第九節・戦闘想定(前編)
■第九節・戦闘想定(前編)
(コンバット・シミュレーション)
双方の脚本は大まかですが説明を終わりました。
ここからは、配役と実際の舞台がどのように進展するかを見ていきたいと思います。
ただし、日本艦の砲弾命中率がなぜか相手の三倍あるとか、六一センチ魚雷がとても強力とか(残念ながら酸素魚雷はまだありません)、米艦の攻撃力・防御力がとんでもないとか、誰だかよく分からない鬼才が戦闘を事前に見てきたような指揮をしているとか、小説として以外の無茶な状況はないものとします。
ついでに、日本には大和もありません。
月月火水木金金と寸暇を惜しんで訓練に励み実戦経験豊富な日本海軍に一日の長があるかもしれませんが、同じ人間同士なので程度問題です。
また、純粋な戦力比較から始めたいと思います。
もちろん無粋な航空機(失礼)は、この時代大型艦艇に対して何の力もありません(索敵能力など支援効果は全く別です)。
なお今回は、なるべく客観的に事象を追っていきたいので、今までの文調のまま続けます。
ですから、「熱い戦い」をお望みの方には物足りないかと思いますが、その旨ご了承ください。
■キャスティング
さて、まずはキャスティングのおさらいです。
マーシャル沖に集結する日本海軍は、先の編成表にあるように日本側は戦艦十二隻、巡洋戦艦(高速戦艦)十二隻、重巡十六隻、水雷戦隊五個戦隊(第四艦隊含む)、潜水戦隊七個戦隊(第四艦隊含む)、空母大小六隻、艦載機約二〇〇機、水上機約一三〇機、基地航空隊約一〇〇機となります。
ただし、基本的に基地航空隊と第四艦隊の戦力は特殊な場合を除き、偵察力以外は除外されます。
対するアメリカ軍は、戦艦十九隻、巡洋戦艦六隻、重巡一〇隻、水雷戦隊五個戦隊、潜水戦隊三個戦隊、正規空母二隻、護衛空母一隻、艦載機約二〇〇機、水上機約八〇機です。
ただし、戦艦二隻と水雷戦隊二個戦隊が輸送船団を護衛し、さらに戦艦二隻がアジア艦隊にも分散しているので、決戦兵力としては除外されます。
こうして見ると、全てのチップを中部太平洋に載せることができる日本が若干有利となります。
アメリカが全てを持ってこられないのは、英国の大西洋からの援護射撃により実現したものです。
この時点で日本が戦略的勝利を掴んでいる事に他なりません。
ただ、ここでは外交は問わないので次にいきましょう。
■序幕
次に戦争勃発時の初期配置と初戦の状況です。
当面迎撃しか考えていない日本帝国軍は、アメリカ軍が戦力を集中して太平洋を押し渡ってくる前に第二艦隊の一部を東支那海に派遣し、旧式戦艦を派遣してきた米アジア艦隊へ圧力をかけます。
第二艦隊主力は、万が一米アジア艦隊が日本本土を目指した場合の抑えに沖縄辺りで待機しています。
第二艦隊がこのような任務に使われるのは、本来フィリピン制圧をすべき第三艦隊の任務が大きく変わってしまったのと、米海軍が少数とは言えすでに戦艦を送り込んでいる事、そして第二艦隊そのものの高度な機動性にあります。
そして複数の高速給油艦を従え、西太平洋を縦横に機動します。
また、圧倒的な戦力を持つ事から、自軍の損害を受けることなく敵を撃滅する事を期待されているからに他なりません。
おそらく、フィリピン近在で起きる偶発的な戦闘が実質的な開戦の号砲であり、太平洋戦争の序章となります。
なお、他の日本艦隊は、支援艦隊を引き連れて内南洋の大きな環礁の幾つか(パラオ、トラック、クェゼリン、メジュロなど)に布陣します。
そして、第二艦隊が合流するのを待って、遠路襲来する敵主力艦隊と決戦を行おうとするでしょう。
もし、第二艦隊との合流前にアメリカ軍がマーシャル諸島に侵攻すれば、放棄する可能性は高いと思われます。
