1機目『ウズフセ』
──変なの。
『星系史上初めてのロボット』を見たハーリンテン少年の感想だ。
「何か気持ち悪い」
実は口にでていたりする。
ウズフセというロボットだ。
サカミ・コタツがソルブルク大帝国で初めて立ち上がらせたロボット。その見た目は、防衛用の据え置きバリスタに、四つの足を生やしたようだ。バリスタに大型矢を再装填するための細い腕は八本も上向きに生えていた。
操る操演者が乗り込む操演槽は、亀の首のように突き出される形だ。操演槽に装甲はなく、操演者の上半身は剥き出しだ。
──変な形。
これも、最初期型ゆえか。
そう考えてハーリンテンは、ウズフセの説明板に目をおろそうとした時だ。文字がたくさん。ウズフセが『何』であるのかを教えてくれる文法術。
「少年」
妙な爺さんに、ハーリンテンはからまれた。
爺さんは誰か。
首からぶらさがる名札には、サカミ・コタツとある。
ウズフセの生みの親、その人だ。
ボサボサの髪を馬の尻尾のようにまとめている。おしゃれのつもりだろがにあっていない。黒髪黒目。垂れ目が死んだ魚と同じ雰囲気をもっている。たぶん駄目人間の分類。
「ウズフセについて知りたいか? 教えてやろう!」
コタツのウズフセ談は勝手に始まった。
ハーリンテンの意見は聞かれなかった。
「ウズフセは元々、バリスタに機動性をもたせるための追加装備だったんだ。当時のソルブルク国は、幾度も騎馬民族の侵入を受けていたからな。優れた馬と弓を扱う、手強い敵だ。馬も弓も、どちらもソルブルク国は恵まれていなかった。対抗するにはバリスタやクロスボウで弓の射程外から馬を射ることだった。絡繰技術を大量生産は大得意なのが我らがソルブルク。だがバリスタは重い。でも的の群れを間接的になぎ倒せる支援兵装として必要不可欠。引く馬こそが当時のソルブルク国には貴重。それをどうにかしようとして生まれたのがウズフセなのだ!」
「……そうなんですか」
ハーリンテンは、この一方的にまくしたてられるコタツの話を聞いていた。
だが少年は、少年なのだ。
知識話よりも実物に興味が惹かれるのも仕方がないこと。
コタツの“うんちく”が積もった。
ハーリンテンはトテトテとウズフセに歩み寄り、剥き出しの足をつっつく。
四本ある足の一本。それは青い半透明の物体であり、貝の足にも似ていた。
触れると固い弾力がある。
ちょっと冷たい。
ハーリンテンはパンフレットに
記載されていたことを思い出した。
「それがスライム筋肉だ」と言ったのはコタツ。
「あまり突っつかないでやってくれ。そのスライムは『生きている』」
──ぐにゃり。
「!?」
スライム筋肉がハーリンテンの手首まで飲み込む。それに驚いて、少年は慌てて手を引き抜いた。
ビリビリする水。
浅く針で刺された痛み。
少年はスライムに『噛み付かれた』のだ。
うかつにスライム筋肉に触るのは、やめておいたほうが良いだろう。
「感電するから危ないぞ少年。スライム筋肉に命令する指示電気信号が流してある。この電気信号は0と1の二進数だ。ようするに電気を流すか流さないかで『言葉』にしていると考えてくれ。オンオフにはオルゴールの技術が使われているんだ。ほら、円盤をひげぜんまいに貯めた力で動かすアレだ。何十枚──ってほども多くはないが、まぁ何枚かの円盤ディスクに信号の元を記憶して、操演者はディスクを選択することでウズフセを動かす。前、後、右、左。発射、再装填。このくらいだな」
「ウズフセに乗るのは簡単そうですね」
「簡単だとも。──よし。少年、ちょっと操演槽にはいれ」
「えっ、嬉しいですけど、大丈夫ですか?」
「ロボットは動いて動かしてなんぼだ」
ハーリンテンの胸が高鳴る。
滅多にない機会だ。
少年に断る理由など皆無。
少年は操演槽に登った。
「感想は?」
操演槽は、成人ように設計されていた。
大人であるならば、半開放式で剥き出しのウズフセの操演槽から、体を大きくはみだすはずだ。
だが少年の体だと、首をだすので精一杯だ。
「……わかんない」
「そうか。よし、ならば少年、動かして感じてみるんだ」
「どうやって?」
「適当にまずは動かしてみろ、少年。ウズフセは操演をもっとも単純化してある」
「そんなこといわれても」
「心配するな。ウズフセも補佐してくれる」
「……やってみます」
ハーリンテンは操演槽を見た。
動かすところは少なそうだ。
足元。
手元。
確認した。
なるほど簡単そうだ。
動かしたいペダルやボタンを押し込むだけだ。
「上手いぞ、少年」
コタツのいうとおり、慣れるのに時間はかからなかった。
ウズフセが手足をせわしなく動かし走った。
フットペダルは、背中のバリスタが動くようだ。
バリスタ用の槍のような矢はないので、連発機巧のハンドルとチェーンが触手のような腕で回されるだけではあるが。
「……」
ハーリンテンの心内には、ウズフセを操演する興奮があった。
だが、
──ヂヂヂヂヂヂッ。
──ガリガリガリ。
蛸足のように地面を這い、背中から幾本の触手を生やすその姿。
ロボットは好きだ。
動いているのも見るのも。
止まって飾られているのを見るも。
ロボットに差別はない。
でもやはり、ちょっと気持ち悪かった。




