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セーブ・フロム・ガーディアンズ   作者: ken
傭兵隊スカイランド
10/25

燃える剛腕

斜面での戦いが決着

「お前の相手は俺に決まったぜっ!」


「ちっ、逃したか。――まぁいい。まずは貴様らから屠ってくれるわっ!」


 一人は槍で、もう一人は腕で向かい合う両者の壁。重装鎧に身を包んだ壁とは違ったが、岩肌のように固い筋肉の鎧もまた壁であった。ラインハルトさんの剛腕が騎士に迫る。


「いくぞォォォ!」


「たかが、()()を着けたぐらいでこの鎧をどうにか出来ると思うなよ!」


 厚く重い鎧に裏付けされた防御力の前に止まる剛腕。鐘を打ち鳴らしたような音が響くと、騎士は得意の薙ぎ払いでそれに応えた。


「こんなもの痛くもかゆくもないわァ!」


「まだまだぁ!もう、いっちょォォォォ!」


 勢いに乗った気勢そのままに、反対側の手甲で槍に合わせる。その剛腕は手甲から槍へ、槍から鎧へとその衝撃をぶつけていく。逆に薙ぎ払われる格好となった騎士はまたもや呆気にとられた。


「たかが手甲の味はどうだい?騎士さんよォォォ!」


「何度殴ってもこの鎧はァ!」


 固い鎧の防御力を頼みとした騎士は、避けるという選択肢を基本的に持ち合わせてないようだった。剛腕の打撃を全てその鎧で受ける騎士。右から左、左から右へと次々に繰り出される剛腕。僕にはダメージが通っているのかどうか判断出来ないが、勢いだけでいったら完全にラインハルトさんに軍配が上がるだろう。

 その場から一歩も引かないまま両者の敵意が音を鳴らして激突している中、新たな光が遠くの方で光った。この斜面で何度も、何度も、見た輝き。ズキズキと痛む身体がそれを忘れさせてはくれないだろう。


「ライ!敵は火球を使ってきますわ。矢にも気を付けて!」


 僕に知らせてくれたように、絶妙なタイミングで警告するザラさん。ゆらゆらと燃える火球がその姿を現した。しかし、そんな火などお構いなしで打撃の手は止まらない。火が届くのが先か敵が倒れるのが先か。外側からでは分からないが、その打撃の効果のほどはどれ程のダメージを与えているのだろうか。勢いだけでいえば完全にラインハルトさんが優勢ではあるが……。


「火球ごときで俺を止められると思うなァァァァ!」


 騎士の頭上すれすれを越えて飛んできた火球はそのままラインハルトさんの胸元へ迫った。しかし、彼はその火球ごと騎士を殴りつける。槍であろうが火球であろうが彼の手甲にとってはそれは殴る対象でしかないようだ。防御力を頼みとした戦闘に対し、その剛腕の打撃力のみで戦う。まるで維持と意地の張り合いみたいな戦いは見ている方の痛覚が刺激されるような戦いであった。

 そして、遂に戦いの雌雄が決した。剛腕の意地を通された鎧の壁が崩れ落ちたのだ。


「――グハァッ!」


 前のめりに倒れこんだ騎士の鎧は無傷であった。流石に分厚い鎧を手甲では貫けなかったようだが、鎧の裏には無数の傷が刻まれているのだろう。剛腕の衝撃に耐えきれず防御の内側から倒れたのだった。


「なんだぁ?もう終わりか?」


 もう一つの壁であったラインハルトさんは不服そうに声をかけるが返事は返ってこなかった。そこへ新たな殺意が飛んでくる。これも僕は知っていた。その殺意が腕の手甲を突き破って突き刺さる。


ザクッ、ザクッ。


「おっと、良い眼をしてやがる。」


「それだけじゃないですわ。魔術士との連携にも注意を……、もうっ!」


 既に一矢受けているザラさんは肩口を抑えながら応えた。そうなのだ、始めから今に至るまで彼らの射程圏内から一度も抜け出せていない。再び眼下に閃光、魔方陣だ。矢が終われば火球、この繰り返しである。まるで敵意と殺意の嵐、たまったものではない。


