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第一節・艦隊建造予算(1)

 さて、「八八艦隊計画」の中核は、計画名の通り八隻ずつの「戦艦」と「巡洋戦艦」です。

 また、計画までに建造された戦艦達でもあります。

 

 しかし、同計画で大量整備が予定されていた、軽巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、各種支援艦艇の事も忘れないでください。

 「八八艦隊計画」は、大型戦闘艦だけに特化したアンバランスな計画ではありません。

 バランスの取れた大規模海軍を目指した艦隊整備計画なのです。

 そして同計画は、日本海軍が目指した昭和における唯一の外洋海軍になるための計画でもありました。

 計画自体も、計画された当初は列強と比較しても平均値程度のものです。

 何しろ当時欧州では、英独が毎年4〜5隻の戦艦を建造している時代です。

 

 しかし日本にとっては、荷の重すぎる計画でした。

 原因は幾つかあります。

 最大のものは、技術の進歩により、戦艦を含めた各種艦艇が個艦単位で恐竜的進化を遂げて巨大化し、単価が著しく高騰したことです。

 これをイギリスを例に取ると、フッド級巡洋戦艦1隻の値段でロイヤル・ソヴェリン級戦艦3隻が建造できたと言います。

 

 また史実において、八八艦隊計画の最盛時の一九二一年度の日本の国家予算一五億九〇〇〇万円のうち五億二〇〇万円、予算の31・6%が海軍予算に食いつぶされていました。

 陸軍予算を含めれば、実に国費の半分近くが軍備に投入されています。

 平時にこの数字は、極めて異常な事態です。

 

 あまり比較にはなりませんが、今の日本自衛隊の予算が国家予算の6〜7%程度、GDPの1%以下と言えばある程度分かるかと思います。


 (※コーストガードである海保や軍人恩給など含めた欧米での軍事予算算出方法なら、この数字は一・五倍近くに達する事もある。旧ソ連や現チャイナ(2008年現在)の「裏金」と比較にはならないが、無視できる数字でもない。)


 要するに、彼女たちを囲うには、非常にお金がかかるのです。

 旧ソ連どころか、チャイナもコリアもビックリです。

 

 また、計画中止の五年後の一九二六年の海軍予算が二億三九〇〇万円です。

 国費の14・4%しか占めていない事からも、無茶な計画だった事がお解り頂けるでしょう。

 

 そして以上の数値から、八八艦隊が海軍予算の史実平時の全額分を別に必要した事が見えてきます。

 


 ではここからは、実際の軍艦と艦隊そのものの値段を考えましょう。

 しかし、この当時の軍艦の単価が不確かな点があるので、まずは比較的数字が明らかな一九三〇年代半ばの値段で考えてみることにします。

 

 ちなみに史実日本の国家予算は、一九三二年からの高橋是清の財政政策もあって経済成長に入りつつありました。

 また、途上国特有の経済成長もあって、日支事変本格化までは右肩上がりの成長を続けています。

 もし日支事変も軍部独裁、戦時統制経済もなければ、一九三〇年代の「所得倍増」も夢物語ではありません。

 (なお、日支事変下での経済成長は、借金財政、軍需主導、輸出超過であり、不健全極まりない経済拡大です。)

 つまり、もし日華事変も大東亜戦争もなければ、昭和二五年頃には国富の増大により「大和級」戦艦の大量建造が、主に予算面から実現可能だったのです。

 

 この事については、また別の機会にでも考察してみたいと思います。

 (※注釈:当サークル発行「戦艦大和ヲ量産セヨ!」参照)


 さて、史実の八八艦隊の初期計画予算は、約十三億五〇〇〇万円でした。

 これに一九二一年までの追加予算を合計して約十六億五〇〇〇万円です。

 他に、計画に付随する造船施設改修費用が一億二〇〇〇万円程度計上されました。

 以上が史実での計画予算です。

 

 ただし史実の予算編成を見る限り、建造費は物価上昇率などに比例して年々増加します。

 このため、毎年一億円程度の追加予算が必要となるので、計画完遂時の一九二八年までにさらに七億円が必要と概算できです。

 

 結果、計画達成には二十四億円プラスαが必要となります。

 これが史実の「八八艦隊計画」で必要だった最低限のお値段です。

 

 しかし今回は、日本の国力、経済力が史実より大きくなる前提で話を進めたいと思うので、価格設定は必然的に上がります。

 人件費、材料費などの経費が経済拡大に伴い上昇するからです。

 もちろん、計画を三年先延ばしにした影響もでてきます。

 これらのことも留意しておいてください。

 


 さて、合計十六隻もの巨大戦艦の建造費用は、いったい幾らでしょうか?

