第4章:命を紡ぐラジオ(後編)
ガラガラー。扉を開く音が聞こえた。音で誰か分かる。私の夫だ。
>おつかれ〜調子はどうだい?
夫の優しい声がする。
「おかえりなさい。あなた」
私は清々しい笑顔で夫を迎えた。
>気分が良さそうだね。
>良かった
「…あなた。」
「…あなたに出会えて良かった。」
「今までありがとう。だからもし何かあったらお腹の子を宜しくね。」
>ど、どうしたの急に。
>何かあった?
「実はね」
「…いま、切迫早産の危険性があってこうして入院したけど、もしかしたらお腹の赤ちゃんの体調が急変するかも知れないの。そして、危険な状態になって母子ともに命が脅かされてしまうかもしれない。
そしたら…普通は、倫理的には母親の命を救うのかも知れない。でも、私は彼女に生きて欲しい。
人生を生きて欲しい。
…自殺する訳でも人生を蔑ろにしたい訳でもないけど、もしそうなったら彼女に命を紡ぎたいの」
夫の目を見て、心から話しかけた。
信じた道を進み、後悔ないように生きようと過去に誓ったからだ。
>分かった。僕もその時は決断しよう。
>決断には、責任が伴われるものだ。
>オヤジの言葉の意味が今なら分かる。
二人で手を取り合って涙を流した。
その瞬間だけが来ないことを祈って。
(エピローグ)
>寺田、大丈夫か?
心配そうな友を見る視線に気が付く。
妻のことを考えていた。今日は娘、香穂の誕生日だ。
毎年、娘の誕生日になると不思議なことが起こる。
夜、壊れたラジオから音楽がなり始めどこか幼さの残る不思議な少女が番組を開始する。
そこから妻の声が聞こえ始めるのだ。
妻は自分の死を感じとり、死ぬ前にラジオを使って数年分のメッセージを娘に残したのだろう。
不思議なラジオだ。
どのようなタイミングで繋がるのかは分からないが私も昔、父と話したことがあった。
「あぁ、大丈夫。
さてと今日は香穂の誕生パーティーだ。
香奈の分まで盛大に楽しもう。」
そう言って手を叩き踵を返した。
今日は娘の二十歳の誕生日だ。
第1章の少女(香奈)が20年後の自分と話をしました。しかし語りかけた未来の彼女は実は死後の自分でした。
しかしそれでも未来の自分は、後悔してないから強く生きて欲しいと願うのでした。
子供を身籠り、自分が死ぬことを知った彼女は、その運命に抗うことなく信じた道を進み、後悔なく生きるのでした。
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【作者より】中学生の時の読書感想文以来10年以上ぶりに文章を書きました。オリジナル小説は初めてです。