第十節・戦闘想定(後編−1)
■第十節・戦闘想定(後編−1)
(コンバット・シミュレーション)
■次幕
決戦は終了しました。
お味方大勝利、敵軍壊滅です。
しかも破ったのは、仮想敵第一位にして宿敵と見ていたアメリカ合衆国海軍・太平洋艦隊です。
さて、この後はどうしましょうか? もちろん、決戦に勝利したのですから、日本政府による停戦と銘打った堂々のアメリカに対する降伏勧告が行われます。
しかし、植民地が敵の軍門に下り、艦隊が潰されただけで本土は寸土も汚されていない(!)アメリカ政府が降伏するでしょうか? そして、太平洋艦隊の半数が永遠に失われ、お国は不景気のどん底です。
果たしてこれがアメリカの望んだ結果なのでしょうか。
そんなはずありません。
正義を掲げるアメリカは必ず勝利しなければならないのです! ハリウッド映画だって、最初主人公は苦戦するのがお約束じゃありませんかっ!!
・・・と言う訳で、ここでは聯合艦隊に完全勝利していただくために、アメリカ軍には今しばらく頑張っていただきましょう。
マーシャルでの敗北後、アメリカ市民は日本への復讐を叫び、米政府も本土は寸土も奪われていないとして日本側の停戦を拒否。
艦隊が再建するまではハワイを防衛線として徹底抗戦の構えを見せます。
アメリカの行動の背景には、不景気対策としての一種の大規模公共事業である、戦争経済がある程度うまく回るようになるまで、戦争を継続しないと勝っても負けても国内的には意味がないからです。
さらに、戦争に勝利しないと、国際政治と海外市場の問題からアメリカの未来がお先真っ暗だからに他なりません。
そして、白人のための理想国家たるアメリカが、有色人の国にこのまま負けっぱなしなのを許せないという、国民感情があるのは言うまでもありません。
アメリカはかつてのロシアとは違うのです。
政府も市民も徹底抗戦を唱えると共に、今までいまいち気乗りしていなかった市民感情の高ぶり、アメリカ国内の戦時生産も本格的な稼働を始めます。
三年後には艦隊が元通りどころか戦前の二倍になり、再び決戦を挑む事もできるでしょう。
アメリカ本国の造船所では、一度に十数隻の戦艦が建造開始され、百や千の単位で補助艦艇の建造計画もスタートしている事でしょう。
しかも一年後には、失業者は兵営と工場に吸収されいなくなります。
その過程で真っ赤っかになる財政は、勝利した後日本から取り立てればノー・プロブレムです。
ただし、海軍の大敗北(いきなりご自慢の海軍の四割が失われる)と膨大な数の戦死者(二〜三万人)は、市民の心の根底に厭戦気分を作り上げるには十分すぎるぐらい過酷な数字です。
また、アメリカ側から戦争を吹っかけ向きが強いため、対外的な戦争の正義がありません。
しかも日本を敵とする事は自動的に英国も潜在敵であり、世界を敵に回して長期戦をするにも等しくなります。
このため、一部ではさっそく停戦への機運も出てくる事になります。
一方、日本政府は困り果てます。
短期決戦しか考えていない戦争で念願の艦隊決戦に大勝利し、海軍は長年の夢が叶って感涙でむせび泣いたと言うのに戦争が終わっていないのです。
まだまだ長期戦に耐えられる国力のない日本としては、何とかして戦争を短期で終わらせなければいけません。
でないと史実の結果が待っているだけです。
となると、アメリカの生産力が発揮される前にさらなる進撃を続け、アメリカ軍にとどめを刺し、できるなら彼らの領土を一部でいいから奪い、戦争の勝利を決定づける侵攻作戦をするしかありません。
幸いにも敵艦隊は壊滅しており、こちらは主戦力たる八八艦隊には欠員はありません。
かくして、日本の目的に最も合致したハワイ攻略作戦が発動されます。
ただし、急な開戦だったため、陸軍の動員や後方面での支援体制が整っていません。
陸軍はフィリピン上陸を果たしたばかりで、完全占領までにはなお数ヶ月が必要です。