 軍艦「長門」の建造費用が四千三百万円、金剛級代艦の見積もりが八千五百万円とされます。

 十五年ほどで倍近い価格上昇です。

 しかも第一次世界大戦中に計画された「長門」は、戦中続いた好景気によるインフレで価格が急上昇しています。

 当初予算見積もりが千五百万円で、実際最後は約六千万円になっていたという数字もあります。

 

 いっぽう日本で一番有名な軍艦「大和」、「武蔵」の実際にかかった建造費は、計画時で約二億三千万円、最終的には物価上昇もあって三億円以上かかりました。

 最大数値で、一隻当たり一億七千万円の計算です。

 

 また、「大和」級同じ予算で同数の四万トンの空母が建造出来たとも言います。

 建造予算と排水量比率から算出される数字はまさにその通りです。

 ちなみに「翔鶴級」空母で八千五百万円、「大鳳級」空母は約一億円です。

 

 もちろん「大和」のお値段は一九三七年以降の事ですから、一九二〇年代の物価を考えるとかなり価格が低くなるのは間違いありません。

 それを表すように、建造に二十年近い開きのある「長門」の実際のお値段は「大和」の半値ほどに換算できます。

 

 また一九三七年以後は、戦争と軍需主導の生産、経済統制のおかげで「円」の国際価値は落ち、物価上昇も急加速です。

 逆に、一九二〇年代と一九三〇年代初期の物価格差は、大恐慌もあってそれほど大きな違いがありません。

 

 さらに限定的な量産を目的とした八八艦隊の各艦艇は、若干の価格低下を起こしていると思われます。

 加えて何度も同じドックで、つまり同じ工員が同じ船を建造すれば建造に習熟します。

 同じ船を造れば無駄な工数を省く事も可能で、建造期間が短縮するという可能性も高くなります。

 これも、工数の減少と人件費の面から価格低下の要因となるでしょう。

 おそらく八八艦隊は、様々な限定的量産効果も計算していたのではないでしょうか? 現代でも、アメリカは艦艇の一括生産でコスト削減を計る例が多くあります。

 

 ですが、いかに量産性を重視したとしても、当時の重工業の芸術品とすら言われる戦艦建造に大金が必要な事に間違いありません。

 ましてや八八艦隊の中核は、四万トンクラスの高速戦艦ばかりです。

 

 「長門」と「大和」の値段、「金剛級代艦」の見積もり価格からトン当たりの値段を計算すると、一隻平均は約一億円。

 十六隻で十六億円必要とします。

 (この場では丼勘定をするので、ツッコミは自動的に却下です。)


 今まで建造した分については、後で維持費と言う事で関わってきますので、便宜上一律五千万円とします。

 つまり金剛型以後の八隻合計で四億円分です。

 それより旧式については、維持しても時期によっては予算のムダになりかねませんが、各種合計で六隻、やや小型ですので一隻三千万円として約二億円。

 

 戦艦についてはこんなものでしょう。

 なお、旧式艦は建造時期が古い事と規模が小さいので、かなり安めに見立てています。

 

 また、軍艦の建造価格は、単純に排水量で計算できません。

 七万トンの戦艦から五〇隻の駆逐艦の建造予算が捻出できるかと言うと、まったく不可能です。

 列強以外の国がまともに大型駆逐艦による水雷戦隊を編成していないことからも分かるでしょう。

 軍艦の値段は、排水量ではなく構造や装備の差によって価格が決定されるのです。

 これも頭の隅においていてください。

 


 次に戦艦で少し出た空母について考えましょう。

 

 「八八艦隊」計画ではあまり具体化していませんが、第一、第二艦隊に少なくとも三〇ノット発揮可能な空母が小型なら二隻、中型以上なら一隻ずつ必要です。

 大型空母であればなお良しです。

 

 航空機があまり注目されない時代としても、広範囲での偵察と弾着観測機の為に制空権の確保が必要です。

 最低限、各艦隊に一隻は必要になります。

 

