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彼は、英雄とは呼ばれずに  作者: トド
第六章 『そこに、救いなどなくて……』
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⑥ 『男子会(という名目の打ち合わせ)』

 セレクトには、まだ明かせない事柄があることは容易に推測できる。だが、それでもシーウェンが知っている事柄については打ち明けあっていた。

 それは、教え子である自分と同程度の信頼をジェノに向けてくれているということだ。だから、嬉しくてたまらない。


 その気持ちが、敬愛する師であり恩人であるセレクトの度量の大きさに対するものなのか、それとも、無愛想なところもあるが、真っすぐで気持ちのいい性格の可愛い後輩が認められたからというものなのか。はたまたその両方なのか。


 いや、そんな事はどれでもいい。むしろ、それを決めるのは野暮なことだとシーウェンは思う。

 何故なら、気持ちの良い、本当の男の交流というものは、大抵がそういうものなのだからだ。


 互いに強い信念を持ちながらも、意気投合できる事の素晴らしさは、それは言葉にすることが難しいものだ。いや、もしかすると不可能なのかもしれない。

 しかし、言葉にできないことと存在しないことは同義ではない。


 自身を鍛え、高め、それでいて他者を認める度量を持つ男にしか理解できないものは、間違いなくあるのだ。


「なるほど。それが貴方の能力と、魔法なのか……」

「ええ。今まで隠していたことは謝罪します。ですが、これは私の判断であり……」

「いや、当然の判断だ。貴方とマリアは、臨時で俺達のメンバーに加わるだけの予定だった。そこまで話せる訳が無い」

 ジェノはそう言うと、すぐに部屋の机の引き出しの中から紙を一枚取り出してきた。


「ジェノ。この地図は?」

「今回の目的地のラセード村付近の地図だ。俺の思い過ごしならいいのだが、どうしてもこの村の立地で気になる点が……」

「ああ、ここですね。そして、ここというか、居住区の……」

「話が早くて助かる」

 恩師と後輩の会話を聞くとはなしに聞いているだけで、酒が旨くなるとシーウェンは思う。


「ジェノ。お前が気にしているということは、以前に、お前が『聖女の村』というところで感じたものだな」

「ああ、そうだ。この地形がどうしても、あのときの記憶を呼び起こす」

 ジェノの答えに満足し、シーウェンは後輩と師の空になったコップに、瓶を一本開けてビールを注ぐ。


「なるほど。しかし、ジェノ。君のその感覚は経験に裏打ちされたものです。その時のことを後悔し続けるのは良いことではないですが、それを糧にして安全対策を考えるのは正しい。であれば、村に着いた際に、私達が手分けをして……」

「ああ。それは俺も考えていた。だが、ここで問題になってくるのが……」

 ジェノは、自分の考えをシーウェンとセレクトに伝えると、チーズのスライスを器用に箸で掴み、小皿に取り分けて、シーウェン達に渡してくる。


「となると、俺達三人でやることにした方が良いだろう。いや、待て。リットの奴にも協力させようぜ」

「そうだな。あいつにも協力してもらおう。だが、それならば……」

「いや、それは一長一短ですね。高低差により得られる情報より、私は面積範囲で得られる情報に重きを置きたい。ある程度の高さまでならば感知できますから」

 セレクトは訂正案を告げ、自分に割り当てられた皿からチーズを箸で掴んで口に運ぶ。そして、どうしたものかとシーウェンとジェノが長考するのを横目で見、空になった大皿を回収し、まだ手つかずの煮込み料理の皿をテーブルに並べる。


「しっかし、酒とつまみがあるだけで、俺達の話し合いは忙しなくなるな」

 シーウェンがつい思ったことを口にすると、セレクトとジェノは自分たちが当たり前にしていた行動を思い出し、苦笑する。

 

「ははっ。君とジェノ君は仕事柄、お客様の様子をうかがって動く立場だからね。職業病と言っても差し支えないだろう。だが、私のこれは性格だからタチが悪い」

「いや、先生も仕事柄でしょう。まして、四六時中、若い女の世話をさせられるなんて、正直、俺なら御免被りたい。なっ、ジェノ」

「……そうだな」

 ジェノの賛同に、シーウェンは「そうだろう、そうだろう」と嬉しそうに彼の背中を軽く叩く。


 そして、ちょうどそんなタイミングで、<パニヨン>の店舗の客席から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。どうやら、女だけの飲み会はこちらよりも盛り上がっているようだ。


「よし。姦しいのはあっちに任せることにしよう。俺達は仕事を片付けないとな」

「そうだね。だけど、若い君たちは少し抜け出して、顔を出してあげるといい。その方が彼女たちも喜ぶし、君たちも楽しいはずだからね」

 セレクトはそう言うが、「それは少し違うぜ、先生」とシーウェンは否定する。


「そりゃあ、若い男なら女に興味があるのは当たり前だろうさ。だが、ここにいるのは本当の意味での良い男なんだ。そんな本物には、黙っていても女の方から寄ってくるもんなんだよ。だから、せっかく気のおけない男友達や尊敬できる先輩、後輩と楽しくやっているときは、それを優先したくなるのさ」

 自信過剰と捉えられても仕方がない物言いだが、シーウェンはそう言い切る。


「俺はそんな大げさな男ではないが、こっちの方が仕事の進みが早くて楽だと思う。効率化のためにも、計画のたたき台は俺達で作ってしまいたい」

「謙虚だな、お前は」

「事実を言ったまでだ」

 ジェノの普段と変わらない態度に、シーウェンは楽しそうに笑う。


「しかし、リットとはあまり絡んだことがないから、あいつも呼んでやればよかったんじゃあないか、ジェノ」

「あいつの場合こそ、女との飲み会を望むんじゃあないか?」

「ははっ。本当に彼は女好きなんだね。まぁ、年頃ならそれが普通なんだろうけれど」

 セレクトは苦笑いをするが、シーウェンの考えは真逆だった。


「それは違うと思うな。言ったろう? 良い男には女の方から言い寄ってくるって。だから、あいつこそ女には不自由しないだろうさ。だが敢えて、女に目がないと、好色だと偽っているように俺には見える。だから、今度はリットにも声をかけてみようぜ。なぁ、ジェノ」

「……分かった」

 ジェノは短くそう答えた。


 後の結果だけを考えるのであれば、このとき、ジェノ達がリットを誘わなかったのは正解だったと言える。なぜなら、仮に彼が今回の誘いに仮に乗ってしまっていたら、重要な情報が手に入らなかったのだから。


 このときリットはとある人物と会っていたのだ。

 これから、ジェノ達に深く関わってくることなる男と……。

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