3機目『サナカン』
ハーリンテン少年は威圧されていた。
背中を汗がつたったような気がした。
──サナカン。
かつてはソルブルク大帝国の『決戦兵器』であった超重量突破騎である。
その姿は人頭馬身の生物が模倣された。
馬の下半身。
馬の首にあたるところの人型の上半身。
それだけでも大質量だ。
しかしサナカンはさらに、全身隙間なく鎧を着込んでいた。
サナカンの突撃を正面から受け止められる存在は、投入当時、城を含めてまったく存在していなかった……と言われているのも納得の迫力だ。
「超重量突破騎サナカン。この子の誕生と、グルーチュは切っても切れない関係だ。普通のスライム筋肉だと、この質量を支えるのは不可能だった」
サカミ・コタツはしみじみとした顔を浮かべていた。
少年は、係員のお姉さんから飴玉をもらっていた。
「サナカンのコンセプトは、速くて重いものは敵を砕くという、合理化と馬鹿の極地だった」
「真新しさゼロの見た目ですよね。大きさ以外ですが」
「手堅いと言ってくれ」
コタツは苦笑していた。
サナカンは大きい。
規格外に。
山のように。
決戦兵器の名に恥じないように。
他の殲滅機──ソルブルク大帝国の戦闘用ロボット──が3mから5m程度であるのに、サナカンはその倍、10m級だ。
単純に二倍ないし三倍。
極端な巨大化。
まさに巨神。
ハーリンテンは、サナカンの前に立つだけで身がすくむ思いだった。
「サナカン最大の問題はその重量にある。少しでも軽くするために、竜の鱗、ミスリル=オリハルコン合金、新しい金属加工技術、色々試したがやはり、スライム筋肉が重量を支えきれなかった」
「そもそもなんで、これほどの巨体が必要になったんですか? 他のソルブルク製ロボットと明らかに違いますけど」
「言ってしまえば、サナカン以前の殲滅機の限界を超えるためだ」
「限界、ですか?」
「当時ソルブルク国が対峙していたのは、砂漠の神と呼ばれていたデストーンワームと、砂海都市の大門。どちらも巨大で頑丈すぎた。当時、配備されていた殲滅機カンナミでは、まったくの力不足だったのだ」
「サナカンでは可能だったんですか」
「さっきもいった繰り返しになるが、質量が違う。重質量体の突撃はもっとも単純で破壊的だ」
重量を支える構造は大切だ。
大きくて重いならばなおさら。
ハーリンテンは、机の上に大量の本や物を置いて、ついには机が重量に耐えられなくなりぺしゃりと潰れてしまうことを思った。。
「重量を支えているのは、筋肉も兼ねているスライムだ。だがこのスライムは、サナカンの重量を支えられるほどのものではなかった。潰れてしまうんだ。固まりきっていないゼリーを型から抜いたように」
「でもサナカンは今、目の前に立っていますよ? スライムで支えられている、ということですよね」
ふんっ、とコタツは鼻を鳴らした。
「ワタシは天才だからな。……天才にならなきゃ死んでたし……。スライムを改良して、新しい性質を添加して、新種を造ったのだ。それこそがグルーチュ! 私の人生最大の幸運の一つだ」
「具体的にスライムとグルーチュは何が違うのでしょうか?」
「それは軍事機密だから教えられないなぁ。ヒントは、外骨格生物は小さくなることに優れていて、、内骨格生物は大きくなれるということだ。そんな例外に、ホラークラブという巨大怪獣の外骨格生物がいるが、忌々しいコイツがどうやって体を支えているのかが答えになるな」
ハーリンテンは、もう一度、サナカンを見上げた。
希望。
力。
夢。
サナカンは支えているのは、自身の重さだけではないのだろう。