この場合、トラックの門前にあたるエニウェトクやメジュロの辺りで両者が対陣する事になるでしょう。
対するアメリカ太平洋艦隊は、戦艦二隻を含むアジア艦隊以外は、急ピッチで拠点化が進められているハワイ・オワフ島に集結を完了しています。
しかし一九四一年頃と違い、この当時は真珠湾の泊地能力はかなり低くなります。
しかも、あまりにも艦艇を集めてしまうので、状況は日本の内南洋とあまり変わりません。
泊地に毛が生えた程度です。
なおアメリカは、太平洋艦隊以外にも大西洋艦隊もあり、大西洋には大英帝国と言う強大な海軍国があります。
このためダニエルズ・シスターズの半数は、通常大西洋艦隊に配備されています。
つまり、日本と正面から戦おうとすると大西洋の艦隊主力を回航せねばならず、アメリカの意図は簡単に日本に見抜かれてしまいます。
また、全ての艦隊を最前線に配備すると言うことは、当時のアメリカという国の有り様を考えると実行は難しくなります。
さらに英国の圧力を無視して、東海岸の主要戦力を中長期間太平洋に配備するのは難しいでしょう。
しかし、ダニエルズ・シスターズを全て揃えねば八八艦隊には対抗できません。
そしてマーシャル、マリアナ諸島制圧とフィリピン救援に必要となる数個師団の陸兵と、軍団を載せる輸送船も手配しないといけません。
短期決戦を前提とした電撃戦を行いたいので、出来るならマリアナまでは最初の侵攻の時点で揃えておく必要があります。
そこで、大西洋に配備された艦隊のハワイ集結まで最低でも一ヶ月、最大三カ月の期間がかかります。
移動後の整備や合同訓練を考えれば、さらに二ヶ月程度の時間は最低欲しいところでしょう。
加えて、ハワイ自体の泊地能力がこの当時は低い事から、艦隊を支援すべきサーヴィス部隊も大量に準備して送り込まないといけません。
この負担も侵攻を大きく遅らせる要因になります。
アジアにも、小規模な艦隊しか送り込めないのです。
加えて、この時期のアメリカが平時は軍備に金を使わないという方向性から、艦隊を即時対応体制にあまり置いていない事も動員状況に影響します。
この点は、歴史改竄でフーバー、ルーズベルト政権が軍備拡張にご執心でも、大きな変化はまだ現れないご時世です。
何しろ、日本の脅威と言っても、アメリカ本国にとっては辺境たる西海岸の先にある太平洋の遙か彼方です。
またアメリカは、戦争が始まり日本が近海の安全保障のためにフィリピンの制圧(実のところ占領でなくてもよい)に取りかかれば、フィリピン救援という大目的が発生します。
当然ながら必然的に攻める側になり、彼らの行動開始が舞台の幕をあげることになります。
つまり、日米双方の理由により開戦から二〜三カ月後ぐらい経過してから、ようやく大規模海上戦闘がマーシャル諸島沖で発生します。
この間、アメリカ海軍アジア艦隊と日本海軍第二艦隊による中規模の戦闘が発生しますが、ランチェスター・モデルに従った純然たる砲撃戦が発生すれば、アメリカ側にまず勝ち目はありません。
しかも一旦組み合えば、艦隊速力の圧倒的な差からアメリカ側が逃げることは適わず、一方的に撃破されます。
しかも、偵察能力の差で日本が優位です。
ただし、航空機が双方の艦隊を妨害することは適いません。
運が良ければ、日本軍に見つからずにハワイに向けて長躯逃げる事ができるかも知れません。
ですが常識的に見て、撃沈までいかなくても、発見され撃破される可能性は高いと判断できるでしょう。
■本幕・一
さて、不意の開戦から二ヶ月が経過しました。
グァム島は呆気なく陥落、フィリピンは封鎖されて青息吐息、米アジア艦隊は既に壊滅しています。
そして両艦隊はそれぞれハワイとマーシャルに集結完了し、前衛艦隊は早くからにらみ合いを続けています。
