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セーブ・フロム・ガーディアンズ   作者: ken
傭兵隊スカイランド
18/25

農村アーカンソン1

野営地としての目的地、農村アーカンソンに辿り着いた一行

 研ぎ澄まされた剣技。それは相手が人であれ魔獣であれ変わることの無い剣の技である。例えそれが薪であってもだ。アイスさんは担いだ長刀と腰の長剣、一剣一刀を巧みに操っては薪を量産していた。僕はといえば、その薪を短刀で叩き割る役目だ。アイスさんが斬った薪は大き目の切込みがあり、少し力を入れただけで簡単に割る事が出来た。夕食の支度にも必要だろうから、薪は多くて困る事は無い。馬の背を軽く超える薪の山がいくつか出来上がる頃、クリス隊長率いる輸送隊が到着した。明るかった空はいつの間にか厚い雲に覆われたかのような暗がりになっていた。


「ようやく着いたわね。街道とは名ばかりの荒れ道で大変だったわ。」


「……。隊長、こちらの方は問題ない。野営地に空地を借り受けた。“魔獣には”襲われる心配は無いだろう。」


「ありがとうアイス。そうね……、見通しが良すぎるし、見張りは一晩立ってもらった方が良さそうね。」


 クリス隊長がやれやれといった感じで僕らの出迎えに応えた。


 川を越えた先にあるアーカンソン村。ひっそりとした古民家が数軒、家畜小屋が一つあるだけの村であった。城壁に囲まれた街とは違い、開けた土地にテントがあるだけの野営地は守るのに適しているとは言えなかった。魔槍をはじめとした、貴重な武具など荷車に満載した補給物資は、商隊にも負けない程の品揃えである。強盗の類には格好の標的だろう。野盗などの悪人に狙われる心配は常にしなければならない。護衛の意識に魔獣、猛獣の類に加えて人間も警戒しなければいけなかった。


「よおおおおおし、皇旗はここに設置せよ。輸送隊は各自荷馬の点検、親衛隊は周囲の索敵……かかれぇぇぇぇ!」


 今日一日過ごして分かった事がある。クライヴさんの声量の大きさだ。戦場でも充分に声が響くようにだろうか、少し離れた所で薪を並べていた僕にまで話の内容が聞こえてきた。その声に少し遅れて馬群が散開していく。来たばかりで疲れているだろうが、魔獣に襲われたばかりなので、警戒するに越したことは無い。


「あー、ダニエル、ザッシュ。両名は儂とともに殿下の従卒として残ってもらう。」


「「はっ。お任せください!!」」


 論功行賞なのだろうか、先ほどの戦闘で評価が高かった二人が残り、野営中の従卒に選ばれていた。エリーさんであれば、大喜びしそうな役目だ。騎士にとって護衛、その中でも従卒として皇族に仕えるという事は大変な名誉なのだろう。二人は歓喜の声で応えていた。

 しかし、騎士としての名誉の裏側には別の意図もある。家名を代表する形となっているパトリシア姫の親衛隊。従卒に選ばれたという名誉は直接、間接問わず皇国内の各家に報告がいく。それはそのまま皇国内での発言力の地盤になり得ることであった。“護衛の親衛隊として道中共にした”というよりも“より身近に仕えて付き従った”という方が聞こえは良いのだろう。この辺りの話はクリス隊長やジョン爺の方がもっと詳しく、的確に説明できるだろう。

 僕たちも、偵察には出た方が良いのではないかと思ったが、クリス隊長に動きは見られない。


「アイスさん、僕たち薪は準備万端整いましたけど、その……偵察とかの方はあちらに任せちゃっていいんですか?」


「……。……あぁ、大丈夫だろう。」


 数瞬、クリス隊長の方に眼を向けてから返答が返ってきた。


「カッカッカッ。あちらさんが偵察してくれるっていうんじゃ、下手にこちらが動いても角が立つじゃろうて。それよりも飯じゃ飯。こういう仕事は食べれるときに食べ、休める時に休めるのも仕事じゃよ。」


「あぁ、麦酒の一杯も飲みたいところだがな。ここは夜休めそうにないから飲めねぇのが残念だぜ。」


 なるほど、確かに夜通し警戒するとなると、今は休むのが大事なのだろう。ジョン爺の言う通りであった。


「ふふふっ。そうねぇ、今は休みましょう。湯の方は出来てるかしら?」


「……。あぁ、そこの家主に話は通してある。湯が沸いてるはずだ。」


 ここでいう()は、炊事に使う湯ではなく、身体を洗い流す湯の事だ。薪割りの合間に二人でお願いしに先ほど伺ったところ、(こころよ)い返事を頂いた。何しろこちらは皇旗を掲げた一行である。特段の理由が無い限り、無下には断れないだろう。


