⑦ 『報告と対策会議』
レイ達は自警団の仲間と合流して詰所に戻ると、副団長にすべてを報告する。この際には、キールはもちろん、似た魔物と戦ったことがあるというジェノも同席して事の顛末を説明。
噂話が先行し、その実態を捉えられずにいた自警団にとって、この情報は値千金なものとなった。
特に、化け物の戦闘方法を知り得たのは僥幸だった。背中から生えてくる腕の存在など初見ではまず予測できない。それを知れただけでも、自警団仲間の犠牲が減るはずだ。
そしてその後、副団長とベテラン団員二人とレイ達三人の六人で、今後の話し合いを、会議を行うことになった。
ジェノが部外者なので、それを嫌う者も居た。レイもその一人ではあるのだが、先程の戦闘での的確な指示を見た後では、文句をいう訳にはいかない。それほど情報は貴重なのだ。
ジェノが以前戦ったという生物の性質は、確かに今日見たあの化け物の性質に酷似しているようだ。
そして、彼の語り口は自然で作り話のようには思えない。そのため、話が進むに連れて、みんなジェノの話に聞き入ってしまった。
その中で得られた情報は、二つ。
一つ、あの化け物の武器は主に腕だけである。ただ、再生能力があるため、傷を負っても回復する。そのため、先の戦いで切り落とした背中から生えた腕は再生してしまう可能性が高い。
二つ、あの化け物は夜行性である訳では無い。
たった二つだけの情報だが、これを知れたのは大きい。
無論、ジェノの知っている生き物と今回の化け物が全くの同じだと仮定することは危険ではあるが、少しでも可能性があるのであればそれを実行したい。今日は自分たちの管轄で犠牲者が出たのだ。もう、これ以上の犠牲を出すわけにはいかない。
「これまでの犠牲者の位置関係と自警団の配置状況から、怪物の行動範囲はだいぶ絞れてきているね。うん。私が団長と掛け合おう。他の管轄の自警団とも連携を取り、包囲網を狭める。そして、次こそ、犠牲が出る前にこの通り魔事件の犯人を止める。ただ、街のみんなと君たちの身が最優先だ。犯人の生死は問わない」
副団長の低い声に、レイ達自警団のメンバーは身が引き締まる思いだった。
いつもは穏やかで人当たりがいいが、こうと決めたら絶対に譲らないのが副団長だ。反対意見があったとしても、理路整然と正論の名のもとに叩き潰す人だ。
「部外者の意見だが、先にも説明したとおり、あの化け物は夜行性でない可能性が高いと思われる。だから、あの化け物が今後も日が落ちてから現れるとは限らない」
「分かっているよ、ジェノ。街の巡回を再構成し、怪物の行動範囲に多くを回す。昼夜を問わずにね」
ジェノが皆まで言わずとも、副団長は全てを理解していた。レイはそれが嬉しい。
「ジェノ。冒険者の連中をもう少し集めることはできないのか?」
レイが駄目元でジェノにそう尋ねると、仲間たちは少し驚いた顔をする。
「おいおい、レイ。巡回に冒険者が増えると面倒事が増えると言っていたのはお前だろうが」
ベテランの先輩はそう苦笑交じりに言うが、その目は笑っていない。みんな分かっているのだ。次にあの化け物が現れたときこそ、奴の最後にしなければいけないと。
「……俺は冒険者見習いの一人に過ぎない。だが、オーリンの爺さんに話はして置こう」
ジェノは自分の事を見習いだと言う。すると、その立場が低いだろうことは想像に難くない。
しかし、オーリンというのはこの街の冒険者ギルドのギルド長だ。個人的に彼と繋がりがあると言うのだろうか? やはり冒険者という連中のことは良く分からない。だが、それでも今は人手が必要なのだ。
こうして、レイ達は明日以降の対策を皆で話し合い、会議に参加しない他の団員が取りに行った夜食のスープを口にする。
ストーブの上で温められただけなので、少し温めだったが、それでも十分美味だった。
(……バルネアさん。もう少しで終わらせるから……)
レイは空になった皿を見て、静かに決意を固めるのだった。