 また、主力艦隊以外の第三、第四、第五などの補助、哨戒艦隊にも空母があればモアベターです。

 航空機を持つことで偵察能力が飛躍的に高まり、防空能力を持つのですから、補助艦隊の運用がさらに有効になるのは間違いないからです。

 

 しかし、全ての艦隊に空母を揃えるとなると、最大で七隻の小型空母が必要です。

 はたして、そんなに沢山建造可能でしょうか? 戦艦建造に予算を取られるので、少なくとも空母を大型艦とする事は難しいでしょう。

 

 また史実において、この時期建造された空母は「鳳祥」と「龍驤」です。

 加えて改装空母の「赤城」と「加賀」がありますが、これらは現計画どおりだと戦艦になってしまうので、八八艦隊が建造される世界では空母として存在できません。

 

 なお、中型正規空母なら、史実のお値段からトン当たり三千円として、一隻当たり五千万円、軽空母なら一隻当たり三千五百万円程度となります。

 旧式戦艦からの改装ならもう少し安くなるでしょう。

 

 ここから、中型二隻、小型二隻を新たに建造すると想定します。

 これで第一、第二には中型空母一隻ずつ、他の艦隊には「鳳祥」を含めれば三隻になるので、こちらも各一隻ずつ配備できます。

 よって建造に必要な予算は、一億七千万円程度です。

 しかし、予算には航空機と関連経費は考えられていないので、実際は中身と航空隊込みで、作るだけで二億円程度が必要になります。

 パイロット育成や航空機の運用に、他とは比較にならない経費がかかるからです。

 故に空母とは、言うほど手軽な買い物ではなく、排水量から見ればかなり高価な買い物です。

 

 なお、トン当たりの値段は、史実の母艦の値段と排水量から平均した数字です。

 これ以後の艦艇も同様ですので留意ください。

 


 後は、他の補助艦艇ですが、巡洋艦や駆逐艦、潜水艦は何隻必要か? 数を考えながら予算を割り出していきましょう。

 

 巡洋艦は、当初計画なら戦隊単位で必要ありません。

 

 しかし、時代の趨勢で有力な重偵察巡洋艦の整備に迫られます。

 そして第一、第二艦隊には各四隻で編成される一個戦隊、他の艦隊にも同様のものが一個戦隊必要です。

 つまり七個戦隊・二十八隻です。

 水雷戦隊についても同数の編成が必要です。

 そして水雷戦隊の定数は、巡洋艦一隻と駆逐艦十六隻。

 

 つまり、巡洋艦は合計で三十五隻、駆逐艦は百十二隻必要です。

 

 また、潜水艦については、この当時は潜水艦隊としてまとめて運用するという考え方がまだありませんから、各艦隊に駆逐艦と同じ戦隊数が必要です。

 しかも敵陣深くでの偵察任務という日本海軍の用途から、旗艦となる水上艦船も高速発揮可能で敵陣深く切り込める巡洋艦が理想的です。

 つまり、各巡洋艦一隻と十二隻編成が七つ必要で、合計巡洋艦七隻と潜水艦八四隻です。

 

 そして補助艦艇の数は、艦の規模を大型化したり哨戒艦隊の定数を減らせば一割程度減らせられます。

 

 以上の補助艦艇を揃えるために必要な予算は、可能な限り切りつめて考えましょう。

 

 巡洋艦は四十二隻必要ですが、贅沢な潜水艦旗艦用の分は諦めましょう。

 それでも八〇〇〇トンクラスの大型偵察巡洋艦が最低十二隻、五五〇〇トン型が十八隻、三〇〇〇トン級と旧来からある防護巡洋艦が合わせて六隻となります。

 

 そして三〇〇〇トン級のうち二隻と防護巡洋艦については既に建造済みですので計画予算外です。

 残り二十八隻については、トン当たり平均で四千円の予算が必要なので、重巡一隻三〜四千万、軽巡一隻二千万円程度、合計で約八億円になります。

 

 値段はもう少し高いようにも思いますが、戦艦とのかねあいからこの程度とします。

 巡洋艦も性能が上昇すると意外に金食い虫です。

 

 艦隊型駆逐艦はトン当たり五千円の予算が必要なので(高出力機関など装備が高価だからです)、一隻一三五〇トン平均とし百十二隻で十五万トン、七億六千万円必要です。

 

