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暗号名ファルコン

 俺は相良光太郎。

 暗号名(コードネーム)ファルコンだ。


『なにいきなり壊れてるんですか……』


 神の代理人、いわゆるエージェントをしている。


『おーい、無視するなー』


 エージェントってのは神のケツを拭く仕事だ。

 任務のために世界を敵に回す。

 だがこれも神様のためだぜ。

 ふう、やれやれだぜ。


『ねえねえ、やって悲しくなりませんか?』


 おっと、この小うるさいのは俺の相棒(バディ)であるアーマードサイボーグ、レディだ。

 俺は銀河を駆ける宇宙海賊……


『エージェントじゃなかったんですか? どうして10秒前の設定をサクッと忘れることができるんですか?』


 うるしぇー!

 もういいもん!

 エッチな妄想するから!

 テロリストが来て男子生徒皆殺しにした学校で俺だけハーレム!

 ほわわわわーん。あはーん♪ いやーん♪

 俺は口に出すのを憚られるようなエロい妄想を繰り広げる。


『ちょ、女の子がいるんですよ! や、やめ! どんだけウサちゃん好きなんですか! ちょっとー!』


 中学生男子のエロへのリビドーを侮ったのが貴様の運の尽きよ!


『へ、変態!』


 ふふーん。

 さてさて、肝の冷えた俺たちは一緒にネットの海を探索していた。

 なにせ俺たちの思い込みが真実ならば、大きな事件に関わっているのだ。

 予備知識はいくらでも欲しい。

 まずは事件記事を見る。


 通称、南関東女児連続誘拐殺人事件。

 事件は10年前にテレビや映画で活躍していた女優、北条利香子の娘が誘拐されたことから始まった。

 当時、北条一家は埼玉県内のショッピングモールで買いものをしていた。

 幸せ家族である。

 北条利香子は夫でマネージャーの健次郎に娘の美沙緒を預け、フードコートにあるファーストフード店で買い物をしていた。


「あたしがハンバーガー買ってくるから美沙緒のこと見てて」


「ああわかった。美沙緒、パパと一緒にいような」


 おそらくこんなやりとりがあったのだろう。

 ごく普通の幸せ家族だ。女優なのに堂々と出歩いていたようだ。

 ところが夫の健次郎と娘の美沙緒は突如として消えた。

 当時、二人がいたフードコートには数百人の客がいたにもかかわらず。

 北条美沙緒は、すぐに窓口に訴え出た。実に常識的な判断である。

 スタッフが探し回ったが結局二人は見つからず、数時間後に施設を通じて警察に通報した。

 相手が有名人のため警察もすぐに捜査を開始。

 ただ北条側は初動の遅れがあったと主張している。

 後に開かれた埼玉県警の第三者委員会の調査では、初動捜査に問題はなかったということになっている。(だが責任者が警察を辞職し、天下りをしたらしい)

 北条美沙緒が不安で押しつぶされそうになる中、次の日に事件は動いた。

 それは普通の宅急便だった。

 箱は大手通販会社のもの。品名は『コピー用紙』。

 確かに重かったらしい。

 外側に不審な点はなかったが、一応念のために捜査員が中身を空けた。

 その判断は正しかった。

 中に入っていたのは右手首から先、血抜きがされていたらしい。

 指紋から夫健次郎氏のものと判明。

 警察は、手首を切り落とした場合の出血量から健次郎氏は高い確率で亡くなっていると判断。

 事件発生から24時間後、事件を傷害及び誘拐事件として公開捜査に切り替える。

 傷害なのは死体が見つかってないからだ。

 懸命の捜査が行われたが、北条美沙緒の行方はわからなかった。

 その後、10年間事件は解決していない。


 ……さて、この話にはまだ続きがある。


 その後、四件の幼児の行方不明事件が発覚。

 東京、埼玉、千葉、神奈川で計四人。

 四人の子どもの行方がわからなくなっていたのだ。

 これは事件の一年後に、あるジャーナリストが週刊紙上ですっぱ抜いた。

 当時は話題になったようだ。

 だがこの話にはオチがつく。

 ニュースの数ヶ月後、このジャーナリストが最寄り駅のガード下で死体で発見された。

 全身をメッタ刺しにされた……とのことだ。

 完全にメンツを潰された形の警視庁、埼玉県警、神奈川県警、千葉県警は現在も北条美沙緒の誘拐とジャーナリストの殺害を含めた6件の事件にそれぞれ賞金1000万円をかけて情報提供を呼びかけている。


 うっわ……なにこれ怖い……


 はい、捜査終わり♪

 かわいい彼女ください。


『ダメだそうです。現状だと50歳まで童貞だそうです』


 ぐぬぬぬぬぬ!

 具体的な数字を出しやがって!

 やるよ! やりゃいいんだろ!

 俺は教科書を鞄に詰め込み、白帯の巻かれた道着を出してスポーツバッグに詰め込む。


『明日の用意?』


「まあな。ボクちゃん真面目な学生だから合気道一本に青春を無駄遣いするんだ……嗚呼……50歳まで続く美しい青春……」


『あきらめるなー!』


 俺の豆腐メンタルをなめるなよ!


『人類が滅亡しても生き抜くタイプだと思いますが』


 うるしぇー!

