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新しい一日

ルピナスとチャイブの視点から。

「くう、くう」

「る、ルピナスさん、助けっ……」


 翌朝、ルピナスはチャイブを抱き締めて眠るゲンゲの姿を目撃した。昨晩流れるような動きで同じベッドに向かっていたのは見ていたが、チャイブは寝ている間に抱き枕にされたらしい。元から八の字の眉を更に困らせて、チャイブが手を伸ばしている。紫雲英はというと、その幼い顔に笑みを浮かべて幸せそうに眠っている。ルピナスは弟分を助けるべきか恩人を助けるべきか迷って、所在無げに立ちすくむ。


「んん……」


 そうこうしている内に、ゲンゲは小さく声を漏らしてぽやっとした顔で起き出した。腕が緩み、解放されたチャイブがベッドから転がり落ちる。ルピナスは、はらはらとその顔に零れる焦茶色の髪とその隙間から覗く儚げな灰色の瞳を見て、ゲンゲの寝起きはだいぶ危ういかもしれないと思った。

 ゲンゲはチャイブと同い年くらいの少年だ。チャイブよりは背が高いが、顔立ちからしてまだ幼い。服装が服装なので最初は少女と見間違えそうになった。ダボついたシャツ一枚でパタパタと動くので、時折下着が見える。男に言うのもなんだが正直目のやり場に困るのでやめてほしい。


「ルピナスさぁん、この人誰ですかぁ!?」

「んーっ……、あ、おはよー」


 未だ覚醒しきってないのか、伸びをしたはずなのにとろんとした目でブラブラと手を振るゲンゲ。チャイブは半泣きでルピナスの後ろに隠れた。


「あー、うん、よきかな……楽園だな、ここは」


 何やらよく分からないことを言っている。ルピナスはとりあえずチャイブの綿髪を軽く整えた。


「んじゃあ、朝ごはんにしますかー」


 ゲンゲが手を振ると、魔力の流れが生まれた。野草や海藻、魚が風魔法や炎魔法、水魔法で調理されていく。先程まで警戒心を剥き出しにしていたはずのチャイブはキラキラと目を輝かせていた。チャイブは家事が好きだからだろう。だがルピナスにとってはその魔力操作の上手さが驚きだ。


「調味料は塩しかないから我慢しろー」

「す、すごいですっ!」

「お?あー、ありがとうチャイブ氏。ちな、おれゲンゲな。よろしくー」


 手際よく木の器に焼き魚とサラダを盛っていく。チャイブは感動している。ゲンゲは頭をぱりぱりと掻きながらぺたんと床に座ると、「いただきます」と口にしてもしゃもしゃと食べ始めた。器用に二つの棒を操っている。チャイブは木のフォークを使い、ルピナス自身はというと、サラダにはフォークだが焼き魚は手づかみで食べている。


「いや、にしても、島流したぁまたベタよなー。でも一周回って全然アリ」

「?」

「あー気にしないでいいよー」


 昨日よりも更にゲンゲはぐでんとしている。元々がこういう性格なのだろうか。やはり楽天家という印象を受ける。朝食を一足先に終わらせると、彼は水魔法の水球に頭をツッコんで簡単な洗顔を済ませていた。


「ふぅ。今日から二人にはお仕事してもらうから。とりあえずはルピナス氏は畑作り?かな。チャイブ氏は家事担当してもらおうかなぁ。つー訳でルピナス氏、カモン」


 ゲンゲは壁に立て掛けてあった木製の槍を手に取ってさっさと外に出てしまった。慌てて食事を掻き込むとゲンゲを追う。彼はルピナスの顔を見てケラケラと笑った。


「そんな、急いで食べなくてよかったのにさぁ。置いてったりしないよ。お前はリスかっつーの」


 リスなる生き物を想像したらしいゲンゲの態度にムッとしたが、抗議の声は出せない。今も朝食を咀嚼しているところだからだ。


「まぁ来ちゃったもんはしゃーなし、おいでおいで」

「むぅ」


 そうしてゲンゲは拠点近くの斜面を整地すると柵を立ててルピナスにこの島に生えていた食物の種を渡して「じゃ、よろしく」と浜辺に向かった。


「……道具が、ないのだが」


 クワも無いのにどうやって耕せというのだろう。申し訳程度に切れ味の良さそうなナイフを渡されたが、これで耕すのは無理だろう。となると、道具を作るところから始める必要がありそうだ。ひとまずルピナスは、手頃な木を切るところから始めることにした。


ーーーーー


 日が暮れるまで作業を行い、拠点まで戻った。チャイブは大量の魚を捌いて、塩水に漬けている。干物を作るらしい。今日食べる分はゲンゲが串焼きにしていた。調味料は塩しかないが、何故か朝昼晩と料理はとても美味しく感じた。魚と野菜しか材料もないのに。


「それじゃ、明日もがんばろうかー」


 これが毎日続いていくのも悪くない気がした。


ーーーーー


 チャイブはなかなか寝付けずにいた。ルピナスは壁にもたれかかって眠り、ゲンゲはというと光魔法を照明代わりに、テーブルに光る板を置いて何やら一心不乱に作業している。

 ゲンゲは不思議な人だ。ダラダラとしているように見えて魚や山菜や海藻をたくさん採ってきたり、ルピナスに指示をしたりとやるべき事はやっている。それに、何故か頼りがいがあるように思えた。ルピナスのようにしっかり者ではないけれど、ちゃんとした人のような気がするのだ。

 少し自分に対してのスキンシップは激しめだが、家事に使える簡単な魔法を教えてくれたり、欲しい道具を木を削って作ってくれたりと、色々世話を焼いてくれる。だから自分はそれに応えられるように家事をがんばろうと、改めて決意した。

 やがてうつらうつらとし始めたチャイブは、最後に自分を庇ってくれたルピナスを思って眠りについた。


「ルピナスさぁん!」

「くぅ、くぅ」


 抱き枕にするのはやめてほしいと、心の底からそう思った。

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