まさに、アメリカ軍の予測通りの展開です。
さあ、舞台の準備は全て整いました。
あとは開幕のベルを鳴らすだけです。
リヒャルト・ワーグナーの歌劇「ニーベルンゲンの指輪」で言えば、第二幕の「ワルキューレ」と言ったところでしょう。
果たしてどちらがブリュンヒルトとなるのでしょうか。
最初に舞台に登場するのは、開幕ベルを鳴らすアメリカ軍です。
ハワイ真珠湾からのアメリカ太平洋艦隊全艦出撃が、本幕の第一章となります。
戦艦、巡洋戦艦二十三隻を中核とし、輸送船団を含めれば総艦艇数二〇〇隻に達する史上最大規模の大渡洋侵攻艦隊です。
真珠湾を出撃する様は、観艦式もかくやというような、さぞ壮観な事でしょう。
しかし、この中の内確実に何隻かは、ここには帰ってこれないのです。
これをハワイに張り付いていた日本軍潜水艦複数が発見、本国に緊急打電します。
「敵艦隊全力出撃セリ」と。
潜水艦の知らせを受けて、内南洋に集結を終えていた聯合艦隊、第一〜第四艦隊が活動を開始。
特に偵察・哨戒を担当する第四艦隊と前衛を仰せつかっている第三艦隊が足早にマーシャル沖へと向かいます。
潜水艦も所定の位置につくため、一足先に出発しています。
また、基地航空隊も長距離活動ができる飛行艇や水上機を中心に偵察活動をより活発化させます。
こうした濃密な対応が取れる点が、相手が攻めてくる事の分かっている防衛側の優位の一つと言えるでしょう。
日本艦隊は、数珠つなぎに配置されている潜水艦より、逐次報告される偵察情報に基づいて艦隊を動かし、その迎撃位置を決めていきます。
形としては、ナポレオン時代の陸戦に少し似ているかもしれません。
一方、ハワイより長躯フィリピンを目指す米艦隊は、第一目標のマーシャル諸島制圧と聯合艦隊撃滅のため、偵察活動を活発にしつつ威風堂々進撃します。
ですが、偵察活動は敵地での活動になるので、どうしても日本軍に対してハンディキャップがつきます。
アメリカ軍としては、日本軍が正面から迎撃してくるのか、それとも別の戦術を考えているのか不明なうちは、迂闊に主力艦隊を前に出す事ができません。
もっとも、日本軍が迎撃してこなければ、これ幸いに盤石の体勢でマーシャル諸島に足がかりを作ればいいのですが。
ですが、日本側も巨大な艦隊がいくつも行動しているので、アメリカ側に知られない訳がありません。
■本幕・二
日本艦隊がマーシャルから迎撃に出撃した段階で、双方の動きが活発化します。
そしてアメリカ軍は、上陸作戦のためにも自らの望む位置での戦闘を画策します。
強力な偵察艦隊の進路を日本艦隊がいる方向に向け、強引に舞台に引きずり出すべく行動を開始します。
もちろん、偵察艦隊の後ろから主力艦隊が追いかけます。
つまり、レキシントン級を含むTF2が囮となって、八八艦隊をダニエルズ・シスターズの前に引きずり出すのです。
ただし、さすがのアメリカ軍も相手の正確な布陣が分からない以上、主力艦隊を囮にするようなマネはしません。
理由は、艦隊規模が大きすぎて動きが取りづらいところを、奇襲でも受けたら目も当てられないからに他なりません。
アメリカ軍の挑戦状に対して、見敵必殺を旨とする聯合艦隊は、濃密な索敵情報から察知したら、各個撃破の好機として脚の速い第二、第三艦隊に迎撃を指令。
事前の想定に従い、夜間砲雷撃戦による敵前衛戦力の撃滅を目論みます。
もちろん、後から第一艦隊も追いかけます。
この二つの戦力による戦闘は、もし米偵察艦隊が情報不足のまま勇み足で主力の援護の受けられない状態で進撃を続行すれば、アメリカ側にまず勝ち目はありません。
日本艦隊の場合、第三艦隊を囮にして、第二艦隊との包囲殲滅戦すら夢ではないでしょう。
