第三話「一族郎党、皆殺しにしてやろうか!!」
登場人物紹介
カーリー女王→ジエンド王国の現在の女王。威厳のある女王だけどバカ。この作品に出ている時点でバカ。怒るとすぐ「殺すぞ!」って言い出すからやっぱバカ
「ああ、ナッちゃん! 私たちは川に身を投げ、心中しようとしていたーっ♪」
「おお、サッちゃん! そしたら変なおばさんが現れて、私たちはジエンド王国に強制転移させられてしまったのーっ♪」
「そしたら着いた瞬間に即逮捕ーっ♪」
「短い命だったわーっ♪」
そんなわけで、ジエンド王国の本拠地である、アヤナゴ城の謁見の間、「謁見の間」でぐぐれば出てくる画像そのままの部屋で、なぜかサチとナツミのバカ二人は歌い踊っていた。それはもう、ミュージカル俳優のように、手と手を取り合いながら。
そんな二人を、謁見の間特有の小階段の上に置かれた玉座に座って眺めているのは、ジエンド王国のカーリー女王。女王らしく、真っ赤なド派手ドレスを着込み、手にはピンク色の大きな扇子を持っていた。髪は栗色ロングで、金色の王冠を被っていた。
「これ、オリヴィア。この者たちはいったいどこの劇団の役者なのじゃ?」
歌い踊るバカ二人を、不思議そうな目で見つめながら、カーリー女王がオリヴィア将軍にたずねる。
「いえ、女王陛下。こいつらは役者ではなく、一般人です」
「チンパンジー?」
「一般人です!!」
カーリー女王のボケにもきちんとツッコミを入れてあげる、律儀なオリヴィア将軍。
そんな女王と将軍を見ているのかいないのか、バカ二人は未だに、謎の歌を歌い続けながら、社交ダンスを躍り続けている。その謎の歌の歌詞をいちいち書いていたら、話が先に進まないので割愛させていただく。
「して、女王陛下」
「なんじゃ、オリヴィア」
「こいつら、いかがいたしましょう?」
「いかがいたすとはどういうことじゃ?」
カーリー女王は「オリヴィアが何言ってるかわかんない」と言いたげな表情で首をかしげる。
「ですからこいつらの命をどうするかってことですよ! 女王陛下のご命令さえあれば、今すぐにでも処刑いたしますが……」
「処刑? 何ゆえにじゃ?」
「わがジエンド王国の本拠地アヤナゴ城に無断で侵入した罪は重うございます。それもスリーリバー王国への遠征を間近に控え、訓練中であった我々のもとに突然乱入してきたのです。ひょっとしたらこいつら、スリーリバー王国のスパイかもしれません!」
「ふむ」
「それに女王陛下も今見て、お思いでしょう。こいつら明らかに頭がおかしい!! 女王陛下の御前であるにも関わらず、狂ったように、歌い踊り続けるなどと、正気の沙汰じゃありません! 今すぐ殺しましょう!!」
「おお、サッちゃん! やっぱり私たち殺されてしまう運命なのねーっ♪」
「ああ、ナッちゃん! 死ぬ時はあのオリヴィアを、地獄へ道づれにしてやろうねーっ♪」
「うるせぇ、お前ら! さっきから黙れって言うとろうがっ!! 女王陛下の御前であるぞ!!!」
「ふむ……」
無表情のカーリー女王は扇子で口元を隠しながら、激しく歌い踊るバカ二人をしばらく眺めたのち、扇子を口元からどけて、オリヴィアに向かって話し始めた。
「のう、オリヴィアよ。余は思うのじゃが」
「なんでございましょう? 女王陛下」
「お主はあやつらのことをバカと申しておったのう」
「はい、そうです! あいつらはバカです!! 生かしておいては危険です!!! 今すぐ殺しましょう!!!!」
「そのようなバカに、城内への侵入を許した者もまた、バカであるとは思わんか?」
「は?」
「たしか城の警備の最高責任者は将軍であるオリヴィア。お主であったのう」
「はぁ……」
「あやつらを処刑するのであれば、警備の最高責任者であるお主も処刑せねば、わりに合わないのではないのかな?」
無表情のカーリー女王にそう言われたオリヴィアの表情は一瞬にして曇り、暑くもないのに、顔には冷や汗が流れ始めていた。
「え? それはどういうことでございますか?」
「二度言わねばわからぬか? あやつらを処刑するのであれば、警備の最高責任者であるお主も処刑せねば、わりに合わないのではないのかな?」
「うわー、コピペって便利ぃ……って、そうじゃなくて……すいません、女王陛下。ちょっと言ってる意味がわからないので、もう一度言っていただければ……」
「三度言わねばわからぬような無能な将軍は即刻処刑……」
「わかりました! あいつらを処刑するのはやめましょう!!」
所詮はオリヴィアも保身に走る公務員の一人に過ぎなかった。
「よいのか?」
「構いません! あんなバカたち、わざわざ我々が手を下さずとも、追放すれば勝手に野垂れ死にます!」
「追放? なぜ追放するのじゃ?」
「え? なぜって……」
「こいほー? 今日のカー○は勝ったのか、負けたのか!? ああ、この世界ではそんなこともわからないというのか!? 『ー(伸ばし棒)』が鯉のぼりのあのスポーツ新聞も読めないとは!!」
