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第五話「幼女 (ロリータ)、わが肉のほむら、わが罪、わが魂」

登場人物紹介


ナオミ王女→のちに待ち受ける苛酷(かこく)な運命のことをこの時はまったく知らない純真な幼女。苛酷な運命って何かって? 「伝説騎士リベルタード」を読みたまえ(笑)


ロバータ・アイズレー→ナオミ王女の教育係にしてお守り役。子孫のパーラーと一緒でボクっ子。パーラーって誰かって? 「伝説騎士リベルタード」を読みたまえ(笑)


ジョリーン・メルヴィン→オリヴィアの実妹。お姉ちゃんのことが大好きすぎて左遷(させん)されたバカ。お姉ちゃんに(うと)まれているのにしょっちゅう実家に帰ってくるバカ。クレイジーサイコバカ

「ああ、やっとこの日がやって来た……スリーリバー王国に出陣できる日が……これでしばらく、あのバカップルから解放されるかと思うと、嬉しくて嬉しくてたまらない……」


 くだんのバカ二人がメルヴィン邸で養われるようになってから二週間ほどの月日が経っていたある日の朝、ジエンド王国の将軍オリヴィア・メルヴィンは朝から号泣していた。メルヴィン邸の玄関で。

 この日はジエンド王国と長年、抗争状態にある隣国スリーリバー王国へ向けて出陣する日だった。今のオリヴィアにとって、出陣ほど嬉しいことはなかった。毎日のように愛を絶叫し続ける、サチとナツミのバカ二人から、合法的に離れることができるからである。


「もういっそ、戦場で単身敵に飛び込んで死のうかな……その方が幸せになれるような気がしてるよ……どっちにせよ死ぬんなら、名誉の戦死をした方がいいに決まってるんだな……おにぎり食べたいんだな……」


 そうひとりごちたオリヴィアの目は死んでいた。


「おはよー! オリヴィア!! 遊びに来たよ!!!」


 死んでいるオリヴィアが玄関のドアを開けて外に出ようとした矢先、玄関のドアが勢いよく開いて、幼女と大人の女性がメルヴィン邸に入ってきた。


「あれ!? オリヴィアは?」

「こ、ここでございます、ナオミ様……いたたたた……」


 幼女が勢いよく開けたドアはオリヴィアを直撃し、オリヴィアはドアと壁に挟まれて、激痛を感じていた。


「どうしたの? オリヴィア、いったい誰にやられたの?」

「いえいえ、誰にやられたとかではなくて……あいたたた……」


 さしものオリヴィアもこの幼女に「お前にやられたんじゃー!!」などと悪態をつくことは不可能だった。なぜならば、この栗色の髪の幼女は、カーリー女王の一人娘のナオミ王女だったからである。今はまだ五歳と幼いが、れっきとした次期女王の王太子(おうたいし)であった。


「ところでナオミ様。今日は何ゆえお越しになられたのでございますか?」


 オリヴィアは鼻から血を垂れ流しながらも、笑顔でオリヴィアに問う。


「そんなの決まってるじゃない。オリヴィア、あそぼー!!」

「遊びたいのはやまやまでございますが、わたくしこれからスリーリバー王国へ向けて出陣せねばならず……」

「遊んでくれないの?」


 オリヴィアの返事を聞いたナオミは一瞬で涙目になった。


「あー、泣ーかした、泣ーかした、女王陛下に言ってやろ♪」


 そんな二人を見て、ナオミの後ろにいたピンク色の髪の女性が、現代日本でもおなじみのあの歌を歌った。


「うるさいぞ、ロバータ! お前、今日が出陣の日だってわかってるのにナオミ様を連れてきやがって!! ふざけんじゃねえぞ、こらあ!!」

「そんなこと言われても、他ならぬナオミ様のご意向ですからね、ボクが逆らえるわけないじゃないですか。そんなことより、鼻血拭いたらどうですか?」


 そのピンク色の髪の女性はロバータ・アイズレーという名前の、ナオミ王女の教育係を務めている女性であった。ようはお守り役である。ジエンド王国の西端にあるアイズ村という田舎の村から、(みやこ)のアヤナゴに出てきて、官僚試験に受かって出世を重ねている秀才である。


「あ、鼻血出てたのか、くそっ……今、拭くものがない……」

「ああ、ナッちゃん、昨日も熱い夜だったね、まさにカリブの熱い夜」

「おお、サッちゃん、今日も私のことだけ、見つめて欲しい!」

「もちろんだよ、サッちゃん、今日も私の目には君しか映らないよ」

「アゲインスト・オール・オッズ!!」

「あれ、幼女がいるよ、ナッちゃん」

「ええ、玄関にかわいらしい幼女がいるわね、サッちゃん」


 オリヴィアが鼻血を拭けずにいた時、なぜか玄関にバカ二人が現れた。もちろん今日も、両手でがっしり恋人つなぎをしながら、頬と頬をくっつけながら、意味不明なことを話しながら歩いている。