「なぁに、弓士だろうが魔術士だろうが、要は近づけば問題ないさ。」


 手甲に突き刺さった矢をへし折るや否や、再度突撃の構え。その時、眼下に閃光が煌めいた。しかし、火球なんて気にしないさとでも言わんばかりに駆け降りていく。何といっても彼は火球を既に殴っている。そこへ火球に対して矢の追撃の手が加わる。上半身を焼かれた痛みを思い出した僕は反射的に声が出た。

 

「矢です!あれは火球を射抜いてきますっ!」


 ゆらゆらと揺れる燃える火、その中心に矢が的中する。加速する火球、それは高速の燃える矢となり威力を増しながら迫ってくる。流石にあの速さは殴り落とせないだろう。


「――そんな矢で止められるかァ!」


 豪快。その言葉を身体で、行動で体現するラインハルトさん。駆け降りた勢いそのままに、腕ごと当たりにいったようにも見えた。手甲に突き刺さる炎、しかし、回転した車輪のようにその剛腕は止まる事を知らない。慌てたのは敵の弓士。それはそうだろう。撃っても撃っても向かってくる剛腕、その腕には既に何本もの矢が突き刺ささり、燃えているのだ。かろうじて裸の胸元には届いてないものの、その矢は確実に手甲のいたる所を射抜き燃やしている。

 一瞬でその距離を縮めると、迷うことなくその剛腕を魔術士に向けた。いつまた治癒の魔術を使われるかもしれない。ラインハルトさんも同じ考えだろう。


「矢も炎も返すぜ。利子をつけてな!俺の片腕も持って行けェェェ!」


「――いやぁぁぁぁ」


 剛腕はまるでバネを外したかのように、そのまま燃える手甲ごと()()()()()。燃える手甲はその腕ごと魔術士に襲いかかる。虚をつかれた魔術士の顔に焦り、いや恐怖の表情が形作られていく。どんな魔術であろうと間に合わない距離、それは彼女にとっては致命的な距離、それを悟ったのだろう。幾度となく僕らを燃やしてきた火球、その元凶たる魔術士は火をまとった手甲によってその生涯を閉じたのだった。


「逃がしませんわっ!」


 劣勢になったのもあるだろう、剛腕に近づかれた弓士は距離を取ろうと草木の影から飛び出してきた。それはザラさんが望んでいた一瞬の隙でもあった。背後から一本の矢が通り過ぎると、そのまま瞬く間に速度を上げ弓士の背中から胸元へ。彼の生涯は矢によって閉じる事になる。


「ぐはぁっ!」


「なんだぁ、そっちも俺が相手するつもりだったのによぉ。」


 隻腕となったラインハルトさん。両腕の手甲……それは彼の義手であった。曰く、魔術によって動いてるらしく、彼の魔力が尽きない限りは、自由自在に動かせるらしい。矢で射抜かれても例え燃やされても動き続けられたのは、ただ豪胆という訳では無かったのだ。


「ふふふっ、彼には少し借りがありまして。ふぅー。敵の連携もあって苦戦しましたけど、何とか切り抜けられましたわね。少し疲れましたわ。」


 少しどころではない。僕は未だにズキズキと痛み立ち上がれないでいる。


「あわわわ――、わあああああ――!」


 どこかで聞いたことがある悲鳴が近づき背中に何かが衝突した。


「――くぅ!ぐぐぐ。」


 衝撃自体は軽いものだったが、既に身体中の痛覚を刺激されていた為、見た目以上に激痛が走った。斜面から敵が一掃された安堵感もあり、心の堤防を再構築しつつあった僕は、かろうじて涙を堪える事ができた。心の中ではじーぐりっどぢぁぁぁん!と叫んではいたが、かろうじて踏みとどまる事ができたのであった。

次に続きます

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