5機目『フクジン』
「少年! 少年! 少年!」
サカミ・コタツがやかましく、トニーウット・ハーリンテン少年の名前を叫ぶ。
コタツが興奮混じりに、少年に見せたかったとあるロボットがいた。
ソルブルク大帝国風に言えば、殲滅機だ。
「フクジン。ソルブルク国が量産配備している殲滅機では、もっとも新しい型だ」
最新鋭機。
それにはハーリンテンの目の色も変わろうというもの。
「知っています。総合能力がもっとも高い、いわゆる最強と呼ばれる一角ですよね。重硬質種子射出体による高い射撃能力、浮き岩から加工された浮遊結晶による飛翔能力。最新技術を導入しながらも上手く纏まった強いロボットです」
「うん、うん」とコタツは先を促した。
続けたまえ、と言わんばかりにだ。
とはいえ、ハーリンテンはそれほど多くを知れているわけではなかった。
フクジンは最新鋭機だ。
他種の旧式機よりも、情報取材にさらされている期間がずっと短い。
少年が手に入れられる、数少ない情報誌にも、それほど多くの情報はなかった。
ただ、
「フクジンが、南部の混蟲戦線に集中投入されている……んですよね? そのくらいなら知ってます」
ハーリンテンは自信なさげに言った。
コタツの反応を見るに、間違っていなかったようだ。
「よく知っているな、少年」
「風と蟲の噂です」
そう、ただの噂話でしかないはずだった。
「南部の混蟲戦線がどういったところか、少年は知っているか?」
「いいえ」
「まあ、そりゃそうか」
コタツは言葉を選んでいるようだ。
きっと、機密に抵触することが多いのだろう。
しばらく考えている素振りをしていたかと思ったら、話がまとめられたようだ。
「生存圏の南方面境界、混蟲族が領域にする大森林があるんだが、激戦区になっている。混蟲族の侵入が相次いでいるからだ。混蟲族の戦闘能力は三匹で殲滅機一機といったところだが、数の差は数百倍はくだらない」
「凄い数ですね」
「そうだ。混蟲族は黒い波として押し寄せてきて、拠点の蟻塚を建てていく。メートル級の混蟲の群れを相手にクロスボウや槍では戦えないしな。だからこそ混蟲戦線には昔から、五重の長城の拡大・維持と、最新の殲滅機を配備するようになっている」
「混蟲族て何なんですか? それほどの脅威になるんですか?」
「なるとも」
コタツは断言した。
「想像するのだ、少年。蟲とは、刺し、切り裂き、毒を吹く。僅かな音を聞きつけ、熱を遠距離から感知し、私たちには見えない光を幾つも見ているのだ。その上で極めて優れた組織構造をもっている。蟲とはそういうものであるし、混蟲族はまさしく蟲に分類されている。くれぐれも、たかが虫ごときなどと考えないことだ。虫類は我々人類の、そして知的種が積み上げてきた技術の先駆者なのだ」
「先駆者とはどういう意味でしょうか? 虫が、文明を持っていると?」
「そんなムラのあるものは蟲はもたない。蟲たちは自己の適応、進化で知的種の先端技術を獲得している。それに比べれば、我々は蟲の能力を模倣しているものでしかないのだ。少年、忘れるな。蟲どもは何十もの絶滅期を生き延びてきた古い種であり、混蟲族はその末裔であり、『最新』であるということを」
「……」
コタツは、混蟲に対して明らかな畏れをもっていた。
混蟲族に対しての知見が浅いハーリンテンには、コタツが抱く畏れの理由がわからなかった。
それでも、「何故だろうか?」と考える頭が、ハーリンテンにはあった。
少年が唸りながら考えていた時だ。
「コタツくん!」
「げぇ!?」
「何が、げぇっ、ですか! 高貴なかたたちが集まっているんですよ、顔を出しなさい!」
「嫌だ! 皇族王族に関わるとロクなことがないもん!」
「いい歳した爺さんが、ないもん、だなんて言わないでください、気色悪い」
「少年、お爺ちゃんを助けてぇ~」
……。
コタツは若いお姉さんに引きずられていった。
ハーリンテンは考えないことにした。
少年と、フクジンの二人きりとなった。
不思議なことに少年の耳に、ロボット万博の騒がしさが届かなくなっていた。
喧騒の中の静寂。
フクジンを見上げた。
美的な美しさはなかった。
どちらかといえば無骨。
それもまた美しさではあるが、フクジンに美しい、といった印象を少年は抱けなかった。
どこまでも、フクジンは『普通』なのだ。
その形。
その雰囲気。
その武器。
それらは、必ずどこか他で見て感じたものだった。
フクジンはそれらの集合体。
少年はこの時、初めてフクジンに不穏な、あるいは恐れを感じた。
今まで少年は、心のどこかでロボットを一つの生物として見ていた。
個性のある生き物だ。
スライムが使われているので、──スライムの分類に議論はあっても──生物で間違いはないはずであった。
だがしかし。
フクジンはどうであろうか。
そしてハーリンテンは、違和感の正体に気づく。
──あぁ、そうか。
──お前、兵器なんだな。