また、ハワイを攻略するのは、米艦隊が壊滅している以上制海権の面では特に問題はないかも知れませんが、ハワイに至るまでの中継地点としてウェーク島、ミッドウェー諸島の占領が必要となります。
そして、まずこちらに戦力を割く必要が出てきます。
さて、艦隊決戦が終了したのが二月末です。
フィリピンにはすでに帝国陸軍が上陸しているし、制空権、制海権も獲得しています。
後二ヶ月もあれば占領可能でしょう。
この間に、決戦に参加した艦艇を修理・整備して、太平洋の島嶼攻略の準備を進めるとして、三ヶ月後の六月頭辺りに史実で言う所の「MI作戦」が発動されます。
その間、アメリカ軍の艦隊は壊滅し全く動けない状態ですし、日本軍は決戦を終えてもまだ元気な艦艇は多数存在しますし、船舶の船腹的にも特に問題ないので(史実の二倍の国力があるのをお忘れなく)何とかなるでしょう。
もちろん、満州でソ連が余計な事を考えないように、陸軍主力は警戒を怠りなく行います。
バックがしっかりしているからこそ、フロントは思い切った動きができるのです。
そして三ヶ月後。
一九三四年六月初頭にハワイの前庭であるミッドウェー諸島攻略を目標に作戦が発動されます。
お約束としてなら、日本の作戦開始は六月六日となるでしょうか。
また、海軍記念日に大艦隊が呉か大神の港を行進曲『軍艦』の吹奏の中、派手やかに出発する事でしょう。
史実へのオマージュとして是非とも抑えておきたいイベントです。
さて、この頃の日米双方の戦力はどうでしょうか? 主役となる戦艦で比べてみましょう。
日本海軍は、マーシャル諸島沖の大決戦で二十四隻戦艦のうち三隻撃沈、その倍の六隻が大きく損傷。
うち三隻は高初速の16インチ砲でめった打ちにされ大破しています。
つまり、三隻が修理で復帰して、差し引き十八隻の戦艦が動員可能です。
一方アメリカ海軍は、大西洋からの回航が英国の圧力から今以上できないとして、太平洋の戦艦の数はそのまま十二隻残存、うち六隻が大きく損傷、さらに三隻大破です。
さすがのアメリカの工業力と言えど、四十六センチ砲弾をしこたま食らった多数の戦艦を全て修復する事は困難です。
しかも、東海岸に回航している暇がないので、ドックの数が足りません。
差し引き、九隻の戦艦しか動員できません。
しかし、侵攻してくるのは日本側です。
今度は立場が逆なので、アメリカ軍は索敵面では完全に優位です。
戦力を迎撃にのみ集中すればよく、日本艦隊は攻略部隊などに戦力を分散しなければならないので、それ程不利でないとアメリカ側は判断するでしょう。
アメリカ軍の常識ならそうなるはずです。
ただし、日本側は二倍の戦力を投入してくるのは確実だし、相手が攻略するのはアメリカ領とは言え小さな島で、重要な拠点であるハワイではありません。
戦力の回復に専念し、次の侵攻に備えるためにも、ここは我慢して屈辱に耐えるのがベストと言わないまでもベターの選択と言えるのではないでしょうか。
日本側としても、ハワイへの準備攻撃を実に日本的な考えから、戦力が低下している米艦隊が迎撃してくれればと言う期待を込めて出撃するでしょう。
そこで攻略艦隊こそ伴っているが、艦隊決戦をやる気満々と言った布陣でミッドウェーに殺到するでしょう。
こうなると、アメリカ軍としてはむざむざ殺られに行くようなものです。
よって、ここでは大人なアメリカ軍はハワイ迎撃に全てを賭けるために、庭先が日本人に蹂躙されるのを眺める事になります。
しかし、このミッドウェーなどの陥落は、アメリカ市民に海軍と政府への不信とさらなる厭戦気分を大きくさせる事になり、海軍と政府共に次のハワイでは失敗が許されない事を意味します。
※いわゆる、史実の「MI作戦」と似た様な状況ですが、戦力差がありすぎてアメリカは奇蹟を呼び込むだけの戦力が存在しません。
