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予告編(???)②

 ――これは、一体何の罰だというの?

 

 私が何をしたというの?

 私はただ愛するあの人と幸せな時間を過ごしていただけ。

 

 それなのに……


 こんな姿になった私は、もうあの人の側に居られない。

 そう思って、私はあの人の前から姿を消しました。


 どこかで一人、ひっそりと生きていこうと思ったのです。


 でも、この切り刻まれた醜い顔では、それすらも叶わない事でした。


 人の視線の恐ろしさというものを、この時の私は初めて知ったのです。


 ……結局、私は心を病みました。

 そして、気がついたのです。


 私には、あの人しかいないと。

 あの人なら、こんな今の私でも受け入れてくれるのではないかと、それだけを希望に、彼を探しました。


 ああっ、あの人はどこにいるのでしょう?


「……ねぇ、ラーフィン。貴方は、どこにいるの?」




 ◇




(どうして? どうして私はこんな目に合うのでしょうか?)


 小さな村の事柄しか知らない私にとって、あの人はとても眩しい存在でした。


 あの人は、森の獣に襲われそうだった私を助けてくれました。村の男性が総出で戦っても勝てるかわからない巨大なあの熊を、あの人は事も無げに剣一本で斬り伏せました。


 けれど、あの人の心は壊れていたんです。

 懸命に自分を認めてくれる、受け入れてくれる誰かを探して彷徨っているように思えました。


 助けてもらったお礼にと、あれこれあの人の世話をするうちに、私はいつの間にか、あの人に好意を抱くようになっていました。


 私は全てをあの人に捧げました。

 すると、あの人は私を愛してくれるようになりました。


 女として、愛する人が自分に溺れてくれる事は、この上なく幸せで、何よりも幸福でした。


 そして、ある時彼は、私に本当の名前を教えてくれました。


 ずっと自分を嘲笑う為に名乗っていた偽名ではなく、本当の名前を教えてくれたのです。


 それなのに、私は今、あの人の名前を唱えながら、この命を自らの手で終わらせようとしています。


 だって、もう、あの人に合わせる顔などないのですから……。


「……ああっ、ラーフィン。私の愛しい旦那様。どうか、私を許して下さい」






 

 気がつくと、私は目を覚ました。

 何故だろう? 涙がこぼれ落ちたみたい。


 悲しい夢を見たのだろうか?

 でも、その内容をまるで思い出せない。


 まだ起きるには少し早い時間だけれど、二度寝する気にもなれない。

 何故か心がざわめく。どうして、こんなにもこの胸が締め付けられるような感じがするのだろう?


 私は静かにベッドから体を起こすと、姿見に向かって身だしなみを整える。

 けれど、何故か不意にあの人が、黒髪の幼馴染の姿が私の脳裏に浮かんだ。


 どうしてだろう? 今日はあの人を、ジェノのことを身近に感じる。

 まるで昨日まで一緒に同じ時間を過ごしていたかのように……。


「……でも、ジェノは……」

 そうだ。あの人は、彼は変わってしまった。

 幼い頃は一生懸命に物事を取り組む性格でこそあったけれど、友達を大切にしていた。笑顔を浮かべていた。

 けれど今の彼は笑わない。

 久しぶりに私と再会したときも、微塵も嬉しそうではなかった。


「結局、時間が経っても、私の片思いのままなの?」

 駄目なのだろうか? やっぱり私では……。


 もう会えないと思っていても、私は綺麗になれるように頑張ったんだよ。

 貴方が大好きだったあの先生にも負けないくらいに魅力的な女の子になりたくて。


 まだ足りないの? 貴方の隣に立つには……。

 お願い。それなら教えて。私、貴方好みになれるように頑張るから……。


 ……だって、私には、貴方しか居ない……。 

 

「なっ! 私は何を考えて……」

 私は不意に溢れてきた馬鹿な考えを慌てて否定する。


 そうすると、普段の落ち着いた私に戻れた気がした。

 そして、私の中で渦巻いていた気持ちが霧散していったのだった。


「そうよ。私は貴族。ジェノは平民。そもそも住む世界が違うのよ」

 もう諦めた気持ちなのだ。過去のいい思い出なだけ。


 今日もまたあのお店に行って、ジェノに会うのだ。変な気持ちにならないように注意しないと。


 うん。今日こそなんとか、今の実家と連絡をつけないと。

 

 さぁ、そろそろセレクト先生を起こしにいきましょう。

 ……あの子のためにも頑張らないと。


 そうだ。私にはやらなければいけないことがあるのだから。

 だから、彼のことを、ラー……いいえ、ジェノのことを……。


 どうして私は、彼の名前を間違えそうになってしまったのだろう?


 ……それが少し不思議だったけれど、すぐにそんな気持ちも消えてなくなった。


 うん。私にはやらなければいけないことがあるんだ! 今はそれを優先させないと!

 さぁ、今日も頑張らないと!







 目を覚ますと、私は涙をこぼしていました。

 理由は分かりません。


 きっと、夢見が悪かったのでしょう。

 その内容は全く思い出せませんが……。


 時計を確認すると、そろそろ起きなければいけない時間でした。


 私は起き上がると、大切なお守りである首飾りを身につけようとしました。


 けれど、今日は何故か、私はその首飾りを注視してしまいました。

 見慣れたはずの、この真っ二つに分かれたペンダントの部分を、何故かじっと見てしまったのです。


 片方には、『メルエーナ』という私と同じ名前が刻まれています。

 もう片方には、『ラーフィン』という名前が刻まれています。


 この文字を読めるのは、認識できるのは、私と、私の好きな人……ジェノさんだけです。


 どうしてなのかは、未だに分かりません。


 以前、これに触れた私のお友達は、突然泣き出してしまいました。

 その事に不安がないと言えば嘘になりますが、それでもこれは私の宝物です。


 私とジェノさんを繋ぐ何かを感じられる、この首飾りが、私は大好きなのです。


「さて、今日も頑張りましょう!」

 私は自分自身にそう言って気合を入れて、厨房の掃除に向かいます。

 

 そうです。あんな人に負けてはいられ……。


「……えっ?」

 私は、自分の心によく分からない気持ちが一瞬浮かんだことに、違和感を覚えました。


 けれど、それはきっと気のせいです。

 何故なら、すぐにそれは霧散して、何だったのか思い出せなくなってしまったのですから。


 今日はまた、マリアさん達がこの店を訪ねてくることになっています。

 失礼のないようにしなければいけません。


 もっとも、それはどのお客様に対してもそうなのですが。


「…………」

 私は何故か不安な気持ちになり、首飾りを軽く握りしめて、深呼吸をします。


 よし。

 これで大丈夫です。


 さぁ、また一日が始まります。


 今日も笑顔で頑張りましょう!

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― 新着の感想 ―
[良い点] マリアちゃんとメルエーナさんは同じ夢を見ていたのか……ラーフィンさんとジェノさんの関係も気になりますし、ここは色々と興味をひかれますね(*'ω'*)
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