 俺が今日だけで何度目かの口喧嘩をしてると、ガラガラガラっと部屋のドアが開いた。

 ノックもしない。

 この無神経さは……


「おら、メシできたぞ」


 母ちゃんである。


『ほら、ごはん食べて頭を切り換えてください』


 へいへい。

 食卓に着くと母親がご飯を並べていた。

 俺はテーブルに座る。

 親父がテレビを見ながら先にご飯を食べていた。

 俺に気づいても無言である。

 このコミュニケーション能力のなさよ。

 母親もテーブルに座る。

 その母親を見て俺は思いついた。

 そうだ。

 親を動かせばいいんじゃね。

 無責任な噂を立ててそれが警察の耳に入ったら楽だぞ!

 俺は作戦を開始した。


「あのさ、北条利香子って女優さん知ってる?」


「うん。いい女優さんだったのに事件で引退しちゃったわね。それがなに?」


 やけに詳しいな。

 ファンなのか?


「いやさ、その女優さんにそっくりな女の子が転校してきてさ」


「へえ、美人なんだ」


 すごい美少女だ。


「それでさ、確か女優さんの娘って誘拐されちゃったんだよねぇ……えへへへへ」


 ギロッと親の目つきが変わった。

 あ、爆弾踏んだ。


「どういう意味かな?」


 口調がイライラしている。

 うちの母親は最近ずっとこうなのだ。


「い、いやあ……誘拐された子だったら……やだなって……てへ……」


 ぶちり。

 爆弾が爆発した。

 ああ、爆弾が爆発する前に説明しておこう。

 うちの母親は、雪で死にかけた件から俺を支配下に置こうとするようになった。

 首の骨折の可能性もあったのが、よほどこたえたらしい。

 今では幼稚園児扱いだ。

 はっきりって過保護を通り越して過干渉だ。

 しかもキレるタイミングが全くわからんのだ。

 反抗期ど真ん中の中学生にはマジできつい。


「あんたね! なに言ってるの! 母さん、そういう曲がった見方をする子に育てた覚えはないよ!」


 いえ、私の性格を歪ませたのは貴女に違いありません。

 絶対にそうに違いありません。


「あんた! 女の子を虐めてるんでしょ!」


「してねえよ!」


「家でもそうなんだから、外でもそうに違いない! このバカ!」


 なぜ人格を全否定されなければならない。


「そういう情けない子はもうメシ食うな!」


 話が通じねえ。

 ふ……俺はもう面倒くさくなった。


「じゃあいいわ。もう話さねえ」


「メシは?」


「知らんわ!」


 あとでメシ食いに行ってこよう。

 あーあ、親とはなんという面倒な生き物だろうか。

 子の心配をするのはいいが、余計な心配で逆に追い詰める。

 成績良くて、運動できて、犯罪もしない子になんの不満がある。

 童貞か!

 童貞が全て悪いのか!


『そういう、えっちなとこじゃないですか?』


 いいか。

 原因はお前らだ。

 神様には今日のメシ代は経費だって言っておけよ。


『もー! わかりましたよ!』


 うけけけけ。

 それにしても親ですらこの態度だ。

 警察を説得するのはもっと難しいだろう。

 もっと決定的な証拠が必要だ。

 どうするか……一生童貞は嫌だ。

 あ、いいこと思いついた。

 経費だしついでにラーメンでも食いに行くかね。

 俺は着替えて外に出る。

 すると案の定、母親に見つかった。


「どこに行くの!?」


「ランニング」


 嘘ではない。

 なにせ頭の中に少女が住み着いているのだ。

 煩悩を運動で発散せねばクリティカルな行為に及びそうになる。

 だから我が輩はいつもランニングをして煩悩を祓うのでゴザル。

 我が輩、いかに紳士と言えど、少女の前で事に及ぶほど上級紳士ではないわ!


「あんた。夜にフラフラして!」


「じゃあヤンキーになってヒャッハーしてくるわ」


 チャリで来た!

 今回は足だけど。


「こら光太郎!」


 るっせ。

 俺は家を出る。

 俺は悪くない。

 悪いのは神だ。

 だから謝らない。絶対に謝らない。


『へそ曲がり。ホントは、雪のせいで死にかけたせいで過保護になっているお母さんに、どう説明していいかわからないから逃げただけですよね』


 うるさい。

 ラーメン、ラーメン、ラーメン。

 神の手伝いをしているのだ。

 このくらいの役得があっても良かろうよ。

 俺は走って駅前へ向かう。


『神様だってわかっているんですよ。一生童貞なんて脅さなくてもホントは事件のことが気になってるんでしょ? 確信が持てないのと、中学生がどう立ち回っていいかわからないから逃げてるだけで。だから手伝いやすくしてあげたんですよ』


 悔しいが一部は認めよう。

 だがお前は一つ間違っている。


「なにがですか?」


 俺はコンビニに立ち寄る。

 どう立ち回るか? なんて思いつかないはずがないだろ?


『はあ? いやだって……』


 俺は梱包用の大きめのセロハンテープと片栗粉をレジに持っていく、おっと、それと封筒も必要か。


「あ、すいません。それと切手もください」


 俺は店員に切手を頼む。


『なにをたくらんでいるんですか?』


 さあね。

 なにせ俺は暗号名(コードネーム)ファルコン。

 凄腕の工作員で宇宙海賊で天使で……


『さくらんぼですね』


 ……(コウ)ちゃんやる気なくした。

 帰る……


『ちょっと、軽口でしょ! いつも光ちゃん、私に言ってるじゃないですか!』


 やー。

 ぽく帰りゅ。


『わかりました! チャーシュー麺食べていいですから』


 チャーシュー丼もつけていい?


『わかりましたから!』


 ひゃっほー!

 言質取ったー!


『もう……男の子って! 男の子って! ほんと、バカなんだから!』


 バカで何が悪い。

 さあ、ラーメン、ラーメンっと。

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