第二話「座敷牢って最高!!」
登場人物紹介
オリヴィア・メルヴィン→ジエンド王国の将軍。バカじゃないので、当作品では大変貴重なツッコミ役。まともな神経を持った読者の皆さんは、ぜひオリヴィアに感情移入しながら、当作品をお読みください
「ああ、ナッちゃん! 私たち、死ぬ時は一緒だよ!!」
「ええ、サッちゃん! 処刑される時は二人一緒に首をはねられましょう!! ピッタリ同じタイミングで」
「一緒に弾ける!!」
「素敵だわぁっ!!」
「だぁぁぁっ! うるせえっつってんだろう、お前ら!! 静かにしろ!!」
座敷牢に閉じ込められても、シェイクスピアの悲劇だかなんだかのような、芝居じみた大声を出しながら、熱い抱擁をし続け、互いの頬と頬をすり寄せ合うサチとナツミに、心底イライラしている女性の牢屋番が大きな声で注意をした。
だが、もちろん、その程度で静かにするような二人なら、ハナから大声で叫んだりはしない。
「ああ、ナッちゃん! 私はこの手に手錠をかけられ、座敷牢に閉じ込められると聞いた時、絶望した!! この世の終わりだと思った!!! でもそれは間違いだった!!!! 狭いからこそ、四六時中ナッちゃんとくっついていられる座敷牢って最高!!!!!」
「ええ、サッちゃん! 私も同じ気持ちよ!! サッちゃんとこんなにくっついていられるなんて、私たちにとって座敷牢は罰じゃなくて、ご褒美よ! ご褒美!!」
「ああ、ナッちゃん! ここはまさに天国だね!!」
「おお、サッちゃん! そうよ、こここそが私たちの求めていた天国! パラダイスなのよ!!」
「じ、地獄だ……」
そうつぶやいた牢屋番は十五代目である。昨日、謎のおばさんにジエンド王国に転移させられ、即座に捕まり、この座敷牢に閉じ込められたサチとナツミだが、座敷牢の中で四六時中こんな感じで、二人の大声とイチャイチャのせいで、昼は仕事に集中できず、夜は眠れない牢屋番が次から次にノイローゼで倒れ、気がついたら十五代目牢屋番になっていたのである。この調子なら、十六代目牢屋番が登場するのも時間の問題だった。
「まったく、昨日からなんなんだ、騒々しいにも程がある……」
「あ、これはオリヴィア様、申し訳ございません、こいつら何回注意してもまったく言うこと聞かなくて……」
その、ギブアップ目前の十五代目牢屋番に話しかけたのは、昨日、バカ二人を座敷牢に閉じ込めるように命令した金髪の女性である。
「おい、お前ら! 女王陛下がお前らに面会したいそうだ! 出てこい!!」
金髪の女性がサチとナツミの二人にそう話しかけたが、
「ああ、ナッちゃん! 私たちを天国に連れてきてくれた天使が目の前にいるよ! あのあやしいおばさんとは大違いの、本物の天使が!!」
「ああ、サッちゃん! なんて美しい金髪なのかしら! 明らかにかつらのあのおばさんとは大違い! やはりこの人こそが天使! 女神!! アフロディーテなのね!!!」
二人のテンションはまったく変わることはなかった。
「違う! 私は天使でも、女神でも、アフロディーテでもない! 私はジエンド王国将軍、オリヴィア・メルヴィンだっ!!」
そんな二人に向かって、オリヴィアはドスの効いた威厳のある声でそう言ったが、
「将軍? なんとなんと、将軍様が私たちを天国へ連れてきてくださったとは! 将軍様! 本当にありがとうございます! 感謝してもしきれません!!」
サチはまったくひるむことなく、ハイテンションのままだった。
「座敷牢につながれてこんなに元気な奴らを初めて見た……おい、本当にこいつらを女王陛下に会わせて大丈夫なのか? こいつら絶対、狂人だろう!?」
オリヴィアはドン引きしながらそう言ったが、
「きょ……じん? これは心外な! 私は子供の頃から一貫して広島ファンだ!! 今からでも遅くはない! ○を返せぇぇぇっ!!」
