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勇者になりたい何者かの物語  作者: スフィンクスさん
1/2

立志

勇者とは何か。

俺はずっと考えていた。

その考える俺の名は、マクス。

マクスという俺は存在するのかと問われるだろう。

だけどマクスである俺は考えている。

だから存在する。証明終わり。


さて、マクスである俺は勇者になろうと決意した。

普段は街の平凡な一市民だ。

親父は王宮の兵士で強い。

だから俺もそれなりに強い遺伝子をもっているはずだ。


母は専業主婦。家庭菜園をやっている。

だから俺も薬草の知識はそれなりにもっているはずだ。


ただ最近、異世界から転生してきたとか何とかで

妙に強い能力なり力なりをもって活躍する奴もいるらしい。


だけど俺はそういう奴らを勇者とは認めない。

強い戦士かもしれないし、強い魔法使いかもしれないだろう。

だが、勇者とは認めたくない。

どういう事情であれ、最初から強い奴らが成果を上げたところで、

そいつらは勇気を発揮しているわけではないと思うからだ。


勇気ってのは、自分よりも強い相手と戦うときに発揮されるもんじゃないのか?

自分より強い相手、否、そうでもないくらいの相手から逃げる奴は臆病。

だけど強すぎる相手に立ち向かっていく奴はただの無鉄砲だ。

そのちょうどあいだくらいが勇気というものだ。


奴らは、自分より弱い相手ばかり相手にしているだけで、

勇気が発揮される局面なんてないだろう。

だから、勇者にはほど遠いことになる。


その点、俺はそんなに強くない。

異世界からきたわけでもなく生粋のこの世界、エレアガルデの住人だ。

生まれた頃から魔王の脅威に晒され、魔物の脅威に怯えてきた一住人だ。

そんな恐怖を知っているからこそ、俺は勇気を持てる。勇者になれる。

そして、勇者になるために、俺は強くなる。

そうありたい。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


とまあ、ここまで決意表明をしたところで、

俺は唐突に荷造りを始めた。

家事をしていた母親は「急にどうしたの?」と心配げに俺を見ていた。

だけど、俺は決めたんだ。勇者になると。だから止めないでおくれ。

一通り荷造りを終えた俺は、重いリュックを背負って家を出た。

母が心配して、沢山の薬草を詰めてくれた。

武器は、親父が使わなくなった古い鉄の剣一本。

剣の使い方は親父に教わった。

教わったとはいっても、親父はそれほどスパルタじゃなかったので、多少扱える程度だ。

それでも、実戦を積んでいくうちに強くなっていくものだろうと俺は楽天的だった。



「マクス、そんな大荷物抱えてどこに行くの?」

街の出口にまで歩いていた俺の背後から、女の子が声をかけてきた。

ポニーテールの金髪で緑の綺麗な目をした女の子。

幼なじみのミニムだ。

彼女は魔法を使える魔法使いでもあり、教会で修道女もやっていて癒しの術ももっている僧侶でもある。

いずれはアカデミーに入って学問を修めて、将来は賢者になりたいそうだ。


俺は賢者というものは遊び人を経験して20年くらい経ってからなるものとばかり思っていたが、

彼女は正攻法で賢者になろうとしているようだった。


「俺は勇者になるんだ」

猛々しく俺は言った。

ミニムは「はあ」と首を傾げた。

「どうしたの、藪から棒に。いきなり勇者になろうなんて、頭でも打った?」

「頭は打ってない。……否、打ったかもしれないな。そう、俺の頭に突然浮かんできたんだ。この考えが。まるで青天の霹靂のようだったよ。ある意味で、頭を打ったんだ。そう、目覚めたんだ」

「はあ」

再びミニムは首を傾げる。

「まあなんかよくわからないけど、街の外に出ていくのならついでに私も連れてってよ」

「なんでだ」

「ほら、そろそろいい歳じゃない。修道院での修行も十分積んだし、覚える事は全部覚えたから、

 そろそろアカデミーに入学したいなと思ってね」

「もうそんな歳か」

「そうそう。んでね、アカデミーに行くにはこの街から二、三の街を超えていった先に行かなければならないんだけど、ほら、一人じゃ心細いじゃない?魔物だって出るし。大丈夫、マクスが強いことは大して期待してないし、私の魔法で余裕だと思うけど、あんた暇つぶしにちょうどいいからね。それにボディガードも必要でしょ?」

「……舐められたもんだな」

「どうも」

マクスは渋々ミニムを連れていくことにした。

渋々と言っても本当のところ、一人では心細かった。

魔物とは戦ったことはないし、剣の使い方も自信はない。

ミニムは賢いし、魔法も得意だ。

正直、楽して進めるんならちょうどいいのではないのか。

ミニムに助けられつつ、アカデミーについてミニムと別れる頃には戦いにも慣れてくるだろう。

もしかすると、仲間も増えているかもしれない。

俺が主人公的気質なのだとしたら、魔王を倒す資質があるのだとしたら、

仲間が増えるくらいのカリスマ性はなきゃ困る。

いずれにせよ、一人で行くのなら無鉄砲なのだろう。

だが、仲間と一緒に行くのならちょうど勇気になるんじゃないのか。

決して臆病なわけでもない。臆病ならここで怖気づいて街から出られすらしないからな。

ちょうど勇気を発揮するいいラインにいると、俺は思う。

勇者の第一歩目はちゃんと踏み出せているはずだ。


……と。

ふとミニムを見ると、じっと俺を見つめている。

「何だよ」

「まーたごちゃごちゃ考えているんでしょ。マクス、こういう局面で一々うだうだと考える癖があるからね」

「……」


「本当、マクスも頭悪くないんだから賢者を目指してがんばればよかったのに。

 遊び人でいればいつか賢者になれるなんて、怠け者みたいなこと言うんだから。

 ま、勇者になるって言うんならその心意気が三日坊主で終わらないように、ちゃんとがんばってよね。ふふふ」

ミニムは何でもお見通しだ。俺のことをよくわかっている。わかりすぎて怖いくらいだ。

いや、俺が単純すぎるのかもしれない。いろいろ考える癖がある方だと思ったんだが、複雑なわけではないだろう。

ミニムはよくわかってくれている。

その辺、安心できてしまう。

アカデミーまでと言わず、ずっと付いてきてくれないものだろうか。

そんな気持ちもある。


だが、甘えは無用だ。俺は勇者になるのだ。

一人でも立ち向かえるだけの勇気をもたなければ、勇者とは言えない。


「さあ、いくぞ」

荷物を積み終えたマクスは、早速街から出ようとした。

「ちょっと待って」

ミニムは引き留めた。

「どうしたんだ?俺は意志を曲げる気はないぞ。心配は無用だ」

「そうじゃないの。ちゃんと装備を整えないと、街の外に出るのは危険だわ。

 そんな剣装備だけじゃ心許ないよ」

マクスは少し考えた。確かにそうだ。防具がなにも揃っていない。せいぜい今来ている服だけだ。

持ち合わせは十分にあるのだから、ここでしっかり防具を揃えるというのも悪くはない。

「わかった」

マクスはミニムを連れ、防具屋に向かうのであった。

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