第五節・海軍艦艇建造計画『八八艦隊』計画
さて、前置きが長くなりましたが、いよいよ「八八艦隊」の詳細に入ります。
まずは、艦隊建造計画全体について紹介していきます。
ある程度は史実に則したものにしていますが、変更点も見られますので、計画表のあとに補足説明していきます。
◆八八艦隊計画以前の艦艇
扶桑級戦艦:扶桑・山城
伊勢級戦艦:伊勢・日向
金剛級巡洋戦艦:金剛・比叡・榛名・霧島
防護巡洋艦:筑摩・矢矧・平戸
駆逐艦:磯風級:4隻 桃級:4隻
戦艦、巡洋戦艦については多くを語る必要はないでしょう。
それ以外の艦艇は、一九三〇年代初期までは現役だった巡洋艦、駆逐艦になります。
補助艦に関する量的制限に関する条約はまだ成立していないので、今回の八八艦隊では現役艦艇として、二線級ですが現役に名を止めています。
◆八四艦隊計画(一九一三年)
長門級戦艦:長門・陸奥
加賀級戦艦:加賀・土佐
天城級巡洋戦艦:天城・赤城
天竜級二等巡洋艦:天竜・竜田
江風級一等駆逐艦:2隻
樅級二等駆逐艦:12隻
二等潜水艦:4隻
大型艦については多くを語る必要はないでしょう。
「加賀」、「土佐」、「天城」、「赤城」が、建造施設の違いから史実より早いスケジュールで建造されている点が違いとなります。
「江風」級一等駆逐艦は、昭和十年頃まで現役だった艦隊型駆逐艦です。
二線級ですが現役に名を止めています。
他の補助艦艇については、史実でも全て大東亜戦争で現役だった艦艇たちなので説明の必要はないと思うので、特にコメントはありません。
そして、ここではまだ暴走はありません。
◆八四艦隊計画追加分(一九一四年)
球磨級二等巡洋艦:球磨・多摩・北上・大井・木曽
長良級二等巡洋艦:長良・五十鈴・名取
夕張級二等巡洋艦:夕張
樅級二等駆逐艦:9隻
楢級二等駆逐艦:64隻
二等潜水艦:2隻
給油艦:4隻
第一次世界大戦勃発と積極参戦により改訂された戦時計画になります。
当然ながら、史実と大きく違っています。
最も大きな違いは、「楢」級二等駆逐艦の建造数です。
艦そのものは、史実でも建造された楢級に速力と居住性の変化を加えた、護衛を重視した駆逐艦になります。
そして、この世界では日本がより深く第一次世界大戦に関わっているので、欧州に向かう船団の為の護衛駆逐艦として大量建造されています。
また、軍艦ではないので割愛しましたが、戦時の徴用を目的とした大量の高速輸送船やタンカーも建造されています。
それ以外については、史実と同様の艦になります。
また、建造計画時期もほぼ同じタイムスケールです。
◆八六艦隊計画(一九一六年)
天城級巡洋戦艦:高雄・愛宕
鳳祥級航空母艦:鳳祥
長良級二等巡洋艦:由良・鬼怒・阿武隈
峰風級一等駆逐艦:12隻
樅級二等駆逐艦:9隻
若竹級二等駆逐艦:8隻
二等潜水艦:18隻
給油艦:7隻(戦後民需返還用 +12隻)
この計画においては、史実とほぼ同じとしました。
つまり、大戦中ですが戦時計画ではありません。
アメリカのダニエルズ・プランが始動し出すので、その対抗として戦時計画でなくその後を見越した計画が急がれたので、急ぎ計画された建造計画となります。
タイムスケールは史実とほぼ同じタイミングになります。
そして「高雄」、「愛宕」は、この世界では計画通り建造されていきます。
ただし、表記された以外では、欧州派遣の影響を受けて、海軍用の貨物船やタンカー、工作艦などが、特務艦として多数所属する事になります。
◆八八艦隊計画(一九一九年)
紀伊級戦艦:紀伊・尾張・駿河・近江
川内級二等巡洋艦:川内・神通・那珂
峰風級一等駆逐艦:3隻
神風級一等駆逐艦:9隻
潜水母艦:1隻(迅鯨)
一等潜水艦:2隻
二等潜水艦:15隻
