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セーブ・フロム・ガーディアンズ   作者: ken
傭兵隊スカイランド
12/25

治癒士ティカ

拠点の街ベルグラードで治癒士に傷を診てもらう

治癒士ティカ登場

 

 傭兵隊スカイランドの寄宿舎がある街ベルグラード。街道の要衝として、商隊、軍隊、傭兵隊はもちろん、旅行者から旅芸人まで様々な人々が行き交う街である。近隣の農産物や遠方から流れてくる特産品や、職人、技士など物だけではなく人の交流も盛んであった。また、特徴の一つとしてベルグラードは周囲が城壁で囲まれている。この城壁は大昔の対魔獣用城壁の名残らしいが、今では主に物流の要衝を守る城壁へと、その役目を変えていた。所々に見える補修の跡は、時の流れと共に改修を重ねてきた歴史の跡でもある。僕らの寄宿舎は城壁の外側、郊外にある南方の牧草地、その一角にあった。

 

 夢を見ていた。決まって悪夢の夢だ。暗い牢獄の中で苦痛に耐える夢、もう何度も見た光景だが慣れる事はない。魔獣調査依頼から寄宿舎に戻って三日が経っていた。僕は傷が熱を持ったのかその間、悪夢と高熱にうなされ寝込んでいたのだった。過剰すぎる身体的、精神的負担があったのだろう。悪夢にうなされるのも仕方のないことだと思う。


「ううっ、いってて。」


 寄宿舎でようやく悪夢のまどろみから抜け出した僕は、三日ぶりに起き上がる事ができた。身体の気怠さ、節々の痛さが現実だという事を痛感させてくれる。視界にはクリス隊長とシーグリッドちゃんの姿が確認できた。その手にはタオルと水瓶を持っていた事から、看病してくれていたのだろう。傷の痛み、それを上塗りするかのように温かい気持ちがふわりと広がっていった。


「――熱はもう平気そうね。傷が悪化した訳じゃなさそうだけど……、着替えたらティカの所で診てもらってね。シーグリッド、付添(つきそ)いお願いできる?」


「うん、わかった。だいじょうぶ、任せて!」


 ティカさんは街にある診療所の人でクリス隊長とは古くからの友人らしかった。僕に限らず、隊の皆が一度はお世話になっている治癒士である。治療に関わる専門の学問を修めた人は、魔術士と区別して治癒士(ちゆし)と呼ばれていた。治癒の魔術は勿論、病気や怪我なのど深い知識などを持ち合わせている。


「すみません、頑丈なのが取り柄なんですけど寝込んでしまって。」


「いいのよ。私とジョン爺は調査依頼の件で傭兵ギルドに行ってくるわ。今夜の打ち上げまでには戻ってこれると思うけど、遅くなるようなら先にはじめてて?それじゃあ、二人ともまたあとでね。」


 傭兵ギルド。その名の通り傭兵隊に仕事を斡旋する所で、依頼の仲介から旗印全書(きいんぜんしょ)の更新まで傭兵隊に関わる一切を取り仕切っていた。今回の魔獣調査依頼が終わった事で軽くお祝いでもするのだろう。打ち上げという言葉に自然と頬が緩んだのは僕だけでは無かった。


「はい、了解です。――シーグリッドちゃん、ごめん着替えるからちょっと待っててくれる?」


「うん、いいよ。……じー。」


 部屋に残った魔術士ジーグリッドちゃん。トレードマークのリュックこそ背負っていないものの、耳あてのついた帽子の隙間から見える切れ長の目は、興味津々とばかりに輝いていた。


「あ、あの、見られてるとちょっと……。」


「だいじょうぶ、わたしお姉さん、だから!傷の方も、見たいし。」


「いや、あの……。まぁそう言うなら。」


 背は僕よりだいぶ低いが、彼女曰く僕よりはお姉さんであるらしい。多少の気恥ずかしさはあったものの、その容姿から女性に裸を見せるというよりは、妹の前で着替えるような感覚でシャツに袖を通したのだった。


 その後、二人で寄宿舎を出てテクテク、トテトテと街の診療所に向かった。さすがに流通の要衝(ようしょう)、街に近づくにつれ城壁内外を通る道は雑踏(ざっとう)で身動きが取れない程であった。外敵からの侵入を(こば)む城壁、その通路が小さく狭いのは当然のことであったが、平時ではそれが全くの逆効果である。

 

 人に()まれながらも診療所に無事辿り着いた二人。火傷(やけど)槍傷(やりきず)と負傷していたが思いのほか痛みはそれほどなく、身体も自由に動かせた為、それほど苦労はしなかった。頑丈なのが取り柄であった僕の身体は、だいぶ快方(かいほう)に向かっているように感じられた。


