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序節・概要

 さて、日本海軍好き、軍艦好き、もしくは架空戦記を好まれる方が一度は夢見るのが、近代日本海軍史上空前絶後の艦隊建設計画「八八艦隊計画」ではないでしょうか。

 

 しかし、史実日本の国力を考えれば計画の実現は極めて難しく、実際実現は不可能でした。

 主な理由として、史実における艦隊建設のピーク時の軍事予算が、国家予算の五割を占めた事でも明らかでしょう。

 大正時代の史実日本の国力では、明らかに無理があったのです。

 

 さて、以上のような事は言うまでもなかったかも知れません。

 ですが本書では、妄想とすら言える日本海軍の夢を実現するために必要な様々な事象や物理的なものについて、少し考えてみたいと思います。

 

 また、せっかく鏡の向こうの世界の出来事ですから、活躍させてあげたいのが人情と言うものでしょう。

 このあたりもあわせて考えてみたいと思います。

 もちろん、戦わず諸外国の艦船たちと国際観艦式でもできれば一番なのですが、時代がそれを許さないでしょう。

 

 なお、なぜ「八八艦隊」が必要かについては基本的に論じません。

 日本海軍が史実同様の経緯を辿り、国防上必要だと判断したためと強引に結論づけておきます。

 また、仮想敵国は、同様の大艦隊「三年計画」通称「ダニエルズ・プラン」を計画・推進するアメリカ合衆国とします。

 


 では、しばしお付き合いください。



なお、「小説家になろう」転載に際して、同人誌に掲載していたイラスト、図面はありません。

また同誌は2008年12月に発行した同人誌を元にしています。


 近代日本において、「八八艦隊」建設に最も必要なものは何でしょうか? 言うまでもありませんが、「八八艦隊計画」を物理面で可能とする国力です。

 

 お金がなければ何もできません。

 

 特に、健全な国家予算内から、適切な軍事予算、建艦費用を捻出する必要があります。

 なぜなら、兵器とは作るだけでもお金がかかる上に、さらに維持するにも莫大な予算が必要だからです。

 そして健全な国家予算内で、適切な軍備を揃えることこそが国家運営の必須条件です。

 でなければ、継続的な艦隊運営と育成はできません。

 

 史実日本の場合、明治、特に日露戦争までに対馬沖でロシア・バルチック艦隊を完全勝利で葬った艦隊、「六六艦隊計画」に至るまでの苦労が多くを物語っていると言えるでしょう。

 

 また、20世紀に入り強大な経済力を誇るようになったアメリカ合衆国でさえ、「八八艦隊」と同時期に計画されたほぼ同様の「ダニエルズ・プラン」は国家予算を圧迫しました。

 本計画も、初期で11億ドルを必要とし、物価上昇などでさらに予算が膨れ上がりました。

 ちなみに1920年頃の円=ドル為替交換レートは、金本位制の延長から1対2程度です。

 日本が極度の不景気、ハイパーインフレになる等の変化がない限り、レートに大きな変動はありません。

 1929年の大恐慌以前は、いまだ金本位制の残滓が残る時代です。

 

 以上の事から、アメリカを上回る国力を実現しない限り、史実日本では健全な国家予算上での八八艦隊建設は不可能という結論になってしまいます。

 そこで国家予算上という点に関しては、歴史改変で可能な限り努力し、史実よりもマシな予算編成ができるように考える程度にしたいと思います。

 

 では、実際に必要な予算については後述するとして次に進みます。

 


 お金の次に必要なものは、船を建造する船渠ドックと船台、つまり造船所と、建造を可能とするだけの鉄鋼生産能力などの基礎的な重工業力です。

 加えて、完成した艦艇を運用するための血液たる石油を確保するため、国内油田か安定した供給地があれば文句はないでしょう。

 

 もちろん、基礎的な造船技術など、国家全体で科学技術が高いに越した事はありません。

 一定以上の規模の重工業を持つ国でなければ、大艦隊は作りたくても作れないのです。

 

 さて、順番にもう少し細かく見てみましょう。

 

 まずは造船所ですが、史実の日本では三万トン以上の大型軍艦(重構造の船)が建造可能だった船渠、船台は軍民併せて四つです。

 他の列強と比べると四という数は、英米に劣りますが他には勝ります。

 一見少ないように思われるかもしれませんが、貧乏国日本の努力が伺える数字だと言うことをお忘れなきよう願います。

 

 もっとも四つでは、八八艦隊の戦艦だけの建造ならともかく、多くの補助艦艇そして八八艦隊に続く大型艦艇の建造を考えると心細いものがあります。

 スケジュールに齟齬をきたせば(関東大震災のような天災も含む)、計画が大きな修正を余儀なくされてしまいます。

 

 ですが史実では、建造施設四つという前提で計画が組み上げられました。

 そう、取りあえず建造は可能なので、この点は問題なしと考えましょう。

  

 それに歴史改変で国力が大きくなれば、計画だけで終わった大神工廠や第二次大戦前に作られた各地の大型船渠が前倒しで作られるかもしれません。

 

 とどのつまり、お金持ちなら問題はありません。

 

 もちろん、戦前のような大量の建造施設をつくりあげれば、一九三〇年代半ばの時価で三〇億円もの予算が別に必要になります。

 しかし日本経済が成長すれば、経済原則に従い鉄鋼、造船が最初に伸びるので、施設拡大の可能性は十分あります。

 