給油艦:1隻
給兵艦:1隻(樫野)
史実では、ここでようやく八八艦隊建造計画が承認され、一気に八隻の戦艦建造が計画されます。
ここでもほぼ同じですが、史実との違いは八八艦隊計画艦のうち十三号艦級の建造が含まれていない点です。
他はおおむね史実の計画通りとしました。
ただし、「十三号艦級」の建造予算そのものは、史実同様にここで通過しています。
建造が遅らされたのは、予算成立当時にまだ第一世界大戦が継続中で、商船建造などを優先しているのでドックの空きが確保できないからです。
なお、紀伊級戦艦の艦名のうち「近江」は、本来なら徳川御三家と言うことで「常陸」の方が相応しいと思いますが、ここは予定艦名と言われた「近江」の方を採用しました。
また、紀伊級戦艦は建造時期をずらす事で、史実とは違った姿、より強力な艦となります。
また給兵艦は、四六センチ砲を運搬するために特別に建造されるものです。
当然史実の計画にはありませんが、史実の「樫野」とほぼ同じ能力を持ちます。
◆第二次八八艦隊計画(一九二二年)
富士級巡洋戦艦:富士・阿蘇・雲仙・浅間
古鷹級一等巡洋艦:古鷹・加古
青葉級一等巡洋艦:青葉・衣笠
(改)川内級二等巡洋艦:鈴鹿・水無瀬・音無瀬・綾瀬
睦月級一等駆逐艦:16隻
機潜級潜水艦:4隻
巡潜級潜水艦:4隻
海大級潜水艦:12隻
二等潜水艦:8隻
敷設艦:1隻
潜水母艦:1隻(長鯨)
給油艦:3隻
給糧艦:1隻(間宮)
ここから、史実の計画から大きく変化してきています。
原因は、第一次世界大戦とそれまでの努力で、この世界の日本の大きな経済力に合わせて予算が編成され、史実よりも贅沢な艦隊編成が行われているからです。
なお、「富士」級が「十三号艦級」となります。
名前は順番からいけば「妙高」級の名前が相応しいように思いますが、混乱を避けるために日本国内の大きな火山より新たに命名しました。
それに伴い、初代富士は特務艦に移動し、名称もひらがなのみの「ふじ」となります。
さらに、艦隊編成の拡大に伴い、「川内」級の後期型は史実の計画より四隻、「睦月」級も四隻多く建造しています。
計画はアメリカに対抗して水上艦優先ですので、潜水艦については史実と同様です。
また、給油艦などの支援艦艇は史実通りの建造枠です。
◆第三次八八艦隊計画(一九二五年)
葛城級巡洋戦艦:葛城(臨時追加)
龍驤級航空母艦:龍驤・龍鳳
最上級二等巡洋艦:最上・三隈・熊野・鈴谷
特型駆逐艦:9隻
高速給油艦:5隻
給糧艦:1隻
工作艦:1隻
ここでは、駆逐艦以外全てが史実と食い違っています。
なぜなら、この計画の時点で海軍軍縮条約が成立しているからです。
「葛城」は、関東大震災で大破、解体された「天城」の代艦です。
関東大震災で被災するのは本来なら「尾張」の筈なんですが、史実へのオマージュとしてそのまま「天城」としました。
なお、戦艦は軍縮条約でこれ以後は建造はしばらく停止されます。
「龍驤」級航空母艦は、史実の元計画のものなので、格納庫は一段で、バランスの取れた軽空母となります。
そして、艦隊の拡大が決定されたので、それに従い二隻建造されます。
「最上」級は、史実の「妙高」級にあたり、軍縮条約の前に基本計画が策定されたので、枠の上では二等巡洋艦となって、川の名前から名がとられるので、史実の最上級より転用しました。
また、ここで日本海軍の戦術ドクトリンが、「漸減作戦」を旨とした「防守艦隊」からの脱皮が始まります。
その大きな理由は、第一次世界大戦への積極参戦により、海上護衛の理念が出てきたのと、領土拡大で遠距離での活動が本格的に考えられるようになるからです。
