おかしくね?
おかしくね?
俺の頭はその疑問に支配された。
だってそうだろ?
皆川と組んでいるなら、絞殺だってことは知っているはずだ。
いや、そもそも警察所属の嘱託カウンセラーなら「俺が聞きたがっていた」とか理由をつけて聞き出すことは可能だ。
個人情報云々とは言っているが、運用しているのは人間でしかない。
いくらでも裏をかくことはできる。
じゃあ、なんで『撲殺』なんて言ったのか?
つまりだ。逆説的……反対言葉だ。
『やってねえよ』って意味だろう。
大人の嫌味って面倒くさい。
「やってないならやってないって言えよ」
俺は態度悪く言った。
「『やってません』……相良くん。これで気はすみましたか?」
遅く来た反抗期め!
「さあね。だけど、なんでそんな自虐的な言い方をするのか? それが問題なんだろ? ……つまりだ。『殴ったけど絞め殺してない』ってわけだ」
おかしなことが多すぎる。
まず遠藤さんはスパナで殴った。
……スパナねえ……凶器としては中途半端じゃねえか?
もちろん大きいものもある。
自動車用や水道工事用とかな。
でも人を殺すのに工具をわざわざ持ち込むか?
撲殺じゃないと困るわけじゃねえだろ?
俺だったら鈍器だったら大型のショベルやハンマーを使う。
一撃で行動不能にできるだろう。
頭を殴るならダンベルだっていい。
犯人の家で入手できるからな。それ以上のメリットがないのが難点だが。
警察の関係者なのだから警棒だっていい。
だけどあれは樹脂製だから人を殺すのは難しいのか……
いやそれ以前に、刃物を使えば重くて大変な思いをしなくてすむ。
戦闘用のナイフなんて必要ない。
包丁で充分だ。人を殺すには充分な威力があるだろう。
なにせ肉を解体できるからな。
正面からなら腹を刺してから、刃を上にしてさらに奥に突き刺して、最後に相手の体重を使って上方向にえぐってやればいい。
後ろからなら肝臓を刺すなり、テイクダウンしてから押さえつけてメッタ刺しにするなり喉をカッ切るなりすればいい。
つまりスパナは殺人に使うならば非効率ということだ。
じゃあなぜスパナなのか?
俺は結論を出す。
「車の近くで殴ったんですね……」
それしか武器がなかった。
それが一番自然な答えだ。
なんとなく重さがちょうど良かったという線はあるが、可能性は低いのだ。
「自首を求めたのですが罵倒されてつい……」
遠藤さんは暗い顔をしていた。
現実なんてそんなもんだ。
ブチ切れて後先考えずに殴ったら死んじゃった。
珍しくもない。
だから俺はもっと重要なことを聞いた。
「それはどこ?」
「北区のファミリーレストランの駐車場です……」
タケルさんの死んだ場所は聞いていない。
そう聞いていないし報道してない。
報道してないって事は、警察も見つかった場所では死んでいないと思っているんじゃないか?
本当に一時間で死体が見つかったのだから、家の近くのはずだ。
いや、家に違いない。
それに何度も締めて蘇生措置までしたのだ。
外のはずがないのだ。
だから俺は言った。
「死体が動いたってことか」
遠藤さんは訂正をしなかった。
正解だったに違いない。
そして残念そうに言った。
「犯行場所を証明する手立てはありません」
「自首すればどうですか? 話くらい聞いてくれるでしょ?」
俺は言った。
「いま自首しても誰も聞いてくれません……それに……」
それに?
それにって?
なんなのー!
俺は薄々気づいていた。
だって朝のニュースでやっていたもの。
「子どもが殺された……」
「タケルさんと同じく絞殺です」
つまりだ。
十年の時を経て覚醒した殺人鬼が野放しなのだ。
「警察は?」
「娘……いえ、鈴木千穂さんの事件と今回の殺人事件を結びつけるものはいません。そもそも鈴木千穂さんの事件は殺人事件と認識されていません」
遠藤さんは『娘』と言うのを避けていた。
ここからわかるのは通常の養子縁組ではないということだ。
実の親との関係が切れる特別養子縁組に違いない。
だろうな。
それは予想していた。
だから余計に気になることがある。
「じゃあ……誰がタケルさんの情報を流したんです?」
俺と同系統の力、ステータスなどの情報系の能力者が悪魔の側にもいるのだろうか?
「最初は差出人不明の怪文書でした。私は鈴木千穂さんの晶さん経由で情報を聞き、独自に調べた所数人の容疑者を割り出しました」
つまりだ……おそらく怪文書をきっかけとして二人は組むことになったに違いない。
俺は少しだけ皆川のことがわかったような気がした。
「なるほどね……それじゃあ聞きますけど、なぜ俺にそんな話を?」
どうしろって言うのだ?
「相良くんは……どう思われますか?」
つまりだ。
遠回しな表現だが、「なにか情報隠してんだろ? 教えろよ」って意味だ。
「……鈴木千穂ちゃんの死因は溺死。頭部に数カ所の外傷……おそらく犯人は複数犯だ」
理由は言わない。
というか言えない。
夢で見たものだ。
「続けて」
遠藤さんは言った。
遠藤さんもそう考えているに違いない。
「タケルさんは犯人の一人だ。犯人たちは秘密を共有していた。タケルさんは成功をつかむ一歩手前だった。それが面白くないのは他の犯人たちだ。俺は報われないのに、なぜあいつだけ。でもコイツは普通は殺す理由にはならないはずです。別の理由があるのかもしれない。自首しようとしたとかな」
「……つまり仲間に殺された?」
「ただの推測ですよ。だけどありえない話じゃない。重要なのは犯人はタケルさん殺害で目覚めた」
たぶん鈴木千穂ちゃんは最初の殺人だ。
つぎにタケルさん。
ここで絞殺に起因する快楽を憶えた。
「さらに、この間の二件目の殺人で自信をつけた……ってことですか」
さらに今朝のニュースだ。
殺人の味を憶えてしまい、自制心が効かなくなっている……かもしれない。
「たぶんね。次はもっと大胆になる……かもしれませんよ」
断言はできない。
だが犯人は人殺しの楽しさを学習した。
「止めましょう」
でもどうやって?
という言葉が喉まで出かかった。
だけどよく考えれば難しくはない。
卒業アルバムを手に入れて仲のいい友人を探せばいい。
いつもつるんでいた連中を探すのだ。
いつしか自動車は上野を通り過ぎていた。
「それでどうする?」
「両国に彼らの仲間がいます。行きましょう」
「俺は中学生なんですけど……」
遠藤さんは返事を返さない。
帰さないつもりか。
仕方ない脅迫して揺さぶってやる。
「これ以上は誘拐に……」
「両国駅で皆川さんと合流します」
華麗にスルー。
俺も手伝うことに異論はない。
天使の仕事でもあるからな。
だがこの遠藤さんがなにを考えているかがわからねえ。
見つけ出して逮捕?
それとも今度こそ殺すつもりか?
俺がなんでそんなことを心配してるかだって?
だって……遠藤さん、俺に誘拐だって脅されても気にしてないもの。
もう法の外にいる反応だぜ。
それに見ろよ……この覚悟決めちゃった表情……
たぶん殺すつもりじゃねえの?