「おふろー、おふろー。みんなではいるー。」


「カッカッカッ。爺もはい――い、いててて!」


 シーグリッドに続いて意気揚々と続こうとするジョン爺の背中を、ザラさんの矢が容赦なく襲った。アレ痛いんだよなぁなどと眺めつつ、見慣れた光景に一日の疲労が少しずつ癒されていくのを感じた。


「ふふふっ。ジョン爺はパトリシア殿下を呼んできて下さる?」


「分かった、分かったわい。ふぅーいたた。何も本気で叩かんでもええんじゃがのぅ。」 


 ぼやきつつクライヴさんの所に向かうジョン爺。お風呂で疲労と一緒にこの土埃を早く落としたい気持ちは皆一緒だろう。しかし、こういう時の順番は暗黙の了解で女性陣が先、男性陣は後であった。恐らく女性陣でも先にパトリシア姫、その後に彼女ら、僕たちの順番になるだろう。或いはその前に親衛隊の人達が入るかもしれない。ともかく一番風呂の(ほまれ)は女性陣なのだった。


「……ラインハルト、ちょっといい?」


 クリス隊長がラインハルトさんを手招きして何やら話していた。先ほどから表情がいつになく険しく見えるのは疲労だけじゃないのかもしれない。


「おぅ、わかったぜ。」


 重厚な手甲を軽々と上げ、豪気(ごうき)な声で応えるラインハルトさん。何か頼まれたらしく、何処かへ出掛けていったのだった。


「クリス隊長、案内ご苦労。湯の準備があると聞きましたわ。」


 豪気な声と入れ替わって、透き通った声がその場に清らかな空気を運んできてくれた。


「パトリシア殿下、ここまでの行程お疲れ様でした。本日の予定はここで野営と成ります。まずは土埃を洗い流して頂き、その後に夕食と致しましょう。失礼かと存じますが、警護に私達の中からお一人お連れ下さい。」


 こちらも凛とした声でその場の空気を包み込む。僕の(つたな)い話し方とはまるで違う、明瞭な話し方である。お風呂という事もあり、警護とは言うものの身の回りのお世話等に一人お使いくださいという事なのだろう。そのまま身の回りのお世話係と言っても良いのだが、そうすると後ろに控えている従卒の立場が無くなるだろう事を見越しての提案の仕方であった。僕もそういった気遣いが出来ればいいのだろうが、こちらは残念ながら出来ない事の部類に入るのだった。


「パトリシア殿下、失礼ながら警護は我らにお任せいただきたく――」


 白銀の鎧に身を包んだ騎士二人が揃って一歩前に歩み出た。一人は大きすぎると言って良いほどの槍“魔槍迅雷”を抱えたライオネル家のダニエル。もう一人は身の丈にあった槍を携えているウエスト家のザッシュであった。


「控えよ。これから湯浴(ゆあ)みとのこと、お前たちの役目は私と共に屋外で警護だ。」


 二人を遮るようにクライヴさんの声が彼らの歩みを踏みとどませた。


「クリス隊長の御心遣(おこころづか)いありがたく思いますわ。……それではそこの貴女(あなた)、お願いしても?」


 くるりと反転しながら同じく後方に控えていたエリーさんに白羽の矢が立った。


「はっ!光栄でございます。身命(しんめい)()してお守りいたしますっ!!」


 先ほども確認したことだが、湯浴み……お風呂の事である。命を賭けることでは無いように思う。しかし、ここまでの彼女の張り切りぶりを見るに、本当にそう思っているのだろうし、実際そうなのだろう。彼女にとっては家名の話とは無関係なので、純粋な名誉だけである。ようやくご指名頂いた騎士エリーさん、頬が薄く紅潮していた。


「ふふふっ。エリーったら頑張りすぎて上せないでよ?そうそう、ジョン爺は任せて。私がしっかり見張っておきますわ。」


「わ、儂じゃって時と場所を選ぶわい。まだ叩き殺されたくは無いからのぅ。」


「時と場所を選んでも不埒は事はいけませんわ!」


 流石にジョン爺もパトリシア殿下に加えて従卒の前では不埒な言動は控えているようだった。恐らく言いたかったのは、先ほどみたいに湯に一緒に入ろうとか、そういった類の話なのだろう。

 その場の空気が一瞬にして和み、各々吹き出してしまった。一通り笑い終わった後で、その輪の中にパトリシア殿下も加わっていたことに気付く。石仮面をかぶったままの表情ではあったが、徐々に、しかし確実に柔らかくなっていく笑顔。


「コホン、それでは参りしょう。クライブ?外の警護は任せたわ。」


 ははっ!という声を背に歩き出す一行。エリーさんを先頭にパトリシア殿下、以下女性陣が続く。エリーさんは従卒として、他の女性陣はそのまま護衛兼見張りとして。日暮れの風の中を歩く鎧甲冑の一団からは、無骨とは程遠いまるで舞踏会にでも赴くような音色が流れてくる。僕は心地良い余韻にひたっていたい衝動を抑え、野営の準備を続けることにした。

次に続きます

農村アーカンソン2

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