 同じ事は、鉄鋼生産能力についても言えます。

 国力さえあれば問題ありません。

 経済の拡大に伴い、製鉄所ぐらいいくらでも建設される事でしょう。

 

 ですが、史実では戦時に造船力の半分程度しか艦船用鋼材を日本の銑鉄、粗鋼生産能力では供給できなかった事を考えれば、造船よりも重視すべき事とも言えます。

 

 史実の統計を見ると、最大で年間約三百万トン(一九四四年統計)の建造力があったと概算できるのですが、実際は約百五十万トンの建造が限界でした。

 

 銑鉄を生産する施設も、日本列島の半分を八幡製鉄所が担い、日支事変以後生産力が大きく拡大したのは満州の鞍山製鉄所(最盛時は八幡製鉄所と同規模)だけです。

 お金と国家の意思がなければ拡充は難しいので、慎重に事を進めるべき事象です。

 

 しかし日本にとって一番のネックは、鉄ではなく油です。

 

 艦隊の血液たる重油(石油)を生み出す、有力な国内油田については全く望めません。

 国内の生産量は通常なら二〇万トン程度。

 最大限努力してもその五割り増しが精一杯です。

 史実と同じレールの上では、国内にある限り石油については輸入に頼る以外ないのです。

 ではどうしましょう? どこか近くに油田はないでしょうか?

 一番近いのは、当時も稼働していた北樺太のオハ油田です。

 史実でも日本主導で開発もされているから、独自に採掘しても問題ありません。

 採掘量は、輸入量だけを見ると六〇〜七〇万トン程度です。

 資本投下を増やしたり経済効率を無視すれば、日本の技術力でも一〇〇万トン程度は採掘できる筈です。

 ここを領土にできていれば、一番近く安全に石油を供給できます。

 

 またオハ油田は、冷戦中のソ連では一七〇万トン〜二五〇万トンほど採掘されています。

 つまり、ドイツやアメリカから技術を全面的に導入し、なおかつ採算などお金の事を考えなければ、当時のドイツの技術レベルで一五〇〜二〇〇万トン程度の採掘は可能な筈です。

 ソ連時代の鉱工業技術は、大戦前に導入した、もしくは大戦直後にドイツから分捕った技術が基本だからです。

 

 そして、まとまった油が無いより有る方がはるかに良い事に違いはありません。

 特に最低限のシーレーン防衛で油が手に入るお手軽さは国防上大きな魅力です。

 

 あと有望な油田は、北満州(大慶)、アラスカ北部、そしてインドネシア各地の油田です。

 しかし、どれも一九三〇年頃に日本の手で採掘可能とするにはかなり無理があります。

 

 特にアラスカはアメリカ領なので、日本の勢力圏にするのは難しいでしょう。

 クリミア戦争や南北戦争にまで遡った歴史改竄のアクロバットを要求されてしまいます。

 また、ロイヤル・ダッチ・シェルが牛耳っているインドネシア各地の油田も同様です。

 かろうじて北満州が場所だけは日本の勢力圏にする事ができますが、実は問題は山積みです。

 

 当時の北満州は見渡す限りの荒野です。

 油田を発見できたとしても、開発はかなり難しいと言えます。

 (実際比較的古くから「発見」はされているが、油質などの問題から利用が難しいので本格的調査がされていない。)実際この油田の本格的開発開始は、中華人民共和国の時代に入ってからでした。

 それに、日本の近在に大油田(年産最大五〇〇〇万トン)が発見されると、世界中の列強、特にアメリカの対日戦略を根底からゆるがす存在となります。

 仮に年産五〇〇〇万トンという数字が一九三〇年代に実現されてしまうと、当時の産油量でイギリス、ソ連を抜いて世界第二位です。

 北満州油田は、バクー油田のような戦略地点になってしまいます。

 

 これが日本の勢力圏になると、もやは日本海軍の行動を制約するものはなくなり、アメリカの外交戦略上大問題です。

 油田が見つかれば、不用意に日米戦争の引き金を引く可能性が十分にあります。

 近在の共産ロシア(ソ連)だって黙って見ている筈ありません。

 

 そこで北満州油田は、戦争の引き金的役割を負わせる一つの要因と言う事で、艦隊の血液にするのは当面断念しましょう。

 

 まあ、発見・採掘されたところで、当面は利用価値の少ない超重質油なので、経済効率を考えた精製だと実際は火力発電ぐらいにしか使い道がないそうですが、発見当初は列強も内実まで分からないでしょう。

 それに、油は油です。

 


 さて、今までの概要を要約すると、やはり全ては日本の国力がいかに大きいかが、「八八艦隊」の建設を可能にするかの鍵を握っていると言えます。

 ですが、経済問題については後で詳しく考えてみる事として、先に「八八艦隊」建設に必要な予算を丼勘定で考えていきましょう。

 お値段を算出した後に、逆算して必要な国力、必要な歴史改変を考えていきたいと思います。

 

 その方が、日本に必要な国力の最小値が分かりやすく出てきますからね。

 

 なお、「八八艦隊」の完成は、史実通り一九二八年の第一期完成を目標したいのですが、この点のみ変更します。

 

 主な理由は、「八八艦隊」実現に必要な日本の国力達成が難しいと判断するからです。

 また、「八八艦隊」が有利な状況で戦争を持ってくるという副目的達成のためでもあります。

 

 そこで計画を史実より一期・三年遅らせ、一九三一年(昭和六年)の完成を目標としたいと思います。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 冊子版持ってるんですけどね ついこっちでも読んじゃうww
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