大戦力同士がぶつかり合えば、数の違いからまた各個撃破されるだけです。
■転幕
日本によるMI作戦が完了しました。
日時的には一九三四年七月と言った所でしょうか。
当然戦争はこの程度では終息していません。
アメリカ国内には、停戦と徹底抗戦を叫ぶ二つの声がどちらも高くなりますが、今のところは大きな変化はありません。
そして、次の戦いこそが戦争の天王山、関ヶ原になります。
戦場は先ほどの前置き通り「ハワイ諸島」。
日本側の思惑としては、アメリカ人が領土と認識する場所を奪うことで厭戦気分を誘い、アメリカ海軍そのものに壊滅的ダメージを与え、今度こそ戦争を決定付けたいところです。
ただし日本側は、ここを攻撃、占領することで厭戦気分を強くさせるどころかアメリカ市民を激昂させ、反対に泥沼の長期戦になる可能性がある事まで考え至らないでしょう。
一方のアメリカ側としては、ハワイで日本軍の侵攻を押しとどめなければ、次はアメリカ本土が戦場となります。
自国の一方的な戦術的勝利だけを念頭とし、経済覇権獲得が戦争目的だった予定とは全く違う戦争になってしまいます。
今のところ市民も政府の戦争をまだ支持していますが、度重なる敗北により盤石とは言えません。
ここでもし完敗し、大きな犠牲を出すような事があれば、内政的に戦争の継続は不可能となる可能性が高いという事です。
ただし、アメリカ側にとっては、ミッドウェーの状況と同じく有利な条件があります。
それは、迎撃戦だと言うことです。
しかも、この戦場では相手を一度ですべて撃滅する必要性がありません。
(撃滅出来るに越したことはありませんが。)日本人が何度来ようとも、撃退し続ければ数年後にはダニエルズ・プランに倍する新造戦艦を中心とした大艦隊が東海岸の造船所から出現し、その半年後には反対に日本本土を米戦艦の砲火で業火に覆い尽くすことができるのです。
そうなっては困る日本は、短期決戦の最後のチャンスを求めて、さらに二〜三ヶ月後いよいよハワイ諸島攻略作戦を発動させます。
そろそろ短期戦を前提にして用意した財布の中身も気になり出す頃ですから、なおさら急ぎます。
決戦の日時は、八月後半から九月初頭。
日米双方とも、戦時計画艦は完成どころか計画が動き出したばかりで、手持ちの戦力で戦うしかありません。
では、ここで改めて両者のキャスティングを眺めてみましょう。
なお、マーシャル沖の損傷艦艇は、大破したものを含めて両者全て復帰しているものとします。
まずは、我らが八八艦隊を擁する聯合艦隊ですが、動員されるのはマーシャルと同じように第一、第二、第三艦隊です。
マーシャル沖での損害が低かった日本海軍側に基本的な編成の変更はありません。
その内訳も戦艦、巡洋戦艦二十一隻を中核とする堂々たる大艦隊です。
対するアメリカ太平洋艦隊は、今回は迎撃のみなので、主力の第一任務部隊と偵察を担当する第二任務部隊からなります。
ただし、内訳は大西洋からの増援を受け取らないと戦艦十二隻と空母一隻にしか過ぎません。
巡洋艦や駆逐艦の数も相手の六割程度しかありません。
ですから、主力の一部だけでも大西洋より補充を受けます。
この窮状にあってなお米海軍が、大西洋から艦隊の全てを持ってこれないのは、全てイギリスが大西洋、カリブ海で嫌がらせのプレゼンスを展開しているからです。
また、大西洋に残している戦力が個艦レベルで低いと言うこともあります。
そして、補充を受け取った太平洋艦隊の最終的オーダーは、戦艦十四隻(全ての14インチ砲以上の主砲を搭載する戦艦を集めた数です。)他補助艦艇も日本の七割程度にまで復活します。
そうです、この増援を受け取った事により防衛に最低限必要とされる戦力の七〇%がかろうじて揃えられた事になるのです。
しかも、今度の日本側は侵攻側です。
先ほどのアメリカ軍の考え方から言えば、アメリカ軍は索敵面では完全に優位です。
