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セーブ・フロム・ガーディアンズ   作者: ken
傭兵隊スカイランド
21/25

野営地1

野営地での見回り

 夕暮れ時のような明るさを保っていた灯の魔力もとっくに尽き、辺りは雲に隠れがちな月明かりだけが照らすだけである。野営地として借り受けた空地には、皇旗を中心に親衛隊のテント、そこをぐるりと囲むように輸送隊のテントが並んでいる。街道沿いには輸送物資が並び、荷馬は家畜小屋の近くの水場に集められていた。

 夜通し見張りに立つにあたり、クリス隊長の指示が飛ぶ。


「――いい?それでは皆、よろしくお願いね。」


 まずエリーさんとシーグリッドちゃんは夕食後も従卒として一晩パトリシア姫に付き添うようだ。なぜシーグリッドちゃんも一緒なのかは分からなかったが、夕食時の三人の様子を見るに、彼女の小っちゃくて可愛いという事に気付いたのだろう。ジョン爺とアイスさんは、荷物の見張り番という名のお休みである。

 ザラさんは夜目がきく事もあり、一番見晴らしの良い家畜小屋の屋根に立つことになった。何かあった際は、音矢を鳴らす手筈だ。野営地の見回りは僕の担当となる。黒海老にやられた傷はすっかり癒え、動き回るのに支障は無かったが、交代要員としてクリス隊長が控えている。


「ふぅ、同じルートをただ回るっていうのも楽じゃないなぁ。それに松明の火はちょっと苦手だ……、火傷はもう治ったはずだけど、この火を見てると嫌な事を――いや、考えないようにしよう。」


 野営地を輸送隊、親衛隊、皇旗と順番に見回る。灯火の魔術でもあれば楽に見渡せるのだろうが、残念ながら魔術は全く使えない。地道に松明を掲げては、不審な所は無いか確認していく。単調な見回りを何十周と巡回した頃にもなると、独り言が自然と多くなるのは仕方のない事だった。その様子はザラさんからすれば、ふらふらと川辺を彷徨う蛍のように見えたかもしれない。


「おぉ、ユウ殿。見回りご苦労。」


 不意に声を掛けられた格好になったが、既に何度も通った道だ。慣れた仕草で松明を掲げて応える。


「ご苦労様です、クライヴさん。えーと、特に異常無しです。」


 輸送隊とはいえ、皇旗を持つ一行である。見張りは傭兵隊に任せきり、という訳では無かった。クライヴさん以外にも見張りに人員を割いており、ここまでの道すがら何人かとすれ違っている。


「うむ、こちらも静かなものだ。――どれ、ここらで一息どうか?」


「あぁ、いえ。もうすぐクリス隊長と交代できると思うので、それまでは見回りを続けます!」


 じっと見張るというのも思った以上に疲れるのだろう。クライヴさんはひとつ伸びをすると、それまでの緊張を解き放った。どうやら休憩に入るらしい。


「はっはっは。まぁまぁそう気張らんで下され。ユウ殿も怪我を負ったばかりだろう。若いとはいえ無理はいけませんぞ。」


 ここまで休憩していなかったのもあり、クライブさんのお誘いを受ける事にした。一応、松明を左右に振り、家畜小屋の方に合図を送っておく。夜目がきく彼女のことだ、きっと分かってくれるだろう。二人が腰を落ち着けると、松明はかがり火の役目も兼ねる事になった。


「――傭兵隊スカイランドと共に過ごしてまだ一日だが、なんと気持ちの良い隊だろうか。数日、道案内をと思っていたが、想像以上の働き。このとおり、改めて感謝致す。」


「いえいえ、僕はまだ何も…。それにまだ一日目ですから、ははは。そんなに(かしこ)まらないでください。僕はまだ新人で、下っ端も下っ端ですから。」


 頭を下げた面と向かってのお礼に、大変に恐縮してしまう。


「謙遜めされるな。今日の壁役、目の前で見てましたぞ。お恥ずかしい話だが、我が隊に同じ速さで決断できる兵が何人いようか……。」


「うーん、みなさん忠誠心は高いように思いましたけど?」


 確かに魔獣黒海老の前に、背を向けた親衛隊はいたが、結果的に討伐したのが親衛隊であるのは間違いない。それなり、と言っては大変に失礼だろうが、決して忠誠心が低いとは思えなかった。


