遠藤佳菜恵
俺はバカだった。
今なら断言できる。
子どもを殺された親の復讐劇。
そんなお涙頂戴のサスペンスドラマみたいな話だと思い込んでいたのだ。
呪うべきは自分の想像力のなさよ。
いや、一面では正しかった。
これは本当だ。
そうやって動いていたものもいた。
これも事実だ。
だが俺も美香も、皆川すらもそれぞれが物語の一面しか見てなかったのだ。
少し考えればわかる。
そんな同情の余地がある犯罪なら、神様は俺になんか頼まない。
こいつは……もっと酷え話だったんだ。
俺たちが真相に近づいたその日の夜だった。
俺は集めた証拠を皆川に突きつけて、話術で口を割らせようと考えていた。
そして殺人犯に自首させようと思っていた。
俺の想像が正しければ、鈴木千穂ちゃんの本当の親による殺人だ。
子どもを殺されるのは人殺しの理由になる。
たとえ離ればなれになっていて、関係が切れたように思えても犯人を殺すやつはいる。
こいつは俺でも断言できる。
同情できるし、俺が親だったら俺も殺すかもしれない。
いや殺す。美香や吉村、それに北条が殺されたら地球の裏まで追いかけてぶち殺す。
だから俺は復讐は殺人であっても悪いことだは思わない。
世の中もそうだろう。
そういう同情の余地のある殺人には、情状酌量っていう制度が用意されている。
残念ながら殺されても当然のやつってのは存在するのだ。
未成年? 事理弁識の能力がない?
知るか! 殺された側には何一つ関係ない。
国家が制裁をしない以上、自らが手を下してなにが悪い!
そう考える人間は現代でも少なくないし、むしろ歴史的には多数派だ。
敵討ちなんて
だから俺も思いを遂げた以上、やったことの責任は取れよと説得すればいいと思っていた。
だがそいつは一瞬で覆される。
いつものように朝食を取っていた。
母親は仕事の早番でいない。
二人きりの朝食だ。
メニューはベーコンにトースター。
超テキトーである。
それほどまでに俺は疲れていたのだ。
美香も俺の様子に軽口を叩くことはなかった。
学校が終わったら皆川を呼び出す予定だ。
「お兄ちゃん。テレビ見ますか?」
美香も少し緊張していた。
俺はさすがマズいと思った。
だから言った。
「そうだな。少し落ち着こうか」
美香はテレビをつける。
朝のニュース番組がやっていた。
「XX小学校5年の太田まどかさんが行方不明になりました」
嫌なニュースだ。
事件の概要が流れる。
塾の帰り道で行方不明になったらしい。
するとニュース速報のテロップが流れる。
「行方不明の小学生の遺体を発見」
暗い気持ちになったぜ。
俺は食べかけのパンを置く。
コーヒーもなんとなく飲みたくない。
俺は冷蔵庫から麦茶を出すとコップに注いだ。
あーあ、やってられねえ。
美香も「失敗したなあ」という顔をしていた。
美香は悪くないぞ。
すると玄関のチャイムが鳴る。
「なんだ朝っぱらから……」
俺は玄関のインターホンのカメラをオンにする。
白黒映像に映し出されていたのは、俺のカウンセラーの遠藤さんだった。
なんだろうか。
俺はドアを開ける。
「おはようございます」
遠藤さんはいつものようにスーツ姿だった。
いつものように感情が読み取れない。
だが俺は驚かなかった。
そして今度こそ問答無用でステータスを開く。
名前 : 遠藤佳菜恵
ヨミ : えんどうかなえ
AGE : 27
職業 : 嘱託カウンセラー
所属 : 警視庁
LV : 45
HP : 198/198
MP : 0/0
STR : 100
INT : 709
DEF : 60
AGI : 79
DEX : 106
LUK : 33
スキル :
カウンセリング : LV127
柔道 : LV34
剣道 : LV32
魔法 :
なし
バッドステータス:
復讐鬼
備考 :
タケルへの暴行
30代だと思ってた……
いや、それはいい。それはいったん置こう。
俺はわかっていた結末に吐き気がした。
……とうとう見つけた。
犯人だ。
そうか柔道家なら絞め殺すこともできるのか。
「なんでしょうか」
俺は言った。
多少警戒して声が固くなっていた。
「お話があります」
遠藤さんは言った。
だろうな。
俺も話があるぜ。
でも今は難しい。
「学校なんですけど」
学業は優先だ。
「それよりも重要です」
ああ、そうかよ!
あくまで俺の受験を邪魔するつもりだな!
神様……マジでぶん殴るからな!
と言いつつ俺は腹を決めた。
「美香、悪い。俺は遠藤さんと出かける。先生には警察に連れて行かれたって行ってくれ」
わざと悪い方に伝えるの術。
なあに悪い方に言えば記録に残りやすい。
それにわざとそう言うことで遠藤さんにプレッシャーがかけられる。
『俺を傷つけても無駄』だとな。
「では行きましょう」
俺は案内されて遠藤さんの車に乗る。
車は上野方面に向かう。
いや、向かう先に意味はないだろう。
俺と話すのが目的だ。
「遠藤さん。少し話しましょう」
「ええ、私もお話ししたことがあります」
「遠藤さん……いえ、鈴木千穂ちゃんのお母さん」
計算は合わない。
なにせ10年前に鈴木千穂ちゃんはは4歳。
遠藤さんは27歳。
13歳の時の子どもだ。
だが可能だ。
そして経歴を汚さない方法はいくつか存在する。
遠藤さんはハンドルをきゅっと握った。
「やはり気づきましたか」
「ボウリング場に現れなければわかりませんでしたよ」
俺があやしいと思ったのは遠藤さんがボウリング場に現れたせいだ。
だっておかしいだろ?
北条が狙われているなんて情報を嘱託のカウンセラーが漏らすのは。
それも俺のいるところに先回りするなんて。
俺は思ったね。
皆川が教えたんだって。
「そうですか……」
「タケルを殺したのは遠藤さん?」
俺は直球で聞いた。
面倒なのは嫌いだ。
「そうよ。私はあの日、彼をスパナで殴った……怖くなって逃げたけどね。ただ一言謝ってくれれば……娘に謝罪してくれれば……」
俺はそれを聞いたとき、とてつもない違和感に襲われた。
おかしくね?
なんかおかしくね?
超おかしくね?
全く話が違うよね?
だってタケルさんの死因って絞殺だぜ。
それも何度も締めて、蘇生までして、生き返らせてからまた殺したんだぜ?
撲殺のはずねえじゃん!
たぶん明日の投稿はできません。
一回お休みします。