そして昼間に会敵すれば、第二艦隊の優越する砲力(四六センチ砲)で射すくめられてしまいます。
夜戦に突入すれば、無数の魚雷により蜂の巣になってしまいます。
まともに激突すれば、戦力差が2〜3倍になるので、TF2の敗北はまず間違いありません。
レキシントン級ご自慢の健脚も、倍以上の敵に夜間異方向同時襲撃という日本海軍のダブル必殺技を受けようものなら、逃げる手段に使わなければ有効活用するいとますらありません。
単純にこの時点での戦力差を二・五倍として、ランチェスター・モデルから考えれば、アメリカ軍が全滅した時、日本艦隊は一六%の戦力しか消耗していない事になります。
しかも、アメリカ軍主力のレキシントン級は、四五口径の14インチ砲にすら容易く打ち抜かれるほど直接防御力に劣ります。
残存性と言う点で、アメリカ軍の戦力数値はさらに低くなります。
もちろん、アメリカ軍が一隻残らず撃沈もしくは損傷するとは、軍事上の常識から考えられません。
加えて夜間戦闘と言うのはただでさえ混乱しやすいので、双方大規模な戦力を投入したら何が起こるかは明白でしょう。
そこで、この夜の大混戦によりアメリカ軍壊滅後後退、日本軍一割程度の戦力消耗と(後退含む)、混乱の収拾のための再編成の後、再び戦場へと再び赴く事になります。
なお、レキシントン級の50口径16インチ砲では、富士級(改十三号艦級)の装甲を打ち抜くことは困難です。
真っ正面からの殴り合いとなっても、自滅覚悟で近距離から殴り合わねば脱落させる事すら難しいかも知れません。
とにかく、この激突が発生するかどうかが、この海戦での第二章となります。
なお、八八艦隊を擁するこの時期の聯合艦隊に、潜水艦と航空機を用いた漸減はありません。
全て主力艦隊同士の決着がついた後の残敵掃討戦に使用される部隊であり、戦術になります。
この当時は、あくまで水上艦による砲雷撃によってこそのみ決戦が行われるという最後の時代だと言う点を頭の隅に置いていてください。
これは、従来の追撃戦力である水雷戦隊主力を初戦で使用するため、消耗している主力に代わりこれらの兵力による追撃を重視せざる得ない事も影響しています。
■本幕・三
さて、いよいよ主力艦隊同士の戦いです。
この場合日本艦隊は、艦隊速度の優位を活かして、なるべく太陽を後背にするような布陣を取れるよう努力します。
日本海海戦でも似たような戦術が取られています。
この場合朝日ですので、太陽を見ながら射撃を強いられる敵の砲撃能力の低下を狙うものです。
光学照準(目視照準)しかないこの時代、時間によれば極めて有効な戦術運動となります。
そして、艦隊最大速力二八ノットの優速を誇る日本艦隊なら、この状態を作り出せる可能性はかなり高いと言えます。
また、一戦で敵を撃滅してしまうつもりなら、敵の後背に回り込む運動を行う可能性も高いでしょう。
そして、前日夜間戦闘から引き続いて、翌朝からの主力艦隊同士のぶつかり合いとなります。
なお、この日の早朝から行われるであろう、制空権奪取を目的とした双方の航空攻撃は、戦力の集中度合いの強い日本側に軍配があがる可能性が高くなります。
これまでの経過は、アメリカTF2(レキシントン級六隻主力)壊滅、日本第二、第三艦隊は戦力の一〇%を消耗、決戦参加の遅延となります。
アメリカはTF1、日本は第一、第四艦隊が投入可能です。
これだけだと戦力はアメリカが二〇%程度有利となり、アメリカ軍に各個撃破の好機を与えてしまうことになります。
日本艦隊の戦力がこの時点で集まりきっていないのは、夜間戦闘の混乱を予想しきれなかった事に起因しています。
そして、明らかに日本聯合艦隊の誤算、というより手前勝手な戦術の一部破綻に過ぎません。