戦力も迎撃にのみ集中すればよく、日本艦隊は攻略部隊などに戦力を分散しなければならない筈です。
しかし我らが聯合艦隊は、護衛艦隊程度の余芸に決戦兵器たる戦艦を割り当てるなど考えたこともないに違いありません。
敵迎撃艦隊を撃滅するために、全ての主要戦力を一カ所に集中、一種の一点突破を図る可能性が一番高いでしょう。
しかも、史実のミッドウェー沖海戦と違って、主力は全て戦艦です(空母は打撃力として考えません)。
主力や前衛に分散配置する必要性はありません、一丸となってハワイ諸島を目指し、必ず迎撃に出てくるであろう敵艦隊を潰したあとに、敵潜水艦だけを警戒しつつ輸送船団を呼べばいいのです。
もし、敵艦隊出てこなければ、そのままハワイ諸島を攻略するなり、出てくるまでハワイ諸島のどこかを艦砲射撃してやればいいだけです。
二万メートルの距離から巨砲で砲撃してくる二十一隻の戦艦群を阻む者など、この時代戦艦以外どこにも存在しないのですから。
そして、フィリピン救援を目的としたスピードを重視せざる得ないアメリカ軍と違って、日本はそれほど急ぐ必要はないのです。
それに、どうせ日本の船腹量では、攻略船団を一度に全部運ぶ事などできません。
そう、無理なものは無理、人間開き直りも時には肝心です。
かくして、敵艦隊撃滅だけを目的とした、互いの艦隊が再びハワイ沖で相まみえることになります。
両軍相対したとき、米艦隊にとっては「詐欺だ」と叫びたくなるような状況です。
日本艦隊は輸送船団の護衛も強行偵察もほっぽりだして、全ての戦艦を主力艦隊のみに集中してぶつけてくるのですから。
(もちろん、巨大な水雷戦闘部隊である第三艦隊が偵察部隊も兼ねますが、彼らは夜間戦闘以外の単独対決をする気がありません。
敵と出会う時が夜間でなければ、昼間なら主力艦隊の一部となっています。
そして、電探のない時代に、アメリカ軍が夜間戦闘を好むという事はまずありえません。)
では、キャスティングが決まった所で、まずは主力艦から戦力比較をしてみましょう。
戦艦数は、日本側:アメリカ側=二十一:十四、つまり一〇:六・七です。
これが排水量比較になると、日本側:アメリカ側=九十一対四十九で、一〇対五・四に差が広がります。
そして一斉射あたりの弾薬投射量は、日本側:アメリカ側=四六センチ×六四+四一センチ×七八+三五・六センチ×四八:四〇・六センチ×六〇+三五・六センチ×九〇=二一〇トン:一三二トンで、トータル一〇対六・三となります。
数字の上なら真っ向から殴り合えば、日本側が三割程度の損害、単純に言えば七隻の撃沈を出せば、米太平洋艦隊は一隻残らずうち沈められてしまう訳です。
しかし、個々の数値差を見ていて分かると思いますが、真っ向勝負の場合、アメリカ軍が総合数値以上に不利となります。
それは、16インチ以上の主砲と搭載した八八艦隊が大半を占める日本艦隊(全体の七六%にも上る)に対して、既に半減以下になっているダニエルズ・シスターズ(前線にあるのは最大で六〜七隻、戦力の四割程度)です。
砲弾の運動エネルギーの比較や、直接防御力の差を考えると、実戦力比は一〇:五以下とすら言えるでしょう。
しかも、艦隊速力の差から、一度組み合ったら米艦隊に逃げることは許されません。
もし主力が逃げられても、膨大な数の補助艦艇を犠牲にした上でないと不可能です。
それに、ここで逃げては海軍は国民から支持を失い、信頼すら裏切ることになります。
かと言って、この時代航空機という伏兵にも期待できません。
その上、決戦場がハワイから離れていたら、この当時の航空機の航続距離を考えると基地機をアテにできない場合が多くなります。
さらに、艦載機数では贔屓目に見て互角、客観的に見れば日本側が優位となります。
高速で機動し、双方膨大な数の駆逐艦を投入している以上、潜水艦も嫌がらせ以上考えるのは論外です。