「こんにちわ。それでは早速、傷の具合を診ましょう。さぁ上を脱いでくださいな。」


「すみません、よろしくお願いします。」


 診療所の中に入ると、治癒士(ちゆし)ティカさんが出迎えてくれた。足元まである白い羽織(はおり)羽織(はお)っており、手には装飾のある短い杖を持っている。大きな丸眼鏡から覗かれた優しそうな眼差しが印象的であった。


「クリスから話には聞いてるけど、火傷ね。ええと――」


 前方には丸眼鏡を掛け直しながら近づくティカさん。上半身裸の僕が椅子に座ると、ちょうど同じ高さにシーグリッドちゃんの小さい顔があった。治りかけの傷を見つめる瞳はやはり興味津々(きょうみしんしん)に見開かれている。見慣れていない訳では無いだろうが、魔術士シーグリッドちゃんの知的探究心をくすぐる何かがあるのだろうが、僕にはそれが分からなかった。


「火傷の手当てに、火吹竜(かりゅう)の唾液、つかった。あとは擦り傷と刺し傷、熱が出て今日まで、寝てたの。」


「私もそう聞いてるけど、これは……。ちょっと軟膏で触るわね。少し痛いかも。――どう?」


「――うっ!ええ、少し沁みますが……。うん、大丈夫そうです。小さい頃から怪我の治りは早い方だったので……うっ!」


 焼かれた時のような痛みは無いものの、その痛痒(いたがゆ)い刺激にどうしても身体が反応してしまう。

ペタペタさわさわ、プルプルぷるぷる。触診(しょくしん)される度に震えていた。


「ユウ、震えてる。トイレ?」


「ちっがーう!背中が沁みただけですよ!」


「そう。行きたい時は、いってね?」


「――ははは。わかったよシーグリッドちゃん。」


 付添(つきそ)いをお願いされたシーグリッドちゃんは忠実にその指示を(まっと)うしているだけなのだが、このように本人の意図とは関係なく和やかな空気を運んで来てくれる。小っちゃくて可愛いのだ。


「……。うーん、火吹竜の唾液は火傷の炎症を抑える効果があるけれど、こんなにも効果があるのを見たのは初めてだわ。傷跡は酷く見えるけれど、皮膚自体はもう治ってるように見えるわね。ちょっと肩の傷も診させてね。……うそっ、こっちも治りかけてる!」


 双璧の騎士から受けた肩の槍傷(やりきず)は、動かす分には特に問題無い。それはここに来るまでの雑踏を通り抜けてきた際に実証済みだった。


「うん、わたしも、ビックリした。治癒術式かと、でも魔力をね、感じないから。」


「そうね。失礼だけど歳はいくつ?」


「十八です。今年で十九になります。」


「なるほどね。若いから治りが早いと片づけるには私の矜持(きょうじ)に反するけれど……。今のところはそういう事にしておきましょう。一応、私の方でも治癒術式の準備はしてたのだけれど、必要無かったわね。熱の方はまたぶり返す可能性もあるから解熱の薬は出して置くわ。これで二、三日様子を見て下さいな。」


 丸眼鏡を外すとティカさんは優しく笑みを浮かべた。その笑顔につられて僕もそうだがシーグリッドちゃんも安堵の吐息をもらす。怪我を診てもらう際にある独特の雰囲気、漂っていた言い知れぬ不安な気持ちは、彼女の笑顔によって吹き飛ばされたようであった。


「ありがとうございます。頑丈なのが数少ない取り柄なので、ははは。」


「ユウ、頑丈だけど、しんぱい。無茶はしないで。」


「シーグリッドちゃん……。うん、気を付けるよ。ありがとう。」


 一歩間違えば、命の灯が消えていたであろう特攻。覚悟を決めた行動ではあったが、シーグリッドちゃんの顔が曇るのを見て傷の内側…、心が痛む。今はただ感謝の気持ちを伝えるのが精一杯だった。自分に出来る事は一体なんだろうか。その答えは知識の海を旅してきたジョン爺でも難題のように思えたが、必ず見つけなければいけない標榜(ひょうぼう)だ。間違えても良いんだ。まずは一つ一つ挑戦していこう!気持ちを新たに僕は診療所を後にした。


 高い城壁に夕陽が沈み始める頃には雑踏も落ち着いており、街の大通りをゆっくり眺めながら帰る余裕が出来ていた。ラインハルトさんの義手からエリーさんの鎧まで取り扱っている職人街や傭兵ギルドをはじめ、商工会ギルドなどギルドが集まる公舎街。日が暮れて閉まっている店も多い青空市場を通り過ぎると、城壁が見えてくる。出入り口付近は、旅行者や商隊向けの宿舎街と歓楽街があった。その歓楽街を通り過ぎた先が今夜の打ち上げ会場だ。


 夕闇に染まるベルグラードの街を進む二人の足音は自然と弾んでいた。

次に続きます

打ち上げ

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