聯合艦隊は、自身がどれだけの艦艇を夜戦に投入したかを考えるべきでしょう。
そしてアメリカ軍は、すでにTF2が壊滅している以上、日本艦隊が集結していない今こそ、反対に各個撃破すべく執拗に日本艦隊に食いついていきます。
でなければ、撤退すらままならないからです。
もちろん、食らいつく以外に逆転勝利の可能性がないのが最大の理由です。
双方とも勝つためにここに来ているのです。
対する日本第一艦隊は、機動性がここでものを言ってきます。
日本海海戦のように、機動力で戦術的ミスを補ってしまうのです。
つまり砲撃戦が始まれば、速力的優位にあるのを利用して間合いをとってしばらくはアウトレンジに徹し(この世界の紀伊級も18インチ砲艦です。)、米艦隊に逃げられないように圧力をかけ、そして消耗を強いつつ第二、第三艦隊との合流を待てばよいのです。
そして合流後は、全艦隊あげての包囲殲滅を行えば結果オーライです。
もしアメリカ艦隊が逃げ出しても、それはそれで問題ありません。
艦隊を合流した後、優速を活かして追撃すればよいだけです。
アメリカ軍に反転迎撃するか、逃げながら撃ち減らされるかの二者択一を迫らせれば良いのです。
日本海軍が懸念する追撃時の燃料も、タンカー多数を含むサーヴィス艦隊が後方で待機しているので気にする必要もありません。
こうなると、攻略艦隊に護衛戦力を割かれ、前衛艦隊の壊滅したアメリカ海軍に勝ち目はありません。
勝つ可能性があるとすれば、当初から主力と補助艦艇を分けて、その補助艦艇による機動戦術で日本の第一艦隊の動きを拘束し無理矢理戦艦同士による接近戦を挑み、増援が現れる前に強力な砲力で後退に追い込むしかありません。
これが成功する可能性は、補助艦においても数の多くなる日本艦隊相手(第一+第四艦隊)ですので、高く見ても五分と言ったところでしょう。
ヘタをすれば、反対に各個撃破の好機を日本に与える事になるかもしれません。
となると、アメリカ軍が取る戦術行動は、砲撃力と防御力に勝る利点を利用して、砲撃を継続するかだけとなってしまいます。
しかし、一旦不利になれば、速力差から逃れる事は難しく(艦隊運動時の速力としては、だいたい3〜4ノット差)、制空権も奪われていたら空からも捕捉され続ける事にもなり(ここではその可能性が高い)、初戦の殴り合いに勝利しない限り、ハワイに連なる道筋に米艦艇の墓標の列を作り出す事になるでしょう。
しかし、TF2(レキシントン級六隻主力)が敵との接触後うまく待避し、主力との合流に成功すればどうでしょうか?
表面的な戦力はほぼ互角です。
個艦での優位と戦力集中を心がけた日本艦隊が一五%程度有利な状況となります。
ランチェスター的な計算でいくと、アメリカ軍が全滅してなお聯合艦隊は二〇%程度の戦力を保持していると言う結果になります。
アメリカ軍としてなら、短期戦ならともかく長期戦で見るならそれなりに採算の取れる勝負と言えるかもしれません。
もちろん、戦闘の経緯如何では、米海軍が勝利できる可能性もかなりあります。
なお、速力重視と防御力重視など用兵思想に差はありますが、最終的に割り出される戦力比較は、ここまで大兵力を用いた大規模正面戦闘となるとあまり差はありません。
整然とした戦闘が行われる限りにおいて、ランチェスター・モデルを証明するものとなってしまいます。
これは、四六センチ砲戦艦を多数擁していようと、六一センチ魚雷があろうとも変化はありません。
もちろん、東郷平八郎元帥のような超ラッキーボーイ(笑)がいれば話は全く変わってしまいますが、古今東西あれ程幸運に恵まれた提督は稀ですので、最後は数字がものを言う事でしょう。
そして、ここでは圧倒的勝利を聯合艦隊にして欲しいのが人情です。