夜間戦闘も先だってのマーシャルで痛い目にあったばかりです。
その上、半年では既存艦艇の徹底した近代化などを行う時間もありません。
簡単な装甲強化が限界でしょう。
さらに、補助艦艇でも数の上ですら不利な上に、この半年実戦経験を積み続けている日本側と大西洋からの新規部隊では、数字の上に見えないハンデもあります。
ついでに言ってしまえば、日本の特型以降の強力な艦隊型駆逐艦とアメリカ軍の主力駆逐艦のフラッシュ・デッカーでは、個体戦力差が二倍近くあります。
何とか間に合う新型駆逐艦ですら個艦性能では劣っており、個人的な力量によってでしか戦力差を覆す事は不可能です。
つまり、戦力比は補助艦艇などの要素を加えておおよそ一〇:五、ランチェスター・モデルで考えれば一〇〇:二五。
戦艦数二十一:十四ですから、日本艦隊は六隻分の犠牲を払えばアメリカの十四隻の戦艦を葬り去れる事になります。
ですが、先ほどと同様と言うか、常識的に一隻残らず全滅と言うことはあり得ません。
砲撃戦中に戦力が半減した段階でアメリカ側が撤退開始、以後日本側の掃討戦となります。
結果として損害比率は、日本一五%、米七〇%程度。
日本側は多数が損傷後退、アメリカ側は半数が撃沈、残り半数が損傷後退となります。
なぜ、日本側が損傷後退のみかと言うと、日本艦隊の先頭を突っ走り敵弾の洗礼を最も受ける戦艦は、全て四六センチ砲搭載の大型戦艦だからです。
面の皮の厚い彼女たちを、五〇口径四〇・六センチ砲で完全に打ち抜き沈没に至らせるのは困難です。
それ以下の威力しかない砲弾については何を言わんやという状況です(ここでは、双方ラッキーヒットと一発爆沈というケースはないものとします。)。
反対に日本側は、大半の戦艦が主砲口径で勝っているので、相手装甲を打ち抜くことが可能です。
ただし、米戦艦は重防御艦ばかりなので、戦闘能力が低下して後退を始めても、撃沈に至るには多数の砲弾が必要とります。
戦闘が著しく不利になった時点で、米戦艦は補助艦に援護してもらいつつ、よろばいながら撤退していくでしょう。
さて、まともに組み合えば以上のような結果に終わりますが、アメリカ軍に逆転のチャンスはないのでしょうか。
何と言っても、アウェーではなくホームです。
ワンサイドゲームだけは何とか避けたいところです。
一つの可能性として、先ほども少し採り上げた潜水艦の有効活用はどうでしょうか。
しかしこれは難しいでしょう。
何よりアメリカ軍は、史実の大東亞戦争で実戦投入してしばらくするまで、自らの秘密兵器が欠陥魚雷だと気付かなかったほどです。
それに潜水艦を使って敵艦艇を攻撃しようとするのは日本海軍も同様ですし、お互い対潜水艦戦は熱心に行うでしょうから、やはりあまり有効とは言えません。
お互い似たような戦果を上げるのが関の山です。
次に、基地航空隊との連携攻撃はどうでしょうか? ちまたに溢れる「良心的」架空戦記や「奇抜」な架空戦記なら、ここで新型航空機や爆撃機が「前倒しで」登場して、日本艦隊に大打撃を与えて長期戦に突入でしょう。
しかし、一九三四年程度ではそれも望むべくもありません。
あのB17のプロトタイプですら完成はまだ先です。
戦争で開発が急がれても間に合うタイムスケールにはありません。
だいいちB17は、爆撃機です。
日本の九六式中攻も同様に登場は不可能です。
その為の年代設定なのです(笑)
それに八八艦隊の上空には、日本の空母たちが航空機の傘をかけています。
アメリカ軍を圧倒はせずとも、遅れを取る可能性は低いでしょう。
また、当時の航空機の性能、速度、航続距離、爆弾積載量、攻撃方法などを考えれば、基地航空隊による洋上はるかでの迎撃など夢物語とすら言えます。
近くてもほぼ同じです。
だいいち、この当時の米陸軍に洋上攻撃できる機体がありません。
では最後に、正規空母複数による攻撃はどうでしょうか? アメリカ軍は大型空母を開戦時で3隻保有しています。