 また、潜水艦は駆逐艦よりさらに一割程度割高になるので、一隻当たり一〇〇〇トン平均とすると八十四隻で八万四千トン、四億六千万円になります。

 

 分かりやすく言えば、水雷戦隊一つ一億五千万円、潜水戦隊一つで一億円が必要、全部で約十億円になるわけです。

 


 ここでようやく合計が出てきますが、戦艦が十六億円、空母が二億円、巡洋艦が八億円、駆逐艦七億六千万円、潜水艦四億六千万円。

 

 合計、大型戦闘艦艇だけで三十八億円です。

 もちろん、これらの艦艇を支援するために必要な給油船、給兵船、給糧船、工作船、各種母船などなどなども、史実の二倍の数が必要になります。

 

 つまり、八八艦隊を一切合切揃えようとすると、既存建造分を除けば、一九三〇年代後半の物価指数で合計約四〇億円の予算が必要という丼勘定的な概算が出てきます。

 

 もちろん、数えた中には八八艦隊予算成立までに既に予算が組まれたり完成している艦艇もあり、多数を建造すれば量産効果なども期待できます。

 それらを加味した丼勘定で、一割減の約三十六億円程度と言うことになるでしょうか。

 

 と言うことで、一九三〇年代中ば以降の建造費で作られた場合の「八八艦隊」の建造予算は合計で三十六億円と仮定します。

 

 ちなみに、軍艦「大和」を含む第三次補充計画の総建造量約二十七万トンの予算八億六五〇万円でした。

 これは三九年に次の第四次計画が始まるので、二年分の建艦予算となります。

 この数字は、史実日本では平時における軍事予算としては限界でしょう。

 そう言う意味では、八八艦隊と似ています。

 

 そして第三次補充計画を強引に「大和」級八隻、「翔鶴」級八隻の昭和版八八艦隊と考えると、八年間で三十二億円の予算が必要と言うことになります。

 しかしこの計画だと、駆逐艦は六〇隻程度、巡洋艦は皆無と言うバランスの欠いた艦隊計画になってしまいます。

 つまり八八艦隊並のバランスにしようとすれば、四十億円以上、軍拡を開始した米海軍に平時で対抗しようと考えれば五十億円は必要となります。

 

 その上これに、一機六〜七万円程度の零戦などの艦載機と一機二十五万円程度の中型陸上攻撃機を各数百機づつ用意しなくてはなりません。

 しかも、航空隊を含めた空母の維持費は、トン当たり戦艦の五倍です。

 全体の予算は、ヘタをすれば平時予算編成の中ですら百億円に達するでしょう。

 実際、戦時計画の改第五次海軍補充計画(一九四二年)では、計画予算自体が百億円を超え、内航空隊予算だけで4割以上を占めていました。

 

 少し話しが逸れましたが、一九三〇年代半ばの八八艦隊の完成に必要な三十六億円と言う数字を、一九二〇年代半ばの物価と当時の予算から修正します。

 

 また、物価格差は二割り増し程度として、三十六億円はこの当時に換算すると三十億円程度になります。

 

 いっぽう、史実の計画では二十四億円でした。

 

 つまり今回の想定の八八艦隊計画は、丼勘定で予算を出しているので、かなり贅沢な予算編成となります。

 細かく計算して切りつめれば、もう一割程度お値段は下がるはずです。

 ただし、史実の計画より巡洋艦や空母を多く計画組み入れ時代に対応させバランスを取っているので贅沢になるのは仕方ありません。

 

 そして、十年程度で建造しようとしているので、一年当たり必要な予算は約三億円。

 その他の予算ももちろん必要ですので海軍全体だと平均五億円の経費が最低必要です。

 

 また、史実の一九二一年の海軍予算は五億二〇〇〇円、二六年だと二億三九〇〇万円です。

 単純に考えると八八艦隊は、一年当たり史実よりも三億円余計にかかっています。

 つまり、八八艦隊を八年で揃えようとしていたのですから、ここから単純に考えると八年分で二十四億円必要と言う事になります。

 

 つまり、史実の計画推進時とほぼ同じ数字です。

 ようやく少し現実的な数字が見えてきたように思えます。

 

 なお、艦隊以外の予算ですが、これは全体的な予算にひっくるめたいと思いますので、詳細については次に譲りましょう。


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