「げげっ……お前ら、なんでここに来るんだよ」

「ああ、面白いお姉ちゃんたちだー! 遊んで、遊んで!!」

「な、なりませぬ、ナオミ様。あのような者どもに近寄ってはバカが感染(うつ)ります! 離れてください!!」


 ナオミは第三話の時に、歌い踊るバカ二人のことを見ていてすっかり気に入っていたので、バカ二人に近寄ったが、オリヴィアは当然止めた。理由は書くまでもない。

 しかし、ナオミ王女は意外にもすばしっこく、オリヴィアが止める間もなく、サチの胸に飛び込んでいた。


「おやおや、これはかわいいお嬢さんだね。ナッちゃん、今日はこの子と思いっきり遊んであげようじゃないか」

「そうね、サッちゃん。この子本当にかわいいわね、なでなで……」

「エヘヘヘヘ」


 ナツミはサチの胸の中にいるナオミの頭を撫でたが、それを見たオリヴィアは憤慨した。


「き、気安く触るな! そのお方をどなたと心得る! おそれ多くもジエンド王国の次期女王ナオミ様であらせられるぞ!! バカども!! ()が高い!! ひかえおろう!!!!」


 オリヴィアはなぜか突然、格さんになったが、バカ二人はまったく聞いちゃいなかった。


「この子、ホントにかわいいね。ナッちゃん、将来私たちに子供ができた時も、こんなかわいい子供が生まれるのかな?」

「そうね、私たちの子供はきっと、この子と同じかそれ以上にかわいいに決まっているわ」

「ハッ、女同士で子供なんか作れるわけねえだろ!!」


 オリヴィアを無視して夢を語るバカ二人を、オリヴィアは一蹴した。するとニコニコ笑顔のバカ二人の顔に怒筋が浮かび、


「これはこれは、いつの時代の人間なのかわからないぐらい、古い考え方をしている人がいるね、ナッちゃん」

「本当に旧時代の人間って頭がかたいわよね、あれだけ頭がかたければ鈍器で殴っても死なないわよ、試してみましょうよ、サッちゃん」


 物騒なことを言い始めた。


「私、何か変なこと言ったか、ロバータ?」

「まあ、生物学的には何もおかしなことは言っていないと思いますけど、将軍なんだから、もうちょっと他人の気持ちがわかる人間になった方がいいんじゃないですかねぇ?」

「あ?」


 なぜバカ二人が急に怒り出したのかわからないオリヴィアはロバータに問うたが、ロバータの返事を聞いても、オリヴィアの頭の中は疑問符でいっぱいだった。


「まあ、なんにせよ、この子のお守りは私たちに任せて、オリヴィアはさっさと出陣でもなんでもすればいいよ、ねえ、ナッちゃん」

「そうね、さっさと出陣して、さっさと戦死してほしいわね、サッちゃん」

「ぜ、絶対に死ぬもんか……必ず生きて帰ってきてやる……」


 バカ二人の言葉を受けて、オリヴィアは冒頭とはまったく違う考えを抱くようになっていた。


「お姉ちゃんたち、あそぼー! あそぼー!!」


 ナオミはそう言って、サチの手を引っ張り、屋敷の奥へ消えようとしていた。


「だ、だからなりませぬ、ナオミ様! ナオミ様がそのようなバカに触れてしまってはジエンド王国ももうおしまい……」


 そんなナオミのことを連れ戻そうとしたが、ロバータに左肩を掴まれてしまった。


「なんだよ?」

「出陣しなくていいんですか? もうそろそろ行かないと遅刻なのでは?」

「え? もうそんな時間なの? ぐぬぬぬぬ……頼むロバータ。あのバカ二人がナオミ様に悪影響を与えないように監視しておいてくれ!」

「言われなくてもしますって……」

「頼んだぞ、ロバータ」


 ロバータに後事を頼んだオリヴィアが玄関のドアを開けて外に出ようとしたら、またしてもドアが急に開いて、オリヴィアはドアと壁の間に挟まれてしまった。


「お姉ちゃん! ただいまー!! お姉ちゃんの大好きな妹、ジョリーンが帰ってきたよー!! って、あれ? お姉ちゃんは?」


 ロバータはドアと壁の間を指さして、ジョリーンにオリヴィアの居場所を教えてあげた。二度も挟まれたオリヴィアは鼻血を垂れ流し、ピクピク震えながら倒れていた。


「そんな……お姉ちゃん……誰にやられたの? 教えて! 私が必ずお姉ちゃんの(かたき)を討ってあげるから!!」

「お前にやられたんじゃー!!」


 オリヴィアはそう言って立ち上がり、ジョリーンに向かって叫んだ。オリヴィアにとってジョリーンは実妹にして同母妹、ナオミ王女のように遠慮する必要はなかった。


「え? 私?」

「ええい! いちいち説明しているヒマはない! 私は今から出陣しなければいけないから忙しいんだ!! 何しに来たのかは知らんが、さっさと帰れ! バカジョリーン!!」

「そんな……お姉ちゃんが大好きなジョリーンがせっかく帰ってきたのに……」

「お姉ちゃんが、じゃなくて、お姉ちゃんを、だろ。私は別にお前のことなんか好きでもなんでもねえよ!!」

「そんな……ひどい……」


 姉と同じように金髪のジョリーンは、そう言うと、玄関に座り込み、泣き出してしまった。


「ああ、もう知らん! もうどうでもいい!! 私は出かける!! さよならベイビー!!」


 オリヴィアはそう言って、逃げるようにメルヴィン邸から出ていった。


「そ、そんな……お姉ちゃん、せっかく来たのに、ひどいよぉ……」


 ジョリーンは相変わらず玄関に座り込んでいた。

次回、第六話「ジョリーン、ジョリーン、ジョリーン、ジョリィィィィィィィン!!」

更新するのはまた来週とかになると思うけど、お楽しみに。

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