数では日本に負けていますが、集中投入すれば勝機を作り出せそうな気がします。
しかし、大型空母が複数あろうとも、航空戦は数が全てです。
せいぜい五分の戦いしか望めないでしょう。
それどころか、日本艦隊が防空と索敵しか考えていない部隊編成を取っていれば、目も当てられない結果にすらなりかねません。
しかも、相手に大きな損害を与えられる雷撃は、長らく空母艦載機ですら苦手としていました。
そして、真っ正面以外での艦隊決戦の可能性ですが、レーダーなどない時代ですので、大規模夜間戦闘などアメリカ軍には御法度です。
第一、第二、第三とある程度分散している日本艦隊を綿密な索敵情報を元に横から各個撃破を狙う戦術も、機動性において劣る米艦隊にとってむしろ不利です。
確かに、残存のレキシントン級を中核とする高速艦隊を奇襲任務に使えば、日本艦隊にかなりの損害と混乱を与える可能性は十分にあります。
しかし、防御力に劣る艦隊に突撃任務などさせれば、余程の奇襲攻撃とならない限り自殺突撃させるようなものです。
しかも、レキシントン級に随伴できるアメリカの重巡には、日本海軍のように魚雷は搭載されていません。
敵戦艦撃破は極めて困難です。
けっきょくアメリカ側が取れる戦術は、高速偵察艦隊と重厚な打撃艦隊を連携させたオーソドックスな迎撃戦以外、ハード面から無理と言えるでしょう。
もともと他の事を考えていない主力艦隊育成しか行っていないのですから、自明の理と言うことでしょうか。
対する日本艦隊の方をもう一度見てみると、高度なレベルでの機動力、攻撃力、防御力を与えられた第一、第二艦隊、そして水雷戦術以外あまり考えられていない、変則的な編成をしている第三艦隊により構成されています。
以上の事から言えるのは、全ての艦隊は速力面で有機的に運用する事ができ、戦場を征すると言われる「機動力」と言う点で、日本側がアメリカ側に圧倒的に優位にあると言うことです。
つまり、ミスを犯しても取り返しやすいと言う事を意味しています。
これは勝つためには非常に重要な要素と言え、艦隊そのものの規格化を目指して作られた「八八艦隊」と言うシステムの勝利と言えるでしょう。
ハッキリ言って、一度劣勢に立ってしまい、戦術的にも古い戦術思想の元建設された米艦隊に、神様や幸運にすがる以外勝ち目などないのです。
よって、この戦いもこれ以上の詮索はしません。
双方の思惑の合致からハワイ沖で、真っ昼間に真っ正面から大規模海上戦闘が発生し、二時間程度の戦闘の結果、日本海軍の圧倒的勝利によって幕を閉じます。
さて、邪魔な米艦隊は壊滅しました。
あとはハワイ上空の制空権獲得競争をちまちまと行ったあと圧倒的な艦砲射撃で、まだまだ貧弱な要塞や施設しか持たない在ハワイアメリカ軍を吹き飛ばせば、オワフ島上陸の邪魔者はいなくなります。
言うまでもありませんが、四六センチ砲の釣瓶打ちに対抗できる近代要塞は存在しません。
この時代に、軍縮もあって要塞建設もできないので破壊も容易でしょう。
なお、史実と同じであった場合の当時のハワイは、私達が良く知る巨大な真珠湾軍港は存在しません。
あるのは潜水艦用の中規模程度の海軍基地だけです。
沿岸要塞もほとんどありません。
太平洋艦隊司令部だって影も形もありません。
あれらが揃うのは、それこそ史実の真珠湾攻撃の頃まで待たなくてはなりません。
陸軍部隊も急造の陣地以外はなく、ミッドウェー辺りで待機しているであろう上陸部隊を上陸させれば、一ヶ月ほどでハワイ攻略は完了です。
これで日本海軍は、太平洋の制海権はほぼ全て握ったと言える状況です。
何しろハワイ諸島は、北・中部太平洋最大にして唯一の要衝。
日米をつなぐ唯一の架け橋。
ここなくして互いに相手領土に侵攻するには不可能な、イゼルローン要塞のようなものですからね(笑)




