性を持っていました。
しかし、清帝国政府の無理解と伝統的対日軽視(※実体のない大国意識と中華思想)から、全く実現の可能性がありませんでした。
その果てが日清戦争だったのです。
それに当時の清帝国は、国体、政治制度的に近代化できるような体制にするのは、極めて難しいのが実状です。
それこそ中華四千年の伝統である政治制度と官僚腐敗の最悪の例とすら言えるでしょう。
全ては、歴史が雄弁に物語っています。
少し乱暴ですが、支那国家が自力で工業化したのがいつか考えてみてください。
中華民国が、なぜ大陸本土から追い出されたかを思い起こしてください。
ならば、結果としてどうせ日本一国で欧米と対抗しなければいけないのなら、清帝国から徹底的に搾り取って、日本発展の足がかりにしてしまうのが一番の近道と言うことになります。
帝国主義全盛の時代、弱い者いじめ的政治こそが王道的外交です。
また、狭義の地政学的な点からだけ見るなら、海洋国家と大陸国家が長期的に連携出来るとは到底思えません。
となれば、日本的な後は野となれ山となれ的行動に徹するのもある種自然な流れと言えるのではないでしょうか?
どうせ、この後支那地域(清)を市場以外利用する事もないのですから、搾り取るのが当面は一番お手軽です。
(乱暴な論旨展開なのは、十二分に承知しています。)
もちろん、清帝国からいかに恨まれようと、全ては日本の発展のためです。
当時は自国のために他国を踏み台にするという風潮がまかり通る世界情勢ですから、結果論的に清のために本気で文句を言う国はありません。
むしろ、清帝国以外は日本の行為を内心喜び、日本の後に続いて清帝国を史実以上に蝕みにかかる事でしょう。
義和団の乱が好例です。
さあ、少し出口が見えてきたように思えます。