「アライさん! 今までお疲れ様でしたぁぁぁぁぁぁっ!!」
サチは聞き間違いの天才のようだった。ナツミは「恋人の好きなものは、私も好きになるわ」タイプの女なのだろう。
「ほら、あんな意味のわからないことを絶叫している危ない奴らですよ。追放するしかないでしょう!!」
「追放したとして、もしあやつらが、オリヴィアの言うように、本当にスリーリバー王国のスパイだった場合、わが国の情報がスリーリバー王国にだだ漏れになってしまうではないのかな?」
「あ、そ、それは……」
「ええっ!? サッちゃん!! あなたってスパイだったの!?」
「今まで黙ってたけど、実はそうなんだ、ごめん、ナッちゃん……」
「えええええええええええええええええっ!?」
「うるせえっつってんだろ、お前ら!! 大丈夫です、女王陛下、あんなバカども、絶対スパイじゃありませんよ!! 仮に本当にスパイだったとしても、あいつらの脳みそじゃあ、なんの情報も覚えられるわけがありませんから大丈夫です!!」
オリヴィアはなぜか、どんどん早口になっていった。
「おお、サッちゃん! あなたこそが『私を愛したスパイ』だったのね!!」
「007!!」
「サイボォォォォォォォォグ!!」
「それは009だよ! ナッちゃぁぁぁぁぁんっ!!」
「いっけなぁい! 間違えちゃった!! 私ったら、てへぺろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぉぉぉぉっ!!」
謎の叫びを続けるバカ二人に、ついにブチギレたオリヴィアが無言でサチとナツミの後頭部をグーパンチして、そのあまりの強打に、バカ二人は床にうつ伏せに倒れ込んだ。
「おお、サッちゃん……オリヴィアさんこそがこの雪山ペンション連続殺人事件の真犯人だったのね……」
「違うよ、ナッちゃん……犯人はみ○もとさん……いい加減、犯人にさん付けはやめよう……私は『美○本』の読み方がわからなくて、『びじゅもと』って入力してダメだったから、『た○か』って入力してクリアしたよ……」
「うるせぇ! 死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ぐふっ!」
オリヴィアはそう叫んで、バカ二人の脇腹にローキックをお見舞いした。そのローキックによって、ついにバカ二人は完全に気を失い、ピクリとも動かなくなった。
「ハァハァ……やっと、大人しくなった。して、女王陛下。こいつら、どうします? いや、せっかく気を失ってるんですから、いい機会です。このまま城の外に放り投げて、捨てましょう。こんな不良品、即返品、即廃棄が正解ですよ!! やっぱり国産が一番!! 外国製品はダメ!!!!」
息を切らしたオリヴィアは、カーリー女王から色よい返事がもらえることを期待してそう言ったが、
「オリヴィア。お主があやつらを養ってやれ」
「は?」
カーリー女王の返事はオリヴィアが思いもしないものだった。
「だから、あやつらをメルヴィン家の食客にしてやれと言うておるのじゃ」
「な、なぜですか?」
「面白いではないか、こやつら。先程来より何を言うておるのかはさっぱりわからぬが、面白うて面白うて、余は笑いが止まらぬぞ」
「え? 女王陛下、先程からずっと無表情で、笑い声の一つもあげてない……」
「余の命令が聞けぬと申すか、オリヴィア……一族郎党、皆殺しにしてやるぉうくぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
オリヴィアのツッコミが癪に触ったのかなんなのか、突然カーリー女王は過剰な巻き舌で怖いことを言い始めた。今までの無表情が嘘のような怒りの表情に変わり、もちろん顔には怒筋が浮かんでいた。
「かしこまりました! このオリヴィア・メルヴィン、女王陛下の命に従い、あいつらを食客として養います!!」
カーリー女王が過剰な巻き舌になったらもうどうしようもないということを知っているオリヴィアは、渋々命令に従うことにして、右手で敬礼しながらそう返事をした。
「それでよいのじゃ、オリヴィア」
オリヴィアの返事を聞いて満足したカーリー女王は、一瞬で怒りの表情から、満面の笑顔に変わった。
「くそっ、なんでこんなことになるんだ……なんであんなバカ二人を、名門メルヴィン家で養わなければいけないんだ……」
オリヴィアは小声でそう言ったが、地獄耳のカーリー女王にははっきり聞こえていた。そして再び、怒りの表情に変わった。
「何か言ったか? オリヴィア」
「いえ、何も言ってません! 女王陛下、バンザーイ! バンザーイ!! バンザーイ!!!」
オリヴィアはもうやけっぱちだった。笑顔で泣きながら、万歳三唱を繰り返した。
次回、第四話「食客 (ニート)ってワンダフル! ワンダフル!」 作者は「日曜日ぐらい休ませてくれ、お願いだから」とかぬかす怠け者だから、多分、月曜日に更新すると思うけど、お楽しみに!