そこで、この幕ではTF2が突出により壊滅というフラグが成立し、TF1が袋叩きにあうという分岐に進むシナリオを採用します。
この想定での、最大の砲雷撃戦の戦闘の経過を数字の上で見てみましょう。
主力艦だけだと、戦闘開始当初は日対米で八(十二隻)対一〇(十五隻)の戦力比が、後半は十(残余二十二隻程度)対六(残余十四隻程度)以上に戦力差が開いている事になります。
しかも、レキシントン級なきアメリカ軍と、八八艦隊揃い踏みの日本艦隊だと、個艦性能が数の暴力と共に響いてきます。
しかも日本海軍は、予算不足の米海軍を後目に大規模近代改装をするなどの努力しています。
これについては、後半の状況を弾薬投射量とついでに排水量でも考えてみましょう。
弾薬投射量は、無傷の状態で数えると日本艦隊が四六センチ×六四+四一センチ×七八+三五・六センチ×八〇です。
米艦隊が、四〇・六センチ九六+三五・六センチ×八四で概算です。
これを一斉射当たりで見ると、二三五トン対一六三トンとなります。
比率は約一〇対七です。
一〇対六だった数の差が一〇対七となっているのは、米艦が基本的に重武装だからです。
(※砲弾発射速度はこの当時は日米同等です。)
そして、二〇〇〇〇から二五〇〇〇メートルでの実際の砲弾命中率を双方一%程度と想定すると、一分の間に日本側は三発、アメリカ側は二発程度の命中弾を相手に与えている事になります。
しかも日本側は、四六センチを多数装備している上に(対応防御あり)、16インチ砲を搭載しているコロラド級の垂直防御は、実質は14インチ砲にしか対応していません。
バイタル・パートを打ち抜かれる可能性から見ると、アメリカ側の方が圧倒的に不利です。
しかも戦闘全体を日本側が優位に進めています。
日本側が制空権を握っていれば、命中する砲弾の数はさらに差が開いている事になります。
対する日本側は、赤城級より以前の主砲塔の防御力が低いので、一発爆沈の可能性があります。
ですが、相手より分厚い直接防御力を持つ艦艇が多いので、間接防御が弱いという不利はかなり補えます。
何しろ、貫かれない砲弾数が多くなります。
また排水量比だと、艦艇数の比率そのままに日本艦隊:米艦隊=九九・五万トン:六一・五万トンで一〇対六程度になります。
つまり、日本艦の方が単純な船の浮力と言う点で圧倒的に生存性が高いのです。
これに補助艦艇の多さ(決戦海域での駆逐艦数に至っては、もはや三倍近い差となっている。)や制空権の有無(アメリカ軍は船団護衛や偵察に分散配置しすぎて、各個撃破される可能性が極めて高い。)などの戦力倍増要素が日本側に加算されます。
米艦隊の有利な点は、各艦の砲力と直接防御の高さ、ダメージ・コントロール(損害極限)の優秀さだけとなります。
しかも、アメリカ軍のこの頃の戦艦には致命的な欠点が一つあります。
遠距離砲撃戦をあまり考慮していない設計と装甲配置のため、垂直防御が総じて建造年の遅い日本戦艦よりも低いのです。
最大級のサウスダコタ級すら例外ではなく、大落下角度で落ちる四一センチ砲、四六センチ砲を十分貫通してしまう防御力しかありません。
また米艦隊は、たとえ不利になっても後方の輸送船団を逃がすまで主力艦隊は撤退ができません。
しかも、少なくとも初戦において有利な位置を日本に占められ、出会い頭と言う重要な時期を命中率でも不利を強いられる可能性は極めて高いものとなります。
この最終的な実戦力比較を一〇:五として、アメリカ軍が全滅した時の日本の損害はランチェスター・モデルから二五%となります。
もちろん、大艦隊がまるまる一つ消えてなくなるまでの完全な戦闘、追撃が出来るわけありません。
戦っているのはお馬鹿なAIではなく血肉の通った人間です。