さらに、マーシャル諸島の編入により、マーシャル沖での決戦に方針が変更されたにも関わらず軍縮条約で基地設営できない事から、同地域への早急な支援部隊の展開の必要性が出てきたからです。
そして、支援艦艇が艦隊の拡大に伴い史実より多く整備され、多数の高速給油艦と新たな大型給糧艦の整備が行われます。
もちろんこれは、日本の国力増大の影響も受けています。
駆逐艦のみが史実と同じとなります。
ちなみに、通常の給油艦は速力一二ノット程度、高速給油艦は一六ノット程度の速力発揮が可能なのが最大の違いです。
軍艦のように二十ノットを超えることはありません。
◆第四次八八艦隊計画(一九二八年)
祥鳳級航空母艦:祥鳳・瑞鳳
妙高級一等巡洋艦:妙高・那智・羽黒・足柄
特型一等駆逐艦:15隻
巡潜級潜水艦:1隻
海大級潜水艦:3隻
敷設艦:1隻
高速給油艦:6隻
本計画で史実と違いないのは、「特型」駆逐艦と潜水艦の建造のみです。
「祥鳳」級は、「龍驤」が「青葉」級の船体を流用したように、「最上」級(「妙高」級)の船体を利用し、若干大きな軽空母となっています。
また、本来なら中型空母を計画すべきですが、その補完として二隻計画されます。
あえて軽空母を重ねて建造したのは、量産効果もありますが、史実と違い改装の大型空母が建造されていないので、この分野での技術蓄積の意味があります。
また、「妙高」級は、史実の「高雄」級と同じになります。
類別はここからいわゆる重巡洋艦になり、山の名前がつけられています。
また、支援艦艇の拡充も可能な限り続けられます。
なお、この計画が完成したら八八艦隊の第一期計画分は完成となります。
なお、この辺りから大型艦建造施設に空きが出る事もあり、各戦艦の近代改装が活発化します。
◆第一次海軍補充計画(一九三一年)
蒼龍級航空母艦:蒼龍
鳥海級一等巡洋艦:鳥海・摩耶・伊吹・鞍馬
初春級一等駆逐艦:6隻
白露級一等駆逐艦:12隻
占守級海防艦:4隻
巡潜級一等潜水艦:1隻
海大級一等潜水艦:6隻
海中級一等潜水艦:2隻
潜水母艦:2隻
敷設艦:1隻
高速給油艦:5隻
小型給糧艦:5隻
工作艦:1隻
当計画も、史実との一致を探す方が難しくなります。
また、この計画までがアメリカとの激突までに間に合う艦艇になります。
「蒼龍」級航空母艦は、史実の「赤城」か「蒼龍」元計画を具現化したような装備を持つ航空母艦になります。
しかし一種の実験艦なので一隻のみの建造です。
「鳥海」級は、量産効果を考え妙高級と同様に、史実の「高雄」級と同じものになります。
「初春」級は史実のような駆逐艦に対する制約がないので「特型」最後の型となり、妥当な排水量をもった大型駆逐艦になります。
その後の「白露」級は特型の純粋な発展型ですので「朝潮」級に匹敵する史実以上の艦になり、さらに予算が潤沢なのでその分多く建造されています。
潜水艦については史実通りです。
「占守」級海防艦は、史実では水雷艇枠になりますが、この世界では駆逐艦の量的規制はないので水雷艇は建造されません。
また第一次世界大戦中に大量の小型駆逐艦を建造しているので、その代換艦のテストケースとして海上護衛を任務とする艦艇が建造されています。
形としては、史実の「千鳥」級と「占守」級を足して二で割ったようなものとなります。
もしくは、イギリスのハント級駆逐艦が近いでしょう。
なお、アメリカとの関係が悪化し始めるので、補給のための支援艦艇が多数計画されています。
そして、この計画艦たちの整備中に風雲急を告げるので、建造も急がれます。
ゆえに、全ての艦艇は史実より遙かに速いペースで建造され戦列に加わることとなります。
※これ以後の軍備計画については、一九三四年までに間に合わないので旧版にあった記事の掲載は取りやめました。




