物騒な二人
両国駅に着く前に俺はスマートホンを取り出し、助けを求めようと思った。
なにせ遠藤さんは犯人を殺すつもりだ。
捕まる覚悟も、刑を受ける覚悟も、人生を棒に振る覚悟もできちゃっているのだ。
そんな覚悟を決めちゃった人を止めるには国家権力の力が必要だ。
おまわりさん。どうにかしてください。マジで。
だがヘタに連絡してスマートホンを取り上げられては困る。
なにせ本当に危険な目にあったときの命綱になるかもしれないのだ。
だから俺はごく自然に、ごく当たり前の定期連絡を装わなければならない。
遠藤さんを警戒させてはならないのだ。
「あ、妹にメールしますね。担任にちゃんと連絡してくれたか確認しないと」
俺はメッセージを送ることにした。
文章では自分の言いたいことが伝わらないかもしれない。
だが大丈夫だ。
なにせ俺と美香は一心同体……というより一緒の体にいたことだってあるのだ。
俺の細かい表現の差異を察してくれるだろう。
『美香ちゃん。お兄ちゃんは熟女に目覚めそうです。ら、らめええええ!』
よし!
俺は文章の出来に満足した。
これで異変に気づいてもらえるだろう。
俺は知っているのだ。
美香は俺の部屋を掃除すると言っては、妹もの以外のエロ本を勝手にパージしていることを。
熟女に目覚めそうなんて言えば異変があったとわかるはずなのだ。
すぐに返信が来る。
『去勢してお姉ちゃんに売り渡しますよ』
俺は思わず内股をきゅっと絞めた。
リアル男の娘にする気だ!
男の娘M奴隷としてエロ漫画みたいにすっげえことされてしまうのだ。
そして不思議な薬を注射されて男なのに妊娠されられてしまうに違いないのだ。
それは避けたい。
『あのね。そうじゃなくてね……』
と……返信したところで遠藤さんにスマートホンを取り上げられる。
「もういいでしょ」
ガッデム!
ガッデム!
お兄ちゃんのピンチを妹は華麗にスルー!
「あ、あの……北条と約束もあったもんで……」
「それは皆川さんに連絡してもらいましょう」
く、殺せ!
世の中はなぜこうも上手く行かないのだ!
ロール判定失敗しまくりだ!
両国駅に着く。
すると制服姿の皆川待っていた。
皆川が車に乗り込んでくる。
なにかを買ったらしくレジ袋に入った荷物を両手に持っていた。
「遠藤さん。結束バンドは大きいのと小さいの両方買いました」
俺は皆川を凝視した。
それって拘束するために買ったよね?
ねえ、ちょっと!
「ラップは?」
チェケラの方ではなく、食品用の樹脂製フィルムのことだ。
それも拘束用途に使えるのだ。
腕や足を縛ったり、猿ぐつわにしたりと用途は広い。
この娘たち……ガチだ。
なにをするのかは明らかだった。
もう俺は我慢できなかった。
「拉致するのか?」
俺は聞いた。
すると二人は笑う。
「しないとでも?」
皆川が言った。
「俺を犯罪に巻き込むな」
「もう手段なんて選んでられません。私たちは悪を止めねばなりません」
俺はしまったと思った。
そうか、犯人の凶暴化は二人に法を破る大義名分を与えてしまったのだ。
「おい皆川! 頭冷やせ。そこの遠藤さんは復讐っていう大義名分がある。でもお前は姉ちゃんを憶えてもないんだろう? なんで手を貸してるよ?」
復讐だったら警察を動かせばいい。
悪魔のネットワークで調べればいいのだ。
やつらを見張っていれば犠牲者も出ないだろう。
こんなバカなことをする必要はない。
皆川も遠藤さんも俺を無視した。
どうしてダメなんだ!
その後、自動車は墨田区内で停車した。
そこは住宅街が広がっていた。
「このマンションに容疑者がいます」
皆川が言った。
「どんなやつ?」
「某一流大学の二年生で、当日のアリバイがありません」
なるほどそういう事か。
例えばだが、働いていたら子どもへの連続殺人をする暇なんてない。
なにせ下校時間にはまだ会社で働いているはずだ。
帰ってくる頃には門限や塾の時間だ。
接点を作るのは難しい。
つまり連続殺人の犯人は時間のある無職や学生だ。
「親は?」
俺は「同居か?」という意味で聞いた。
親と同居している人間が犯罪を犯すのは難しいのだ。
だが皆川からは俺の期待したものとは違う答えが返ってきた。
「いい質問です。父親は会社経営者。母親もNPOを経営しています。二人とも政界とパイプがあるようです」
期待した答えとは違うが有益な情報だ。
親が権力者だ。
だが権力者が殺人事件を握りつぶせるほど日本は甘くない。
それが10年前でもだ。
なぜならそのころはすでにインターネットが存在したからだ。
営利企業であるマスコミは押さえつけられても、ネットの噂を止める手段はない。
権力者は刑の割引をすることはできても、事件そのものをなくすことはできないのだ。
インターネットの出現によって事件のもみ消しがまかり通ることはなくなったのだ。
つまり警察は秘匿してない。
本当に犯人を知らない……いや、事件である事すら証明できないのだ。
「他の連中は?」
俺は聞いた。
根拠はどこまでも薄い。
親が権力者だから決めてつけているのではないかとすら思える。
皆川は言った。
「学校や仕事の時間でしたが全員アリバイがありません」
うっわ。あやしい!
「どう証明する?」
俺は聞いた。
皆川も遠藤さんも無言だった。
それもそのはず。
犯人が誰か証明することができるなら、二人とも迷わず警察に通報しただろう。
つまり証拠は無い。
とは言っても俺には証明することができるのだ。
ステータス画面でな。
ただし二人には内緒だ。
男が出てきた。
二人の顔色が変わった。
それを俺は見逃さない。
ステータス!
名前 : 穴戸大地
ヨミ : ししどだいち
AGE : 19
職業 : 大学生
所属 : アイドル研究会
LV : 30
HP : 122/122
MP : 0/0
STR : 70
INT : 560
DEF : 56
AGI : 63
DEX : 180
LUK : 12
スキル :
アイドル LV99
魔法 :
なし
バッドステータス:
アイドルにつぎ込んだ借金200万円
山積みのCD
備考 :
ハンドルネーム『小さい娘大好き』
……ガチだった。
だがその瞬間、俺の脳裏にアイデアが浮かぶ。
だから俺は慌てて出て行こうとする二人をつかんだ。
「待て。俺に考えがある。ここで拉致するよりは何倍もいい方法だ」
俺は二人にそう言った。
他の連中も一気に読み込む手段である。
ちょっと死者であるタケルさんの名誉は汚すかもしれんが、仕方ないよな?




