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セーブ・フロム・ガーディアンズ   作者: ken
傭兵隊スカイランド
22/25

野営地2

野営地に迫る獣の群れ

 暗闇の中に浮かび上がる光の点が、ぽつりぽつりと増えていく。


「――火事か!?」


「いや、火じゃない。()()を見ろ!」


「あれは……、魔獣の眼?」


「分からん。もっと灯りを!魔獣にしては数が多い。とにかく灯火の魔術を!」


 灯が一つ、二つと上空に打ち上がると、街道が照らされた。街道を挟んでこちら側には集まってきた見張りの兵が三人。反対側には、獣の群れと思われる一団がこちらの様子を伺っている。


『グルゥゥゥゥゥ』


「遅れてすみません!!」


 出来るだけ急いで来たつもりだったが、辿り着いたのは僕で最後のようだった。


「おぉ、こっちだ。松明をっ!!」


「は、はいっ!も、もうこんな近くに。あれは――」


「あぁ、獣の群れだ。恐らくは狼、火を焚いていれば追い払えるだろうが……。」


 火を恐れるのは獣の本能である。一、二匹程度ならば、松明の火で追い払えるだろうが、目の前の群れは最低でも十は超えている。灯りに照らされて現れたのは、暗がりに溶け込むような灰色の毛皮、所々に白毛が混じった狼であった。鋭さを伺わせる牙が一番の武器だが、足の爪にも注意をした方がいいだろう。

 街道を挟んで睨み合う形になった中、ジリ、ジリリ、とにじり寄る群れ。辺りにはうなり声が響いていた。


『――オォォォォォォォォン。』


 睨み合いが激化する中、ついに街道を越え始めた群れから遠吠えが響く。それを合図とばかりに眼光が左右に一気に広がった。統率のとれた動きから、僕たちを囲むつもりなのだろうか。


「ちっ、火が足りないか。すまん、傭兵隊。どれでもいい、火炎系の魔術をお願いできるか?こちらでは足りそうにもない。」


 火球、だろうか。術式を展開中の一人からの指示だった。確かに松明のような小さな火であの数は、追い払えないだろう。出来る事なら僕も加勢したいが、魔術は使えない。だからこそ松明を持ち歩いているのだ。中には魔力を温存する為に、あえて松明を持つ人もいる。しかし、残念ながら僕はそうではなかった。


「すみません、魔術は……使えません。こちらの人手はもう少し増えると思いますが……。」


「……むっ。使えないだって?そ、そうか。では……出来るだけこちらで何とかしよう。」


 護衛を依頼しているのだから、頼って当たり前だし、当然それなりの期待もしているだろう。魔力の温存で灯火より松明を、と勘違いしてもおかしくは無い。それ(ゆえ)に、あからさまな落胆の表情に対して、誰も彼を責める事は出来ない。ともかく、僕に出来る事といえば松明の火を絶やさない事ぐらいだった。


「来るぞっ!この程度の群れ、追い払いさえすればいい。」


 数が多いとはいえ、相手は狼の群れ。魔獣や野盗に襲われたならまだしも、全員を叩き起こすほどの事でも無いと判断したようだった。術式の展開を終えた一人から、火球が放たれた。火の勢いこそ無いものの、群れは確実に火球を避けていく。

 

「よし、火だ!火球で追い払えっ!!」


 有効打であると、確信を得た兵達は揃って術式を唱え始めた。しかし、群れは足が止まったその隙を逃しはしない。


「う、うわっ!この!」

 

「ちっ、奴ら急に…。火を絶やすな!」


 飛び掛かってきた狼によって中断される詠唱。撃ち出される筈だった火球はその魔方陣ごと霧散する。一度に詠唱できるのは一人が限度かもしれない。兵達はお互いの死角を(かば)いあい、確実に詠唱する態勢に移った。

 僕はといえば、短刀と松明を両手に持ち、がむしゃらに応戦。魔獣と対峙したお昼に比べれば、無難に戦う事が出来た。松明を近づければ怯むし、接近されても短刀で充分に反撃出来る。善戦しているといって良いだろう。何匹か撃退した頃、戦場に鎧甲冑の騎士が援軍が加わった。


「騒がしいと思って来てみれば……。あれは狼か?」


「はっ!数が多く、かなりの規模の群れかと。」


「群れならリーダーがいるはずだ。()を狙え!貴様ら、このような獣に手こずっていては、竜討伐など夢物語ぞ!」


 クライヴさんの声に反応し、飛び掛かる狼。それを剣の一振りで退けると、瞬時に状況を理解したようだった。火で掻き乱されているとはいえ、未だ統率の取れた狼の群れ。群れの頭を潰さなければ、追い払えないのだろう。