「はっはっは。傍から見ればそう見えたかもしれぬ。忠誠心――皇国に対しては揺るぎないものがあるだろうて……。彼らも貴族諸侯らの顔として仕えてはいるが、仕えるのはあくまで国。継承順位から考えるに、命を賭けてまで守ってくれるだろうか。」


「親衛隊が殿下の為に動かないこともあると?」


「あぁ、それは姫も薄々気づいておる様子。昼間のような件は、あれが初めてではないのじゃ。そんな折、夕食会でのパトリシア姫の表情。あんなに笑っていらしたのはいつ以来か。出来る事なら、あんな風に笑って過ごせる穏やかな日々を送ってもらいたいが……。」


 かがり火に映し出されるクライブさんの顔は、いつの間にか娘を思うような慈愛に満ちた表情になっていた。


「――少なくともニーベル平原までは一緒です。それまでは殿下の笑顔を守る努力を。依頼内容には無いですけど、それはお約束できると思います。ははは。」


 ゆらゆらと揺れる温かな火。からまった糸を少しずつ解いていくような、優しい空気で満ちていく。自然と、胸の内を話せる雰囲気がそこにはあった。


「クライヴ殿、何か?」


 クライヴさんの声の大きさにつられてしまったかもしれない。いつの間にか談笑の声がテントの中にまで届いていたらしい。まだ湯上りの爽やかな香りを漂わせながら、エリーさんが顔を出してきた。


「あぁ、すまんすまん起こしてしまったかな。ユウ殿と少し休憩をな。どれ!もうひと踏ん張り――」


「そうでしたか。では、ここからは私が見張りに立ちましょう。クライヴ殿はそのまま休まれては?」


「はっはっは。ご心配には及ばぬ。なぁに、少しばかり老いたとはいえ、一晩の見張りも出来ぬとあっては、親衛隊の名折れ。」


「……クライヴ殿。今日明日は満足に動けても、(くだん)の竜に相対(あいたい)する頃に寝不足では、それこそ名折れではない?自分にも少しばかり仕事を分けてくれると嬉しい。」


 こんな風に言われては、クライヴさんも休むしかなかった。しかし、相手の立場を尊重した上での提案だったのもあり、表情は柔らかいままである。


「うむ。では、その気持ちに甘えて少しばかり休むとしよう。陽が昇る前には交代に起きよう。それでよろしいか?エリー殿。」


「はっ、騎士の務め……お任せください。」


 かがり火は再び松明へとその役目を変え、動き始める。ザラさんに休憩終わりの合図を送ると、向こうでも灯火が左右に少し揺れた。


「すまない、ユウ。今夜の配置を教えてもらえる?」


「了解です。家畜小屋の屋根にザラさん、テントで見張り番がジョン爺とアイスさん。クリス隊長は僕と交代で野営地の見回りですね。ラインハルトさんは夕方以降戻ってないです。」


「なるほど。それじゃあ引き続き見回りお願いね。」


 薄い羽織に大剣という恰好でテント前に立つエリーさん。門番としての威圧感は、その大剣だけでも充分に迫力があった。

 銀髪の門番を背に、巡回ルートに戻ろうとした頃、聞き慣れない音が空間を裂いた。


『――ピィィィィィィィ』


「ユウ!殿下の護衛は任せて音の方へ、確認を。火事なら私へ、襲撃ならば、皆に連絡を頼むっ!」


 何かしら異変があったのだろう、空中を貫いていった音矢を追いかけていく。方向的には街道の方だ。襲撃という言葉を聞いて、駆け出した足に力が入る。魔獣か人か、それとも竜か。空が明るくなってない所を見るに、火事ではなさそうだ。ともかく何があったのか確認しなければいけない。見回りが傍観して知らぬ存ぜぬでは、それこそ見回りの()()()なのだ。

次に続きます

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