しかも戦闘は混乱するものです。
ごく常識的に判断すれば、相手が全力発揮可能で自軍戦力が二割を失えば指揮官は撤退を考えるでしょう。
この場合先に撤退を開始するのは、敵に増援が現れて損害が積み重なった段階の米太平洋艦隊です。
その後日本側が優速を利用しての追撃戦に入ります。
以上の事などから、この大砲撃戦の最終総決算は、単純な数字上の計算から、アメリカ軍七割の戦力喪失、日本軍二割の喪失と判定します。
しかし、勿論双方のこの比率と同数の数の艦艇が沈む訳ではありません。
戦力喪失とは艦艇の沈没を意味しません。
戦闘力の喪失を意味します。
つまり、双方数字上の三分の二の比率の主力艦を失い、倍の数の損傷艦を出します。
この損傷率は、不利な側(この場合アメリカ軍)の艦艇の損害が多い場合、指揮官がどの時点で撤退を指示するかですが、貴下の主力艦の半数が戦闘継続困難と判断した段階と判定します。
結果、アメリカ側は戦艦七隻沈没、日本側は二隻沈没です。
そして、夜間の第一ラウンドを足した最終的な結果を主力艦で見てみると、日本側二十四隻中三隻が沈没、アメリカ側二十三隻中十一隻の沈没です。
そして撃沈数とほぼ同数の艦が大破か中破しています。
この数値は、米太平洋艦隊は文字通り消滅と言う結果になります。
対する日本側は、まだ六割の戦力が簡単な修理ですぐに出て来られる計算になります。
補助艦の損害比率も似たり寄ったりです。
アメリカ太平洋艦隊は、自らの戦術選択と日本側の常識外の徹底した艦隊決戦ドクトリンにより、同等の戦力でぶつかった筈が、ものの見事に各個撃破されてしまった訳です。
実に日本側に都合のいい、架空戦記らしい結末と言えるでしょう。
さて、ここで一つ問題となるのが、本作の主人公である八八艦隊計画の戦艦群に欠員が出るかどうかです。
ハイそこ、笑わないように。
本作の主題であるだけに極めて重要です。
総数的には、米対日で二対三の戦艦数の差で殴り合う事になります。
つまり、日本艦隊が数にまかせて三発の命中弾を浴びせている間に、米戦艦が二発の命中弾を与えている事になります。
ただし、米艦隊から集中的に攻撃を受けるのは、最初に組み合っている第一艦隊です。
この場合立場は四対五以上に逆転します。
四十六センチ砲装備の紀伊級はともかく、同様にサウスダコタ級と真っ正面から殴り合う事になる加賀級は純戦術的に不利と言えます。
なにしろ、新造時のままでは五〇口径16インチ砲の攻撃を防ぎきる事は、設計上ほぼ不可能です。
また、長門級は同格のコロラド級四隻が相手で、伊勢級、扶桑級も速力以外は自らよりも有力な攻防力を持つ14インチ砲戦艦五隻が相手です。
単純に確率論から言えば、戦闘が終了していれば、加賀級、長門級から一〜二隻、伊勢、扶桑級からも一〜二隻が沈没している可能性が高くなります。
ただし、戦闘開始当初日本側は逃げながら戦うため、額面通りに消耗しません。
そして戦闘途中から第二、第三艦隊が砲撃に参加して、有力艦を目標に一方的に相手を激しく打ち据えます。
挟み撃ちの可能性も十分あり、アメリカ側の消耗の方が激しくなります。
加えて、基本的にこの海戦で沈む日本戦艦は、ランチェスター・モデルによる戦力比較上から三隻だけです。
しかも、第一ラウンドの戦闘で、レキシントン級により金剛級あたりから沈没が出ていれば、ここでオーダーをあげるわけにはいきません。
と言うことで、お約束として鬼籍には初戦で金剛級一隻、決戦で扶桑級二隻に入っていただき、八八艦隊の彼女たちの欠員はないものとします。
やはり大団円でレギュラーメンバーが欠けてはいけないでしょう(笑)
(まあ、主人公格が十六人は多すぎですが(爆))