「先頭で率いるタイプではないな。後方か……。火炎の魔術を!狙いは後方、街道沿いに向けて展開せよ。ユウ殿、すまぬ、出来たら火炎の魔術に加わってもらえるか?」


 狼の囲いの外側、ちょうど街道上に居座る形で別の眼光が二つ、浮かび上がっていた。灯火も当初の明るさは失っており、視認できないが恐らく狼だろう。他の眼光と同じく橙色の輝きを放っている。


「すみません、クライヴさん。魔術は……使えなくて。あの…、両手で精一杯です!」


「なんと!そうであったか……、ならば儂と共に暫し前衛を!」


 先程と似たようなやり取りが終わると、クライヴさんは囲いの前方に飛び出し、群れの注意を一身に引き受ける。少し遅れて僕も続く。

 群れの眼光を一身(いっしん)に受ける二人。その間に術式を展開する隙がこちらにも出来ていた。目標はクライヴさんが指示した群れの頭。街道上、橙色の眼に向けて火球が続けざまに二つ放たれた。逆立つ毛波の群れが左右に割れていく。火球によって出来た一筋の道を、なぞるように突き進むクライヴさん。

 後方に控えていた狼へと火球が迫るが、速さには難のある術式だ。横にサッと飛び退き、簡単に避けられてしまった。その大きな体に似合わず、俊敏である。続けざまの火球も頭目に迫ってはいたが、これも先ほどと同様に避けられてしまった。


「そこだァ!ハァァァァァァっ!」

 

 火球を続けざまに避けたばかりで、まだ態勢が整わない巨躯(きょく)。その瞬間を的確に狙い、薙ぎ払われる剣。


「手応え有りっ!」


『――コォォォォォォォン』


 灰色の毛波が赤く汚れた。赤土の泥で汚れた訳では無い。赤土よりも濃い、鮮血。それは致命傷を与えた証しであった。クライヴさんの声と、断末魔の遠吠えが同時に響いたが、群れの動きは止まる事はない。


「な、なに!?奴がリーダーじゃないのか!?」


 相変わらず火は避けているものの、囲いを解く気は無いらしい。統率の取れた動きで囲いの形を徐々に狭めてくる狼の群れ……。

 群れを率いてるのは別の狼だったか、あるいは頭がやられても諦めない別の理由があるのか。いずれにしてもここに至っては、クライヴさんの作戦が失敗に終わったことを認めなければいけなかった。


「なっ、何故だ?先ほどの手応え、群れを率いるにふさわしい巨躯(きょく)であった。なぜ止まらぬ……!?」


 一歩も退かぬ群れに戸惑うクライヴさん。その困惑は、周囲の兵達にも伝わる。


「い、いくら束になろうとも!所詮は獣の類、狼ごとき燃やし尽くしてくれる!我は火――う、うわああああ!」


「くっこいつら!いったい何匹斬ればっ……、後ろに一匹行ったぞ気をつけろっ!」


「あ、灯りを!!暗闇では何も――痛っ!くそっ狼め、いつの間に目の前に!」


『グルルルゥゥッッ』


 加勢の勢いを失ってしまった僕たち。灯火の明かりは既に消えつつある中、暗闇から襲い来る狼。予想から外れた焦りに、暗闇という不安、そこに狼のうなり声と兵達の悲鳴が重なる。同時多発的な不協和音によって、この場に厄介な疫病が広がりつつあった。混乱である。


「お、落ち着きましょう。まずは前のクライヴさんと合流を!」


「ええい!そんな事は分かっている!まずは灯りだ。」


「はぁ、はぁ…、くそっ!この狼しつこすぎる。何故だ…何故こちらに向かってくる!?」


 松明の火を掲げながら、状況を確認する。斬り伏せられた狼の数は少なくない。相応の打撃を与えているのは間違いなかった。そして幸いなのは、この騒動が野営地の一歩手前、街道で留められている事だ。噛み付かれた兵はいるものの、被害としては無視できる範囲だろう。しかし、現状の被害は皆無といっても、今後の行動次第では増える可能性は大いにあった。


「ぐっ!手が足りぬ。傭兵隊はどうした!こういう時の為にいるんだろう!?」


「傭兵隊を頼りにするな!魔術が使えない奴が何人来ても同じことだ。誰か魔術士を起こしてきてくれ。ここら一帯を燃やし尽くせば――」


 魔術を使えないのは僕だけなのだが、今はあえて言う必要もないだろう。言い争いをしている状況では無い。クライブさんは突出して、囲いの奥深くで戦っている。これ以上離れると合流も難しくなりそうだ。分かってはいるのだが、僕も狼に囲まれて身動きが取れない。こうなっては、魔術士の援軍を呼ぶのも有効な案に思えてきた。

 疫病のように広がる混乱。その中で落ち着きを取り戻す術を僕はまだ知らなかった。

次に続きます

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