「悪ハ必ヅ滅ビル!!」
サチとナツミの返事はまったくもって的外れだった。
「な、なんかわけのわからないことを言い出したぞ……こんな奴らを女王陛下に会わせるのは危険なんじゃないのか? さっさと殺して、不慮の事故で死んだとかにした方がいいんじゃないのか?」
オリヴィアは本気でそう思っていたが、
「ああ、サッちゃん! いよいよ私たちが処刑される日が来てしまったのね!! 日本で幸せになれないからって、異世界にやって来たのに、何もできないまま殺されてしまうのね!! 私たちってなんて不幸なの!!」
「ああ、ナッちゃん! 君と一緒に死ねるなら私は全然不幸じゃないよ! むしろ幸せだ!! 一緒に死んで、来世で再び巡り会って、来世こそは幸せになろう!!」
「あ、ダメだ……こいつらきっと殺しても、地縛霊になって夜な夜な愛を絶叫しまくるに決まってる。殺すにしても、絶対、城内では殺さないようにしよう……」
どんどん大声になっていくサチとナツミを見て、今この場で殺すのを諦めた。
「……とにかく女王陛下がお呼びなんだ。早く二人を牢屋から出せ!!」
「はっ、はい! かしこまりました!!」
オリヴィアに命令された十五代目牢屋番は座敷牢の鍵を開けて、サチとナツミの二人を外に出した。二人は手錠こそ外されていたが、足には鉄球がつけられていて、自由に走れないようになっていた。
「お前ら、女王陛下がお呼びだから、これから女王陛下のところへ連れていくが、間違っても女王陛下の前で絶叫すんなよ! あまりに無礼な振る舞いがあったら、私は容赦なく、お前たちを殺すからな!」
「ああ、ナッちゃん! 最後の審判が私たちを待っているんだね!! 私たちが行くのは天国なのか、地獄なのか!?」
「ああ、サッちゃん! あなたがいれば私にとってはどこでも天国! 逆にあなたがいなければ私にとってはどこであろうと地獄なのよ!!」
「ああ、ナッちゃん! 私もまったく同じ気持ちだよ!!」
「サッちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「だから、うるせぇっつってんだろうが!! その鉄球でお前らの頭、叩き割ってやろうかぁぁぁぁぁぁっ!!」
何を言っても叫ぶのをやめないサチとナツミにしびれを切らしたオリヴィアがそう叫んだら、
「あら怖い……鉄球で頭ぶん殴るとか未開の野蛮人の発想ですわね、ナツミ様」
「ええ、てっ○ゅうまじんってのはこの人のことを言うんでしょうね、サチ様」
「オホホホホホホホ!」
なぜかサチとナツミの二人は突然、上流階級の奥さまのような口調で、オリヴィアのことを嘲笑ったのだった。
「ダメだ、こいつらの相手をしていると、私まで頭がおかしくなりそうだ……もう、相手にするのはやめよう」
オリヴィアがそう言うと、再びサチとナツミは愛を絶叫し始めた。
「ナッちゃん! 愛しているよ! 永遠に!!」
「サッちゃん! 愛しているわ! とこしえの夜のしじまに!!」
「もう、どうでも、かまわねえや……」
オリヴィアは深いため息をついて捨てぜりふを吐いたあと、絶叫を続けるサチとナツミを引き連れて、女王の待つ謁見の間まで、淡々と歩き続けた。
次回、第三話「一族郎党、皆殺しにしてやろうか!!」 いつ更新するかわからないけど、お楽しみに!
作者より
「私の本命作品はあくまでも『伝説騎士リベルタード』であり、こっちの作品は息抜きというか、作者の知名度・好感度を少しでも上げたいというか、そんな感じで書いている作品なので、文字数に関係なく、一話1シーンで、サクッと上げていきたいと思っています。一話が長かったり短かったり、ムラができてしまうと思いますが、ご了承ください」